DESIGNWORKS Vol.39
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Interview03軽やかな印象でつくっているため、多少外観とのギャップが大きいと感じました。デザイン的なことですが、もう少し、内外に何か関係性があるとさらに良かったという気がします。何よりも大学の姿勢が素晴らしいです。私立大学の戦略的な経営感覚で、梅田駅直近の好立地にここまでしっかりと学生サポート施設をつくっていること自体、とても羨ましいことと感じています。社会人教育も見据えて、学生の起業も支援する動きは、時代の先端を行っています。延べ880名が起業相談で来場、4,600名がイベントに参加して、20名が実際に起業をしたと聞きましたが、この環境を作ったこと自体に大学の強い意志を感じます。そういった正の連鎖が成し得るという魅力的なプログラムと連動した建築であるという視点で非常に感銘を受けました。単に教室で授業のプログラムを提供することだけが、大学教育ではない時代に突入していることを示唆してくれます。髙いレベルでフレキシビリティを保っているという点で、素晴らしいです。新しい改修要求にも即座に応えられます。大学という組織は、ずっと同じ形式では持続できない。時代を大きく反映する組織です。学科がなくなったり新設したりを繰り返し、あるいは定員も変わっていくのです。この建築は、しっかりとこの点を押えていますね。学校建築の未来形について   教育の現場にいらっしゃいますが、これからの学校建築の姿についてお話し下さい。安田 実は最近、東工大では60年後のキャンパスマスタープランを作成したのですが、大きな軍艦みたいな校舎を提案したのです。既存の大きな本館があるのですが、その後ろ側に第二本館という建物を建てて、どんな学科の再編があっても、どんな人数の増減があっても、あるいは研究室から実験室へ用途が変わっても改修に対応できる柔軟性を持った校舎の絵を描きました。要するに平面と階高を大きくして、ルイス・カーンサーブド&サーバントのような構成が明確かつフレキシブルな建築で、内部空間は無柱で大きな気積を確保しているという理想の学校建築です。ただこれが60年後の未来の話だから、誰が設計するかは分からないのですけどね。将来は研究室もグループワーク形式になると思います。今みたいな学生の研究室があって、その横にたくさんの小さい部屋があって教授がいる、という古いスタイルは少なくなってくると思います。会議室だけは個別に設ける必要がありますけれど。段々と大部屋スタイルになってきて、学生と教授が同じ部屋にいる。その中にはたくさんの島があって、研究内容の変化によっては「ここまではA研究室の島だけど、明日からはここから先はB研究室が使用する」とか。文学系はまた話が違うでしょうが、特に理工学系はそういう融通が利く使われ方になっていく方向になると感じています。これからの時代、大学校舎に限らずですが、建築のビルディングタイプというもの自体が、どんどん消えゆくことになっていくと考えています。8mグリッドの普通の小学校建築をリノベーションして様々なプログラムに転用する例をよく見かけます。小学校建築がリノベーションに向いているのは、スパンが飛んでいて階高が高いからです。広さと共に天井高も3mあったので改修には向いています。余裕を持った大空間だと何にでも転用が可能です。普通のマンションから別の用途へ転用するのは、そのフレキシビリティの低さからほとんど不可能です。将来は、面積も重要ですが、高さの方がより重要です。今の学校建築はみんな改修できないくらい階高と天井高が低いので、化学系の研究室ではドラフトチャンバーが納まらない。結果、窓際に太いダクトが並び、劣悪な風景になってしまうのです。ですので、これからの学校建築の在り方として、「豊かな高さ」が大事になっていくのだろうと思っています。最近、京都の私立大学で設計した図書館が完成したのですが、図書館と言いながら実は何へでも転用できるように設計しています。当然そんなことは全く要求されていないのですが、将来用途が変わっていくいざという時に備えています。新築の時から改修を考えています。少子化が更に進むと、スペース的にはもっと余裕が出て建物を集約することもあり、またプログラムを変更・更新する機会が増えていった時に、別用途へ転用できることに校舎の意味があると思います。これからはマイナス成長の時代ですし、情報化社会がますます進むと図書館から本が消える日も来るかもしれません。また、大学の授業にも変化の波が訪れていて、ネット配信の授業が盛んです。東工大では一昨年、建築史家のディビッド・スチュアート先生がウェブの授業を作りました。そうしたら世界中から数十万人のアクセスがあって、結果として数万人の方々が単位を取得するべく受講しています。英語でのサイトですので、受講生の割合は海外の方が圧倒的多数を占めています。このような時代になってくると、実は校舎は必要なくなっていきます。そうすると、甲南高等学校・中学校屋内運動施設写真:堀内広治阪急不動産鶴野町関大サテライトキャンパス写真:母蔵知樹大阪瓦斯ビルヂング (1933年竣工)設計:安井武雄

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