DESIGNWORKS Vol41
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Interview04 独自の論理をつくっていくときの価値基準として、先生の中で意識されてる優先指標はなんでしょうか。伊藤 コンテクストがあるところではもちろんそれを読み込んだ方がいい。それが希薄だったり、以前から持っていたアイデアがドンピシャはまるみたいな条件のときがあると、建築独自の論理が出てくることがありますね。コンペに負け続けている間に溜まったアイデアが蘇ってくる。数年前に町田市の工芸美術館コンペで勝ったんですけど、それまで興味を持っていた「映りこむようなファサード」と「立体的な回遊性」のある空間構造がプログラムに合っていたのです。たまたま高低差がある敷地で上と下を住民が建物の中を抜けてけられるような美術館にすることが要項にあったので、シメたっ!と思った。今まで考えていたことがハマるぞ、と。だから優先指標というよりはそれまでにやってきて溜まっていたことが、ブワッと出てくるようなことはありますよね。竹中に施工していただいた淑徳大学8号棟という建物があるんですけど、完全に4mスパンのメカニカルな建築なのです。昔の言葉で言うとハイテク建築みたいなものに対するシンパシーなんかも結構僕はあって、判断基準というよりもなんか自分の中で興味が持てること、建築家的欲望みたいなものが溜まっていてそれが突然出てくる、そういうのもあるような気がしますね。 名古屋で他に特徴的なオリジナリティや、ポテンシャルがあれば教えてください。伊藤 戦災を免れた部分も残っています。それが今かなり高いポテンシャルがあると思います。名古屋でいうと、四間道から円頓寺にかけてのあたりは、昔の江戸時代からの蔵や屋敷もそれなりに残ってるし、円頓寺の商店街も一時すたれましたけど、地元に非常に面倒見のいい建築家がいまして、その人がずっと商店街に付き合っているんです。お店で古い建物が出ると、壊さないでっていう話をして、そこに入るテナントも探してきてというのを、この十数年やってる方がいらっしゃって、その人の力は凄く大きいんです。 キーマンがいるわけですね。伊藤 市原正人さんです。商店街の人たちも真剣になってきて、古い商店街なので、一時シャッター商店街化しかかってたのが、最近ちょっと戻ってきています。外国人の方が泊まるようなホステルもできて、バックパッカーがそこに泊まりに来るというのもあります。あと僕の事務所がある大須も非常に活気がある。まあ大須は浅草と秋葉原が一緒になったような感じのところです。誰か継承してゆく人、キーマンがいるかいないかってすごく大きいです。最後はハードの部分だけではどうにもならないと思うので、ソフトというか運用の部分がうまくかみ合わない限り、いい部分っていうのが継承されていかないんだと思うんですよね。街の楽しさだとか豊かさの部分に対して。だから読み込むべきコンテクストがあるところはそれをうまく活用していけばいいけど、そうでないところについてそれをきちんとつくる役割が建築家や都市づくりに携わる人たちにはあります。そういう運用を含めてデザインとしてきちんと提案できているかどうかが街づくりに大切なんじゃないかな。名古屋駅が持ってるポテンシャルと四間道が持ってるポテンシャルはスケールも何も違うわけだけど、やっぱり都市のポテンシャルを捉えるという意味では同じ文脈なのだと思います。 都市をつくることはキャンパス計画にも非常に近いところがあると思います。その分野の設計を実践する際に、心がけてこられてることはありますか?伊藤 ありますね。結局境界のつくり方だと思ってるんです。いろいろなアクティビティが混じり合うのは境界面でのインターフェースが重要じゃないかと。先程話題に出たグローバルゲートのファサードも、単純に言えば人の出入りができることで、内外のインターフェースができることになる。その境界のつくり方、例えばヨーロッパのいわゆる広場/プラザは、まわりにカフェやレストランが入っていて、中と外の出入りがありますよね。あれはまさしく建築内外のインターフェースが構築されているのだと思います。大学のキャンパスもインターフェースが重要だと思っていて、例えばお茶の水では昔の日本大学も明治大学も割と自由に入れた感じがしたんです。名古屋だと名古屋大学はすごくいいなと思ってて、槇先生の豊田講堂に行くときも門も塀もなにもないんです。どこからでも入ってどこからでも通り抜けができます。東京大学の赤門は通りづらいじゃないですか、守衛さんいるし。なんか勝手に入るのはちょっとなって思う。でも名古屋大学のキャンパスは計画的にもなかなか珍しい。建築はこの境界面をどれだけルーズにできるか、ということが結構重要じゃないかな。愛知淑徳大学9号棟写真:シーラカンスアンドアソシエイツ町田工芸美術館写真:シーラカンスアンドアソシエイツ尾鷲小学校写真:シーラカンスアンドアソシエイツ
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