DESIGNWORKS_Vol44
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Interview04られていた建物を一時的、より流動的に考えるようになった時、もう少し違う経験としての建築のあり方があるように思います。僕の知り合いでディズニーに勤めている人がいますが、彼らがエンターティメント空間に費やすテクノロジーは途方もないんです。もちろんテーマパークをデザインするのも面白いですが、彼らは場所にとらわれず、様々な時空に開かれた経験をデザインしようとしています。教え子には、建築の空間経験とは違いますが、この経験をデザインする方に行く学生も増えてきました。映画製作もそのひとつで、多くの学生たちが映画の中の様々な世界、異世界の都市や、実存しないその映画のための建築をデザインしています。デジタルな偽の世界を作るわけですが、建築出身者が多いそうです。ある閉じたストーリー設定の中でリアリティをつくるためには、いろんな多様な要素を組み上げながら仮想の現実らしさをまとめる必要があり、建築のトレーニングを受けた人材が向いているようです。建築を物理的な構築からこうした経験の構築にまで広げて考えていくことが必要なのではないかと考えています。多様な要素を統合してひとつのリアリティを創るための知識としての建築像です。面白い時代だなと思う反面、僕らの世代ではまだ難しいのではないかという思いもあります。 働くこととコミュニティ 仮想空間でのつながりが増えた反面で、第3の場所としての実空間でのつながりを求めている人が増えている気がしています。阿部 働くことと住むことが再び融合してきたとき、どんな事象を引き起こすのかについて僕らが興味を持っているのは、ビルディングタイプや既成の枠組みがどのようにシフトしてくるのかという点と、そこから新しいコミュニティというものが立ち上がるのではないかという点です。近代以降に働くことと住むことを切り離したとき、地縁型・血縁型のコミュニティが解体して、嗜好を共有するテーマ型コミュニティに移行します。そうなると、一緒に住むおじいちゃんと孫は嗜好を共有できないわけですから、同じコミュニティに属さなくなってしまうというように、いわゆる古典的な地縁型・血縁型のコミュニティの解体が進んでいくことになります。その中で、地縁型・血縁型のコミュニティが依代としていた場所性も希薄化していくことになります。テーマ型コミュニティの推進が、現在の都市の隆盛と地方の衰退の原因です。しかし今、「働く」を接着剤にして、新たなコミュニティがもう1回場所と結びついて立ち上がり始めたと考えています。コワーキングスペースが第3の場所と呼ばれるのは、それが住まいでもなく、職場でもないからです。そこは、何らかの興味や価値観を共有する人たちの対話や協働の場であり、場所を媒介とする地縁型コミュニティと興味を媒介とするテーマ型コミュニティのハイブリッドともいうべき新たなコミュニティの拠点です。このハイブリッド型コミュニティは、地縁型コミュニティと異なり、居住地や働く場所に縛られない流動性を持ち、またテーマ型コミュニティとも異なって、場所を通じた人と人とのコミュニケーションを生み出す、双方の性格を併せ持ちます。こうなってくると、やっぱり暮らし方も変わりますよね。そして街の作り方や建物の作り方も変わっていくと思っています。今カリフォルニアで様々にコワーキングスペースが立ち上がっていますが、やはりコミュニティの形成が重要な要素であり、様々な形態のコミュニティが試みられています。また、Weworkやクロスキャンパス※9のような典型的なコワーキングスペースでは、様々なイベントを企画して、コミュニティを強化していこうとしています。伝統的なメンバーズクラブに近い、ノエハウスでは様々な業界で活躍する人たちを集めて、一緒にプロジェクトを立ち上げたりしつつ、クリエイティブな共同体をつくろうとしています。コスチュームデザイナーのリタ・リッグスが始めたサロンを起源とするリタハウス※10のように、特定の価値観の共有を売りとしていくような場所もあります。他には、ハッチェリープレイス※11というシナリオライターのための大きな住宅のようなコワーキングでは、静かにしなきゃいけないとか他では考えにくい独自のルールがある場所もあります。コミュニティの性格によって環境が独自のものになっていくので、様々な第3の場所が出てくるんでしょうね。そんな多様な場所が集まる街はどういうものなのか?考えてしまいますね。 BIM※12とグローバルプラットフォーム デジタルなデザインという話がありましたが、BIMについてはどのようにお考えでしょうか。阿部 ベータの方が優れていると言われていながらVHSの方が勝ったのは、要はみんなが使ったからだという話は有名だと思いますが、技術が優れてる方が常に勝つわけではなくて、※11 ハッチェリープレイスカリフォルニア州ハリウッドにあるシナリオライター達のための静かなコワーキングスペース。住宅地にある住宅と倉庫を組み合わせた空間。2014年竣工※12 BIMBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略。一般に建物形状、空間関係、地理情報、建物部材の数量や特性を含んだ3次元のモデリングを指す。建物のライフサイクルにおいてそのデータを構築管理することで建物設計および建設の生産性を向上させることを目的とする。※9 クロスキャンパス2012年に設立されたコワーキングスペース。コミュニティイベントに力を入れている。ロスアンゼルスに5箇所展開している。※10 リタハウスセットデザインのためのスタジオを改装した、仕事と交流のためのメンバー制コワーキングスペース。改装の設計をしたEnclosures Architectsが、そのままそこで仕事をしている。クロスキャンパス
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