DESIGNWORKS_Vol47
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Interview02画像データをお送りください。本号は、宿泊施設をテーマに特集を組んでいます。高台寺に隣接する伝統的建築物群保存地区に建つ京都東山計画(山荘 京大和・パーク ハイアット 京都)(以下東山計画)と、なんば日本橋に建つ旧百貨店をコンバージョンした高島屋東別館(シタディーンなんば大阪)を視察し、京都や大阪の都市的文脈について、また、その都市ならではの継承するべき歴史性や伝統といった観点から、石田潤一郎先生にお話を伺いました。   視察いただいた「東山計画」と「高島屋東別館」の2作品について感想をお聞かせください。石田 「東山計画」は、京都東山の歴史的景観が守るべき前提としてあり、その景観に対して、新しい建物をいかに融合させるのかという点が設計上のポイントですよね。一方、都心部に立地する「高島屋東別館」は、旧百貨店であった近代建築自体が守るべき歴史的価値であり、そこにホテルという新しい用途をどう入れ込むかが、課題だったと思います。歴史的景観と歴史的建築という差異はあるにしても、設計に先立って存在する“守るべき文脈”がある点では共通しています。「異物」とどう共存するかは、実は現代建築の一般的な手法では容易に解けない課題なんです。そこを設計者としてどのように解釈し、解決していったのかがとても重要です。歴史的景観や歴史的建築を単に保存するだけではなく、いかに活用するのかという視点は、文化財保護法が活用の方向で最近改正されたことと併せ、私自身も常に考えていることです。設計者が、歴史的価値あるものを扱う上で重要なことは、一般の新築の際の手法にも、また旧来の凍結的な保存での価値観にもとらわれるのではなく、設計者としての立ち位置を、設計者自らがそのつど考えることだと思います。その点で、本日の2つの事例を非常に興味深く拝見しました。   歴史的景観の保存に対する設計者の姿勢として、「東山計画」はどのように感じられましたか。石田 「東山計画」の宿泊棟は、近景としての庭、遠景としての京都の歴史的景観と連続していました。特に、法観寺の五重の塔(八坂の塔)に対するヴィスタを基本軸として、建物が計画されています。いやむしろ、新しい建物が、五重の塔に対するヴィスタを新たに創造している、と言うべきでしょうか。また、高低差のある建物ではありますが、どの高さにある室内からも、近景の庭だけではなく、遠景の八坂の塔、鴨川、京都市街を超えて、向こうの西山まで見えてくる。盆地の傾斜部分に建設されているということもあり、寺社の枯山水庭園や、町家の坪庭に代表されるような庭の景観とは異なる、新しい京都の遠景が発見されている。風景というよりは、地形を眺めている感じがしました。そこでの建築と景観の関係は、調和というよりも、まちと対峙しているという印象を受けました。そこで思い出されたのが、磯崎新氏が、近代建築家の堀口捨己※1について論じたテキストです。堀口は日本にモダニズム建築を導入したと言われているけれども、堀口の住宅建築には、インターナショナル・スタイルの最大の要件である空間のヴォリュームというものが欠けていて、数寄屋建築のように空間は水平に流れ出して庭と一体化してしまう。彼の作品は、立面は西欧の近代建築に似ているけれども空間構成は別物だ、と磯崎氏は述べています。西欧的な近代建築は空間の概念を変革したのだけれども、堀口はそこに目を向けていない、と。この論旨に沿って言えば、「東山計画」は京都盆地に流れ出していくわけではなくて、ヴォリュームとして対峙していると見ました。守る価値と生かす価値を見極める   「東山計画」では、日本の伝統建築とは異なる姿勢が感じられたのですね。石田 一見和風ではあるけれども、近代建築特有の抽象度の高い内部空間がしっかりとつくられている。一方で、大きなガラス開口をいわば額縁として、京都東山の固有の景観がしっかりと取り込まれている。内部空間と外部空間がそれぞれ自立して、対峙している。その意味で、「東山計画」は、いわゆる日本の伝統建築の境界の曖昧さとは異なる質が、設計の過程で獲得されていて、その点が面白いと思いました。   客室天井面は、外部屋根が室内に入り込んだ表現となっています。京都の遠景を楽しむためのガラス開口は、フルハイトかつサッシュレスを採用しています。石田 茶室に象徴されるような伝統建築のように、小さなスケールで空間を構成するのか、現代的に要素を単純化してしまうのか。つまり柱や長押などによって開口部を細かく分節するのか、そのようなディテールをあえて省略するのかは和風建築の形態操作で最大の岐路です。「東山計画」では、そこで現代的な手法が基調と石田潤一郎氏に聞く歴史的な景観と建築の保存と活用Interview東山計画写真:ナカサアンドパートナーズ高島屋東別館写真:ナカサアンドパートナーズ

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