DESIGNWORKS Vol40
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Interview07Rプロジェクト:壁面は壁面角度Θや吹抜けの中心位置XY・半径Rを変数として、昼光利用評価(Useful Daylight Index)が最大となるように、室内光環境を最適化を行っている。ターがあることによって、解釈を無くしたり、最適化に移行する一つの答えを出すのではなくて、いろんな形の答えに対応できるような、そういう多様性を増やす事は、コンピューターが一番力強いんではないかと考えています。ちょっと話がずれますけど、私は高校の時、カナダに住んでいたのですが、タイプしないとレポートを受け付けてくれなかったんです。昔の機械でタイプをして文章を作る時って、ある程度作文をしてからタイプライターでタイプしていましたけど、間違えると消すのが大変でした。というわけで全部最初に手書きで書いてから打つみたいなことをしていました。けれども今は、タイプしながらなにを書こうかなと最初は分かっていないけれども、タイプしていると、あ、こうなのかみたいな、書きながら考える。書きながらいろんな構成を考えながら、最初に書いた文章が一番最後に来るとか、そういうことってあるじゃないですか、書かないと頭が働かないというのと、書きながら考える事が多いです。建築においても設計者だけでなく施工も同様につくりながら考えられるというのは、私としては理想というか夢というか、建築はこういう風に出来ると最終的には一番サステイナブルではないかなと思います。建築は医学におけるコンピューターの使い方のように、この薬をこうすれば人体にどのような影響が出ていくといった技術開発のように、人にとって生きるか死ぬかみたいなものとは異なり、建築の枠組みは懐がもう少し広いように思います。安全安心に対する視点はもちろん建築もありますが、技術の視点が少し異なり、もう少し人間の許容範囲が大きいところが良いところなのです。ただ、その分伝統とか文化とか歴史とかいうものが、きちんと継承されていく必要があると感じます。現代の社会では、愛着が無いから建物の一部が虫に食われているので「もう解体!」ということになってしまっていることが多いように思います。愛着があって心のこもっている建物であれば、長く使うと思うので、長く使い続けることが一番環境というかエコにいいんのではないかなと思います。今は愛情が無いから、どうやったらコストを節約できるかというところに行き着いてしまうけれども、ちゃんと長く使えるものをつくることができて、人と建物との間に、ある種人間味のある関係性を作ることができればよいのです。   当社は2015年、先生と一緒にリアルタイムの設計施工と言える、人が空間に対して自由に造形を描けるパビリオン(TOCA)のプロジェクトをやらせていただきました。そのような関係性で設計者と施工者、そして建築主が繋がれるということでしょうか。おそらく施工者もそうでしょうし、使い手の建築主もそうですが、最終的に人は矛盾した生き物なんで、コンピューターでは最適化された一つの答えを出す精度というものが出ないのではと思います。という点でも建物のスケールによってコンピューターの使い方が異なると思いますが、一緒になってつくりながら考えられるというのはすごく贅沢であり、もしかしたらある種の豊かさがある。つくること自体が楽しいし、つくることが楽しいから愛着が湧くというか、自分の手が何かしら加わった嬉しさを持つ建物をつくれるのではと考えています。たとえば私の祖母の家に行くとその家の歴史があるわけです。おばあちゃんがいておじいちゃんがいて、そういう愛着や関わった想い出があるというのは、商品には代えられないものがあります。つくりながら考えられる経験は、贅沢だし、コンピューターをうまく使えば出来るのかなと思いますよね。竹中工務店で現在取り組まれているRプロジェクトをお伺いしていても、コンピュテーショナルデザインによって設計者と建築主のよりよい関係を強化し、想いをかたちにしていく重要なコミュニケーションツールとなっていると感じました。コンピュテーショナルデザインを使って、最先端のデザインの話をしているつもりでしたが、実は竹中工務店にとっては、宮大工から続く設計施工ならではの伝統的な気風を活かしながら、建築を実現するための強力なサポートツールこそがコンピューターなのではないでしょうか。   本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷和則・米正太郎・花岡郁哉・翁長元・福西英知・千賀順・鈴晃樹・鎌谷潤・ユ アイザック・杉山哲也)小渕 祐介(おぶち ゆうすけ)/東京大学准教授 工学博士1991年1991-95年 1997年1999年2002年2002-03年2005-10年2010-16年2016年-著書トロント大学建築学科修了Roto Architects設計事務所南カリフォルニア建築大学卒業東京大学にて博士(工学)プリンストン大学大学院修士課程修了RUR Architecture設計事務所ニュージャージー工科大学建築学科非常勤講師AAスクールデザインリサーチラボ ディレクター東京大学建築学専攻特任准教授東京大学建築学専攻准教授『2025年の建築 「七つの予言」』(共同執筆、日経BP社、2014)『T_ADS TEXTS 01 これからの建築理論』(共同執筆、東京大学出版会、2014)『T_ADS TEXTS 02 もがく建築家、理論を考える』(共同執筆、東京大学出版会、2017)

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