DESIGNWORKS Vol33
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近年の学校建築においては、地域や社会と連携した学校のあり方や、産学協同のキャンパスが様々に展開されています。そこで本号では、「地域社会と新たな環境をつくる教育施設」を主題に、竹中工務店設計部の近作の中から、幼稚園から大学にわたる幅広い教育系施設を特集しました。巻頭のインタビューにおいては、景観計画・地域づくりを専門とされる神戸芸術工科大学の小浦久子教授に「立命館大学大阪いばらきキャンパス」と「神戸海星女子学院中学校・高等学校」をご覧いただき、「まちとつながる学校」と題して、地域と教育施設のこれからの可能性について、お話を伺いました。地域とキャンパス 今回は、「まちとつながる学校」というテーマに関して3つの視点から考えてみたいと思います。1つめは、建物単体のスケールにとどまらず、「都市」や「景観」といった建築物が建つ場所や環境のなかで建築をとらえ直すという視点。2つめは、建築物(ハード)としての建物のみならず、ハードを含めた建物の使われ方(ソフト)をとらえる視点。3つめは、竣工時の建築の評価だけではなく、つくるプロセスや地域での時間の積み重ねを考える視点。これら3つの観点から、学校建築の概念を拡張していく機会にしたいと思います。まずは、「立命館大学大阪いばらきキャンパス」 (以下「立命館」)と「神戸海星女子学院中学校・高等学校」(以下「神戸海星」)をご覧いただいてのご感想をお聞かせください。小浦 これら2つの学校は、規模的にも歴史的にも非常に対照的です。まず、大阪の近郊都市の工場跡地に新たに計画された立命館は、地域に開かれた場所となることをめざしてデザインされ、これから長い年月をかけて、大学という常に人が新陳代謝する特性を生かして地域の多様な活動を生み出す核となっていくことが期待されています。一方で、神戸の六甲山系を背景に、その山裾で数十年前からキャンパスを構えてきた神戸海星は、すでにまちに馴染んでいます。校舎屋上の聖母マリア像は、地域の人々にとってこの場所を象徴するものであり、これからもこの場所にあって都市の歴史的記憶をつなぐ施設であって欲しいと想います。日本では、地域に対して学校が保有する機能を公開し共同利用する取り組みは最近増えていますが、まちとの空間的つながりのデザインには、まだまだ工夫の余地があるように思います。例えば、植栽は緑の環境を提供すると同時に空間を分断する要素になることもあります。立命館の配置計画や建築計画は洗練されており、施設としての機能的クオリティは非常に高いと思いますが、100年先に、大学と地域の関係がどうなっているのか、そこが将来問われることになるでしょう。すでに新設のキャンパスでありながらも、地域の人々がキャンパスを通り抜け、図書館や食堂を利用したりしている風景がみられ、今後の可能性を感じさせます。特に子供たちが居るのがいいですね。大学という場所は、同年代の学生同士が勉強するだけでなく、地域や社会の様々な人との出会いの場であって欲しいと思います。風土や社会を継承する「道」 立命館では、広大な工場跡地の再開発であるにもかかわらず、茨木の歴史的街区を丁寧に読み込み、歴史的なアーバンデザイン※1の基本を継承しています。小浦 「道」は、建築が建て替わっても残ります。道には集落の道のように地形や住まいの集まり方によって自然発生的にできる有機的なかたちの道と、都や城下町のように計画的につくる道があります。京都も1000年以上の時間のなかで、町家が公道に出てきて自然と道が狭くなったり、計画的に街区を割ったりしていますが、平安京の基本街区バターンは継承されています。ところで、新しい立命館が開発されたあたりに都市はあったのでしょうか。茨木城があったとされるのは阪急茨木市駅の西側です。大阪近郊だとだいたい明治20年前後に測量した地図があって、それを見ると近世までの集落の位置がわかります。立命館の南にある溜め池の東、奈良町あたりに古い集落が確認できます。あとは農地です。その後、土地区画整理事業もしていないようです。ただ、茨木市の方から聞いたことがあるのですが、農地の開発が進むときにスプロールしないように大阪府が道の計画線を入れていたそうです。そうした道の計画線が周辺のグリッド状の道のパターンになっているのかもしれません。今の開発は未来の歴史になるわけですから、周辺街区のパターンに着目し、地域の歴史的文脈を計画にとりこむことはとても大事だと思います。建築線と「道」の構築 立命館の場合、100年先にどう残るかという課題に対して、建物だけでなく「道」として残っていく可能性のある計画だと思います。小浦 新設のキャンパスを地域の人が通り抜ける、というところにそのポテンシャルが見えます。通り抜けるということは、キャンパス小浦久子氏に聞くまちとつながる学校Interview立命館大学大阪いばらきキャンパス写真:庄野新茨木の歴史的街区資料提供:小浦久子Interview02
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