DESIGNWORKS Vol.39
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Interview05安田 私は、見積合わせの時にいつも所長面談をします。雑談も交えて1時間くらい喋れば、所長が施工に対してどのような意気込みで取り組んでくださるか、技術面での確認もさせていただきますが、主には建築に対してどう考えているのかお人柄を知りたいのです。所長は自分のつくってきたものに対していろいろ話をしてくれるのですけど、そのうまくいった時にどういう人と、あるいはメーカーさんと付き合ってきたかとか色々聞きます。そういう経験も細かく聞いていくと、大変失礼ながら、この人はスケジュール管理に厳しい人だとか、品質のコントロールが上手くできそうだとか安心感に繋がります。建築の良し悪しを左右するのは、かなり所長の力量に左右されます。だからあまり現場でトラブルにならない筈なんだけど、やっぱりトラブルになるんですね。(笑)コストと品質コントロールの両立は難しいです。作業所長の下の次席の方のお人柄もとっても大事です。施工図を前にして、色々なディテールの話とかを現場で話をする時に、「これはこういう方針で納めたい」と考え方を説明します。そうすると次席の方は、設計者の意図を理解し、その後の施工図についても一気通貫で少しずつこの建築がめざしている方向に修正されて出てくる、という正のサイクルにつながることが一番理想ですね。しかし、それは設計者側の説明が足りなかったり、なかなか簡単なことではありません。結局、打合せの度に毎回同じことを言っている現場もありますけどね。ポーラ美術館の時は、たまたま現場の次席が、設計チームの次席と大学の同級生だったのです。そのおかげで、設計者の意図と施工者の意図が一致して上手くいきました。やはり、お互いに信頼関係を持ってそれぞれの役割を果たすことは、良質な建築をつくる上でとても大切だと思います。   それでは最後に、竹中工務店の作品について、これからの可能性や設計者に期待することなどコメントを頂ければと思います。安田 竹中工務店の設計部って「ずるい」よね。(笑)何も言わなくとも、施工は竹中工務店がやってくれるわけです。市井の建築設計事務所はみんな、竹中に施工してもらうのが夢であるようなものだから。常に竹中施工であることは、それだけでアドバンテージというか、それで良い作品ができなかったらおかしいよなってことを、まずは認識して欲しいです。その中で、竹中がもっている品質の高さ、それは施工のレベルのことだけではなくて、当然設計のレベルが高くあるべきで、組織はその高さを保持していって欲しいと、私は願っています。竹中が本来持っている作品から滲み出る気品と、都市を創っているという自負が、昔の竹中にはもっと明快であった気もします。梅田駅前を本日歩いていて、阪急グループの駅前ビルなどを見ているとやはり感動します。施主が変わり、社会が変わったのかもしれないですが、現代的で自由な印象の街並みではなく、しっかりと質実剛健な街を創っていくようなイメージです。そしてそれが高い施工技術で完成しているというのが、私が考える竹中作品の理想です。アトリエ建築家がやりそうなことを、竹中はあえて設計しなくて良いじゃないのかなと思うし、さらにはそういうものは設計しないでいて欲しいなと思っています。建った当初からですが、私は大手センタービルが大好きで、あの前に立つと今でも痺れます。「ザ・竹中」の代表作だと思っていて、モダニズムの神髄みたいなのをシンプルに、かつ美しくつくり込んでいる。決して派手ではないが、サッシュや空調技術などプロ好みのディテールが、大手センタービルで生まれました。そんな建築を竹中はこれからも設計していって欲しいと思います。軽くて品が良くて、きちっと角が立っているような作品を建築界に遺していって欲しいです。そういう高いクオリティを守っている、あるいは守っていける設計施工の会社は、なかなか少なくなってきているので、竹中の社会的な役割もますます大きくなっていると感じています。是非、竹中が時代を超えてつくってきた江戸時代からの精神をこれからも末長く引き継いでいって頂きたいと思います。   本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則・米正太郎・千賀順・松澤広樹・齊藤康男・水野裕太・宮本聡子)大手センタービル (1983年竣工)安田 幸一(やすだ こういち)/東京工業大学教授・安田アトリエ主宰1958年1981年1983年1983-02年1989年1988-91年2002年2007年-受賞歴2003年2004年2009年2009年2010年2013年2014年2016年神奈川県生まれ東京工業大学卒業東京工業大学大学院修了日建設計勤務イェール大学大学院修了バーナード・チュミ・アーキテクツ・ニューヨーク勤務東京工業大学准教授、安田アトリエ設立東京工業大学教授「ポーラ美術館」村野藤吾賞Dupont Benedictus Awards(AIA/UIA)最優秀賞「ポーラ美術館」日本建築学会賞「東京工業大学緑が丘1号館レトロフィット」日本建築学会作品選奨・グッドデザイン金賞「TOTOレストルームアイテム01」グッドデザイン金賞(通産大臣賞)「東京急行大岡山駅上東急病院」日本建築家協会建築環境賞優秀賞「東京工業大学附属図書館」日本建築学会作品選奨、BCS賞「小石川の住宅 (「私たちの家」改修)」日本建築家協会25年賞「[[[cell]]]」日本建築家協会建築環境賞最優秀賞

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