DESIGNWORKS Vol33
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あると思います。土木も建築も、構造は力学レベルでは同じはずですが、それぞれに作法が違います。安全率もそうですし、座標系で設計するか、現場合わせが基本とか、それがデザインに現れます。30年近く前、高速道路の高架橋のデザイン検討のとき、スパンをとばすのではなく、細くてたくさんの柱で空間をデザインしたい場所があって、デザインのわかる技術屋さん(土木)か、エンジニアのわかるデザイナー(建築)を入れてほしいとお願いしたのですが、かないませんでした。公共空間に対して、建築サイドからもっと提言があってもよいのではないかと思います。閉じる学校とまちへの開かれ方 街に対する開き方を考える一方で、セキュリティの観点からは、学校を「閉じる」ということも求められます。小浦 池田小学校の事件以来、小学校はどんどん閉じてしまいました。幼稚園は閉じる環境が必要かもしれませんが、小学校は地域で見守り育てる場であったと思います。神戸市は戦災復興で公園と小学校を一体でつくってきましたし、一時は、多くのところでオープン外構の小学校も試みられてきましたが、今は完全に閉じる方向ですね。こうしたときに、安全という意味で閉じつつ、まちに開くデザインを提案するのが建築の仕事だと思います。セキュリティラインの設定のしかたとまちとの接点の建築のつくり方、オープンスペースや共用できる機能の工夫などが考えられます。塀で学校の敷地境界を囲ってしまうのではなく、部分的であっても道に面してファサードを出すだけでもつながるきっかけができるのではないでしょうか。神戸海星の聖母マリア像も、まちに対する「ファサード」の役割を果たしているかもしれませんね。大学は幼稚園や小学校とは違って、地域社会と共用できる機能がありますし、空間的にも機能的にも、まちとのつながり方は地域に応じた選択肢があるように思います。手ざわりの感触 最後に、建設会社としての竹中工務店設計部に対して、今後期待する点がありましたら、お聞かせ願えますか。小浦 働き始めた頃、竹中工務店の人と一緒に仕事をしていて、とても印象的だったのは、「店に帰る」という表現でした、大阪だけのことかもしれませんが。会社は組織ですが、店というと、職人的で現場や施主に近い感じがして、とても新鮮でした。だから、これからも「店」の感覚を持ち続け、「手ざわりの感触」を出してほしい。合理性や効率性だけで割り切ることのない魅力を、今後も継承してほしいと思います。ですから、今回見た建物のように、設計に長い時間かけることも許容される。こうしたことは成熟した都市においてとても大事なことだと思います。これを、次の世代に残していってほしいと思います。 本日はどうもありがとうございました。(聞き手:米正太郎・垣田淳・齊藤康男・奥谷将之)※1 立命館のアーバンデザイン基本計画時に敷地周辺との関係を配慮したキャンパスマスタープランが作成されている。立命館は[設計監修:学校法人立命館キャンパス計画室、基本設計・監理統括・ランドスケープ設計監理:山下設計、設計施工・監理:竹中工務店]にて計画されている。※2 建築線それ以上建築物が突出してはならない道路と敷地の境界線。 日本における建築線制度は、市街地建築物法に初めて採用された。これは1875年にプロシア(プロイセン)が制定した「プロシア建築線法(Fluchtlinien-Gesetz)」の建築線制度を下敷きにしている。※3 オーセンティシティ「真正性」「真実性」。主に建造物の保存、修復において、それらが持つ美的価値や歴史的価値のことをいう。1994年、ユネスコ後援によってオーセンティシティに関する奈良会議が開催され、非西欧文化圏の建築遺産や、無形の行事を中核とした歴史的な遺産などの特性を含める意味で、オーセンティシティを、形態と意匠、材料と材質、用途と機能、伝統と技術、立地と環境、精神と感性、その他内的外的要因が当初から変わらずに保持されつづけているとすることで合意が得られている。小浦 久子(こうら ひさこ)博士(工学)・技術士(都市および地方計画)専門:都市計画・地域計画1981年 大阪大学人間科学部卒 民間建設コンサルタント会社等勤務を経て1992年 大阪大学工学部助手1997年 大阪大学大学院工学研究科准教授2015年 神戸芸術工科大学教授著書 『まとまりの景観デザイン』 (学芸出版社、2008) 『失われた風景を求めて』 (共著・大阪大学出版会、2008) 『未来の景を育てるー地域づくりと文化的景観の保全』 (編著・技報堂出版 、2011) 『3.2 Landscape Literacy and“Good Landscape”in Japan』. In D.Bruns et.al (Eds.), “Landscape Culture ‒ Culturing Landscapes”. Springer. 2015Interview05
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