DESIGNWORKS Vol41
5/36
Interview03り方にすごく大事なことだと改めて感じました。伊藤 名古屋の街は江戸時代の初期に作られて、400年ちょっと経ってるんだけど、栄の中心市街地って正方形街区なんですよね。街区の真ん中が会所地※1でオープンスペースになっている。昔は通風・採光のため、空けておくべき場所だった。家康がつくった江戸、駿府、名古屋などの最初の都市計画の街ってみんなそうなっているんだけど、竹中工務店設計施工のクロイゾンスクエアってまさにその会所地の部分を利用している。外から見ると小ちゃい建物みたいでよくわかんないけれど、中に入ると会所地のスペースがそのまま屋外空間(中庭)として活かされている。あれはまさに名古屋の街の都市構造をちゃんと建築にしてる。駅の話もそうだけど、街が元々持っていた名古屋特有の空間構造を継承しながら次に渡せて行けたりするとすごくいいなと思いますね。 新幹線の車窓からの見え方は名古屋の街の印象をつくっていると感じます。リニアモーターカー駅周辺の街並み委員を担当されていて、何かお考えはありますでしょうか?伊藤 新幹線から見える風景っていうのは重要な指摘で、新幹線の駅のプラットホームから街が直接見える駅ってたぶん名古屋しかないですよね。名古屋駅は駅の西側プラットホームを降りると、街が全部見える。建物が上の方だけ見えてるのではなくて、街がこうパーッと見えるし、逆に街からも新幹線が駅に停まっているのが見える。東京駅、大阪駅は、中に入れば新幹線が見えるけど、街からは見えない。名古屋では街から新幹線が見えていて、自分はこれからあれに乗って遠くへ行くぞって気持ちになる。また、到着したときに新幹線降りたら、街の風景が見えているのはすごく重要な資源だと思うんですよ。そういう今持っているポテンシャルをつぶさない方向で考えないといけない。建築は社会に対して責任も持っていて、一回建つと何十年もそこにあって環境を規定してしまうものだからこそ、きちっと社会的な部分も含めてつくっていくべきと考えています。 そこに持ってる重要な「資源」というのは、場の持っている力を、うまく活かしていくという意味でしょうか?伊藤 そう、ポテンシャルです。今あんまりよくないかもしれないけど「潜在的に」何か持ってる場所の力とか空間の力、設計する人間はそれを読み取って実現する建築に活かしていくことが重要かな。だからクロイゾンスクエアなんかはホントにいい例だと思うし、栄のラシックという商業ビルも面白い建築だと思います。そこはもともと小さいお寺があって、あとはまわりのデパートが使う立体駐車場かなんかだったんです。14年くらい前かな。で、結局建替えたんだけど、ラシックの真ん中のボイド空間も会所地の再解釈だなと僕は思っています。街区丸々一個分のボリュームのある建築なんだけど、内部の真ん中が大きな吹抜けになっていて、もともとあった街の中のオープンなスペースを、建築のボリュームの中にもう一回創られていると言うことだなと思った。建替工事中は街の中にある微妙な屋外空間が無くなって残念だなと感じていましたけれど、できあがったものには良い意味で期待を裏切られました。クロイゾンスクエアとかラシックのように既存の街が持っていた空間構造を再解釈して建築空間として実現するという試みはとてもいいことだなと。 設計されるときに土地の持っているポテンシャルや歴史、そういうことを読み込んで、そのなかの何を引き上げるかみたいなことを考えて取り組まれてるのでしょうか。伊藤 その時にコンテクストがハッキリしている場所、つまりもともとのコンテクストにポテンシャルがある場所だと、それをどう読んで建築とするかを考える。例えばクロイゾンスクエアのようなアプローチをする。一方、グローバルゲートの建つ笹島のような場所は、元々のポテンシャルが低い、あるいはコンテクストに明瞭さが無い。そのようなところでは逆に建築が新しいコンセプトをつくらなきゃいけないので、それが建築の方に論理がいる。いずれにしろモノをつくる時にはある種の論理がいるんだけど、それがサイトオリエンテッドな論理なのか、サイトに期待できないから建築の方で何かをつくらなきゃいけないのか。自分自身は実はサイトを読み込んでやる方が好きなような気がしてるんですけど、そういう条件ばかりでもないので、建築独自の論理がいる時はちょっと緊張しますよね。なんかゼロから提案しなきゃという緊張感。よりどころが無いから、設計者の方でこうだって言える、これができるからあとでこう波及できるみたいな。建築の側から新しいコンテクストを、つくっていく必要がある。クロイゾンスクエアラシック
元のページ
../index.html#5