DESIGNWORKS Vol.39
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Interview02本号では、竹中工務店の近作の中から、学校建築を中心に特集しています。インタビューには、設計者の立場で自身のアトリエを運営しながら、母校で教鞭を執っている安田幸一先生をお招きしました。インタビューに先立ち、「大西学園中・高等学校建替計画」、「甲南高等学校・中学校スポーツ屋内練習場」、「関西大学梅田キャンパス”KANDAI Me RISE”」を視察頂き、学校建築に求められるクオリティとデザインの「在り様」についてお話を伺いました。   視察頂いた作品の感想をお願いします。安田 大西学園中・高等学校建替計画ですが、これは1つの「ザ・竹中」作品ですね。伝統的な竹中大阪の作風はある意味クラシックというのでしょうか、神戸松蔭女子学院大学のような煉瓦造りの勾配屋根を持った、いわゆるキャンパスの雛形のようなイメージを持っています。一方で、竹中東京では竹中技術研究所から引き継がれた真っ白い箱のイメージを継承しているのではないかと思います。これはかなり昔の竹中のイメージを引きずっているかもしれませんが、この作品は誰が見ても現代の竹中作品だと分かる建築だと思いました。しかし、内部空間を体験してびっくりしたのです。校舎のど真ん中に体育館の大空間がシャッターや間仕切りなしで配置されており、廊下を介して教室群が取り囲んでいる平面計画はとても衝撃的でした。これは音環境からしても常識では考えられない平面です。技術とある種の尊敬すべき「勇気」をもって練り上げた作品であると感じました。また、平面の真ん中にあるはずの体育館の空間が、かなり開放的になっているように見えたのは、様々な階と上部から自然光が入ってくることと、巨大な壁面で覆われていない体育館というポーラスな構成ですね。普通の体育館は、プロテクションなどの理由で、壁面主体になるのですが、ここでは良い意味で裏切られている。学校建築の新しいビルディングタイプとして、積極的に提案している姿勢はとてもチャレンジャブルで感銘を受けました。一方で懸念もあって、私が学生だったら綺麗過ぎて息が詰まるかなと。もう少しラフな部分というのか、質実剛健というか、言い方を変えれば落書きしても良い、少しいい加減な部分が残っていた方が学校建築らしいのではと思いました。私も若い頃に学校建築を設計した時に、施主から石膏ボード仕上げの壁は絶対Noと言われました。生徒が蹴飛ばしてすぐ穴が開くからという理由なのですが。ところがこの建物は至るところがボードで綺麗に仕上がっている。今の子ども達は、おとなし過ぎるのじゃないかという心配をするくらい、オフィス空間と見紛うような繊細さを持って仕上がっていることが逆に気になりました。ただし、これは建築についてのコメントというより、社会現象の変化についての心配事かも知れません。甲南高等学校・中学校スポーツ屋内練習場は、気持ちの良い体育施設です。使用されている材料の種類が意図的に厳選されているということに、先ずは大変感心し共感が持てました。一番良いと思ったのは、ゴルフ練習場のネット向こう側に広がる豊かな六甲の森が見えること。森に向かって思い切りスイングが出来るというのは贅沢な空間だなと率直にここの学生が羨ましく思いました。一方、野球の練習場については、避難バルコニーとして設けた横スリットの開口が正面から見て非常に効いてます。夕暮れ時に、透過する壁面を介して2つの練習場に視線のつながりが生まれている写真が、とても印象的です。ディテールの話になりますが、大きな波板と小さな波板の2種類を使っている意味が、実際にエレベーションを見て理解できたし、エントランス辺りに対しても効果的でした。見終わってから感じたことですが、駐車場から階段で上がっていくアプローチが気になりました。それを打破する案としては、ゴルフと野球の2つのボリュームを並置するのではなく、大小関係や上下関係に変化を持たせて、別方向の開口部を開放する手もあり得るか、あるいは1階の駐車場を通らずに、脇の歩行者通路をスロープでつなぎ、直接2階レベルへアプローチする方法もあったのかもしれないと勝手ながら思いました。関西大学梅田キャンパス”KANDAI Me RISE”は、既存の関大キャンパスの持つイメージを踏襲した、スクールカラーを遵守して建てたと説明がありました。しかし、以前別の機会に私は関大の関係する学校建築であることを知らないでこのビルを見てしまったので、まずオフィスビルであると思っていたし、またオフィスであれば大阪瓦斯ビルヂングへのオマージュかなと勘違いしてしまいました。大阪ガスビルは、一見クラシックな趣でありながら、実はしっかりとモダニズムの範疇に入っています。そのような時代を越えて飽きのこない建築を目指したのだと思いました。しかし、そのような息の長い建築という装いも、長く使っていく大学建築には必要な要素と思います。一方で、内部空間は現代的で、安田幸一氏に聞く次代を担う設計者の心構えInterview大西学園中・高等学校建替計画写真:小川重雄神戸松蔭女子学院大学竹中技術研究所写真:小川泰祐

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