DESIGNWORKS_Vol48
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Interview03社会の中では人の活動は多様化され、自発的な共有性が必要不可欠になっていると思います。そのような社会の中で、街から隔たれた空間で共同生活を送ることは本当に有効だろうかと少し疑問も感じます。もちろん、教育の場としての社員寮であることを勘案しなければなりませんが。そのような印象を抱かせる要因の一つに、内部のひとつながりの空間が少し大きすぎるかなと。つまり、一度建物に入ると、ずっと内部空間が続いているのです。幾分細かく分節して内外の境界を曖昧にし、様々な場所で街との接点をつくれたなら、私の直感では、より時代と合致した生活空間が展開したように思いました。   自由な生活環境を提供したい反面、新社員寮である以上ある程度の管理をする必要があります。双方のバランスをとることは難しい課題でした。奥山 そうですね。ただ、自治会によって自分たちで住まい方を改善できるというソフトウエアは社員寮独自の面白い仕組みづくりだと思います。深江竹友寮の自治会は、寮長である先輩社員と寮生全員が週1回集まって、自分たちのコミュニティでよりよく暮らす方法を考える装置ですね。そこに、社員が自由にカスタマイズできる余地をもう少し加えていけば、より新しいシェアリビングのあり方へと展開できるように思いました。今回は仕上げや共用部の機能の完成度が高く、竹中工務店の作品らしさが感じられるのですが、もう少し未完成の状態を残して、共用部での行為も規定しすぎないようにするのも一つの方向性かと思います。たとえば、クラスターリビングや深江ダイニングはゆったりとくつろげる場所として想定されていますが、壁の隅でおしゃべりを楽しみたいときや、壁に落書きをして遊びたいこともあるでしょう。ルイス・カーンの「ソーク研究所」の中庭では、コンクリート壁の一部が黒板壁になっているのです。生物系の研究者のための施設なので、ふと思いついた数式を書いて、その場で議論することが促されています。実際には、あまりにも建築が美しすぎて、さほど使われていないとも聞きますが。でも、そのような設えを導入することで、私たちの空間利用に対する選択肢は大きく広がりますよね。   竣工して1年間、実際に暮らす新社員を観察してきて、それぞれが求める暮らし方に想像以上の違いがあることを感じました。居心地のいい場所を探すことができる、多様な空間が大切ですね。奥山 そうですね。また同時に、今後の社会における多世代での集住の新しい可能性も感じました。人生における住居計画は、社員寮に住み、所帯を持ち、戸建てや集合住宅を買うという流れがこれまで一般的でしたが、今後もそれが主流であるかはわかりません。将来的には、多世代が住む社員寮というものもありうるのではないかと考えさせられました。もっと先を考えると、企業側の体制が整えば、会社を定年退職したあとも、そのまま社員寮に住み続けるという可能性も想定されます。特殊な例ですが、京都大学の吉田寮※1は学生を終えてからも住んでいる人がたくさんいますね。多世代が住み、しかも自治があるとなると、これまでの「新入社員が1年間暮らす寮」というイメージを大きく超えた社会的価値を、これからの社員寮が獲得することになるでしょう。また、そのような形式の社員寮を様々な職種の企業が提示していけば、街全体が変わっていくかもしれません。いずれにせよ、2つの作品はどちらも社員寮ではありますが、今後の一般的なシェアハウスの将来像をも暗示しているように思います。集まって住むことの可能性   シェアハウスという住まいの形式について、どのように考えていらっしゃいますか。奥山 現代の私たちが住む戸建て住宅というのは、江戸時代の武家屋敷を矮小化したものなんです。もちろんこれは、当時の一般的な市民の暮らし方ではありません。大多数の市民の住まいは長屋形式で、まさしくシェアハウスのように水場を共有する複数戸の単位ごとに集まって暮らしていました。つまり、日本人は従来からシェアリビング的な暮らし方をしていたのだと言えます。高齢化が進む日本の将来を考えると、シェアハウスは住宅の新しい典型となる可能性があると感じます。たとえば、高齢者のためのグループホームはある種のシェアハウスと言えるでしょう。実は、以前小さなシェアハウスを設計したことがあリます。当初は老朽化した8室ほどのアパートを現代風にリニューアルするという計画でした。どうしたものかと考えていると、不動産会社からシェアハウスにしてはどうかという提案を受けたのです。当時、

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