DESIGNWORKS_Vol47
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Interview03なっていますね。今後、現代建築で伝統的な表現が求められる際には、やはり、設計者がどのように歴史的景観を解釈し、寄り添い、調停・解決していくのかが、非常に重要になってきます。その点で参照すべき多くの手法が盛り込まれていると感じました。   伝統的な表現が求められる現代建築という点において、竹中工務店設計部ならではの表現方法はみられましたでしょうか。石田 そうですね。伝統に沿うだけであれば簡単なのかもしれないけれど、あえてやらないという点が、竹中工務店の挑戦的な点だと思います。一般的に「日本的と受け取られている建築のスタンダードを継承するという意識ではなく、モダニズムを追求する、現代性を追求するという意識が根底にあり続けていると思います。伝統を踏まえつつ、そこから敢えて踏み込むという意識ですね。例えば、聴竹居の設計において藤井厚二※2は、和室の床レベルを上げて洋室との視点のレベルを揃えている。伝統的な日本建築と、西洋建築あるいは近代建築をいかに調停するのかという問題意識を持ち続けていました。「東山計画」でも、長い通路の壁の端から端までの足元に水平スリット窓を設けていました。直線的な地窓から光が煌めく通路は、特に西洋の人にとってはかなり新鮮な空間体験だと思います。活用される文化財のあり方を考える―――歴史的価値のある近代建築を遺し、コンバージョンするという「高島屋東別館」の取り組みについて、どのようにお考えですか。石田 文化財保護法にもとづく文化財の保存に関して、文化庁としても近年方針が改められつつあります。これまでのように単に保存するだけでは維持そのものが困難な場合が出てきかねないため、新しい役割を与えて積極的に活用していく枠組みがつくられてきました。文化財として価値があるというだけでなく、施設として役に立つ、さらにはそこから利潤が得られる存在にできる道筋をつくろうと。ただ、活用というものは本質的に、保存とは逆ベクトルです。保存は「過去」をできるだけ損なわずに未来に手渡そうという行為なのですが、未来に向けて活用を考えようとすると、どうしても「現在」の価値観や技術で過去を改変せざるを得なくなる。その折り合いが非常に難しいわけです。外観だけでも保存できれば良しとするのか、建物に込められた歴史的な素材や技術や記憶までが保存されなければ意味がないと考えるのか、私自身もいつも判断を迫られている点です。「高島屋東別館」の場合は、将来的に文化財指定を受けることも視野に収めつつ、既存建築の設計者である鈴木禎次※3による意匠的側面、さらには技術、素材、歴史の記憶も含め、うまく保存され、活かされているのではないかと思いました。また、例えば内部階段の部分などで、現行法規にも適合させつつ、将来的な法改正にも対応できるように改修計画されている点も、非常に面白いと感じました。やはり法規の問題は非常に深刻で、一般的には、現行法規に適合させようとすると古い建物を残すことが煩わしくなり、結局解体されることが多いのです。「高島屋東別館」のような成功例を積み重ねて、企業として社内的にノウハウを蓄積することが、重要だと思いました。ホテルの場合、建築関連法規だけでなく、旅館業法などがあって、要求される水準が厳しいですよね。したがって、歴史的建築物をホテルとして活用しようとすると、どうしても既存建築物を大幅に改造しなければならない。にもかかわらず、「高島屋東別館」では、鈴木禎次による濃密な意匠を、ホテルとして保存、活用することに成功している。これも設計者の力量ですよね。ただ個人的には、もう少し歴史的部分に重心を置くこともありえたかとも思いました。とはいえ、2階の百貨店のアーチが、ホテルの客室の窓になっている部分など、新しい第三の価値が創造されていて、面白いですよね。東京であれば、経済原理によって事業スキームが成立しなければ、歴史的建築物は解体されることが多いのですが、大阪の場合はそこまでシビアでないためか、「高島屋東別館」のように大きなスケールの建物でも、新しい用途で活用される可能性があります。   「高島屋東別館」の場合、ホテルだけでなく、自社オフィスとして、活用されています。石田 これまでの保存再生事例を見てみると、保存してみたら多くの人が来館する効果があった、あるいは元の姿を保存する良さが所有者も分かってきたということから、より保存の度合いを高めていこう、別の使い方を考えてみようというふうに好転したケースがいくつかあります。高島屋さんにもそこは期待したいです。文化財保護法の改正と言いましたけれども、そこでは、文化財の活用に踏み込むことと並行して、「保存活用計画」というものを所有者に予め作成してもらい、将来的にどういう活用をしていくのかを策定しておくことが制度化された点も大事です。例えば「今はこのままこういう形で保存を図るけど、先々ここはやっ聴竹居

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