DESIGNWORKS_Vol47
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Interview04画像データをお送りください。ぱり手を入れたい」とか、あるいは逆に「ここは今は補修が加わっているが元に戻したい」など、先々の計画を立てることになります。文化財には釘一本打てないという俗説があります。実際には打ってもいいのですが、「釘打ってもいいですか」と聞かないといけない煩わしさがある。「ここに釘打ちますよ」と予め決めておいてそれで良し、ということになったら、好きな時に釘が打てるという新しい手順みたいなものを設定します。これによって5年先10年先のあり方を考えるということになるのは凄く大事です。これは、所有者側の意欲というものにも繋がりますし、担当者が変わって「なんでこれは遺してあるんだろう」となった時にも、書類に残されていたら悩まずにすみます。歴史的建築を保存継承するためには、そういう将来を見越した上での保存という取り組みが、新しい手法となると考えています。組織的な仕組みづくりが創出する保存と活用 歴史的景観や建築に対して保存・活用に取り組む際、企業としてどのような点に配慮するべきでしょうか。石田 保存や活用に向けての組織的な仕組みをつくることが、非常に重要だと感じています。所有者がたとえ代わっても価値の認識がうまく受け継がれていく一方で、企業が、ビジネスとして継承する仕組みを生みだしていくことが上手く合わさっていくと、非常に良い形で価値を高めることができます。経済原理だけが前に出ると、見えかがりだけ残すということになりかねず、よい結果をもたらしません。保存活用計画をつくるという時に、コストから最終的な仕上がりまでコントロールできる人材や仕組みが、本当に少ないと思います。特に地方の自治体などは、建築担当もいなくて、事務職員だけでやっていたりする。全国的にも、ヘリテージマネージャー制度※4は良いのだけれども、全員が大きなスキームをつくる能力を持っているわけではない。だから、マニュアル化できるところはマニュアル化してほしいですし、そこから先の、その建物ごとに個別解を求めていかないと上手くいかない領域は、そうと自覚して取り組む必要がある。ジェームス邸や山口萬吉邸を手がけてきた竹中工務店には、ぜひモデルを提示する役割を期待したいです。デザインだけでなく、保存・活用する仕組みをどうやってつくるのかということを意識的にやっていかないと、歴史的建築は次の世代に遺せないと思います。ホテル建築の歴史的評価 近年、古い建物をホテル用途に改修して付加価値を見いだす取り組みが、国内でも増えてきました。既存建物のもつ価値をどのように引き出していくかついて、考えをお聞かせください。石田 コンバージョンでホテルに改修する事例として面白いなと感じた経験として、ジャン・ヌーヴェルがボルドー近くのブドウ園で、18世紀の修道院に宿泊棟を増築したホテル・ル・サン・ジェームスがあります。新築部分はヌーヴェル流の有機的ミニマリズムとでもいうものですがそのテイストは古い部分の改修にも及んでいます。新旧が合体したような空間を日常的に経験することはそうないので、宿泊したときにそこに身を置ける、非日常性を感じられるのは、すごくいいなと感じました。そういう意味で、高島屋東別館もうまく新旧を感じさせている。一般に、ホテルは短期の宿泊でしかないのだけれど、拝見した2つはどちらも少し長く泊まることも想定されている。何日もゆったり過ごす、その場所に定着するためには、単なるホテル機能以外の要素が必要です。たとえば風景。「東山計画」の場合は、古都の遠景や庭園の近景、「高島屋東別館」では、大阪日本橋の街並みもそうでしょう。ホテルという施設は、相反するふたつの性格がある。ツーリズムを基本としたときに、非日常性を求めるという側面と、かたや長期滞在の場合などで、そこに住まいとして泊まるという日常としての側面があります。相反するふたつの側面がうまく切り替えられる建築的な工夫が必要です。どちらの作品もそうした配慮がなされていると感じました。 明治から大正期の建築において、ホテルというビルディングタイプは、どのようなものだったのでしょうか。石田 最近、明治期に辰野金吾が設計した「奈良ホテル」を調査したのですが、明治期以降、どの部分が保存されていてどの部分が改造されたのかの判断が、非常に難しかったですね。和洋折衷の特徴的な意匠を徹底的に踏襲しているんです。意匠は変化していないのに、当初設定されていた用途や機能は実は現代のホテルとは全く異なっていたことを知って驚きました。例えば、それぞれの客室は複数室で構成されるにもかかわらず、そこには浴室が含まれていない。防火の観点から、火を使う浴室は別のエリアにつくられていたのです。また「琵琶湖ホテル」の例で言えば、当時の大阪や京都などの都市では成立しなかった、リゾートあるいは社交というジェームス邸写真:ナカサアンドパートナーズ旧山口萬吉邸写真:ミヤガワ奈良ホテル/ 辰野金吾写真:石田潤一郎
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