DESIGNWORKS_54号
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Interview03古民家下さん土壁WS写真:塚本由晴ハイエンドに絞り込まれることにより、プロジェクト自体が人ベースではなく経済ベースになった。地方の高級旅館や、都心の超高層ホテルと比較される同じ市場プラットフォームに奈良井の町家を載せたわけですが、それは事物を抽象的な「空間」や「マネー」の問題として処理することを意味します。そこでの説明は明快なので、大概の建築の仕事はその説明言語に合うように建築をはめこんで行く。一方で物語を考えるとは、我々が関わる前からの事物のつながり、具体的な「連関」に着目することです。これからは、見た目の小奇麗さよりもその背後にある物語の方が重要になるでしょう。設計者が綺麗な空間をつくって来訪者をマネーに紐づいたお客さん扱いするのではなく、連関に興味を持てる余地を残しておくことで、仲間や当事者にしていく。そういう社会や建築の方が面白い。「空間」から「連関」へ   具体的な複数の事物たちとの間に、空間という抽象的なプラットフォームがある。塚本藤岡洋保先生によれば、日本で「空間」が建築の議論に登場するのは50年台の丹下健三研究室からですが、世界では産業革命以降です。産業革命以前の定常社会の暮らしでは「明日は昨日と同じ」で良かった。でも新たに身につけた絶大な生産力を行使するには「明日は昨日と違う」必要がある。それまでの暮らしを組み立てていたさまざまな事物の連関を断ち切り、そこから離脱しないと生産力を十分に行使できない。これまでの連関から自由になるその先の、不確定な広がりを「空間」という概念で捉えた。「空間」という概念なしには、移動や職業選択の自由も、人権も、平等も想像すらできなかった。今日普通に行われている、時代や場所が異なる建築を比較すること、さまざまな案を検討すること、オフィスや集合住宅を建設してから販売することも、「空間」が人々に信じられているから可能になる。ところが連関からの解放が得意な「空間」は、離脱したあとに繋ぎこまれる別の連関を説明することができない。建築は、空間を生産することによって生じる連関の質を問わなくなり、むしろそれを外部化して目の前から見えなくしてきた。20世紀を通して行われた「空間」型の拡大成長が、そういう連関の外部化を蓄積した結果が、経済の南北格差や、異常気象のような歪みとして現れてきています。だから建築で地球環境問題に向き合おうと思うなら、まずは建築が依拠してきた「空間」を、そして連関の外部化に馴らされてしまった我々の暮らしを自己批判しないといけない。方法としての「空間」を繋ぎこむ先についての想像力が必要です。だから、「連関」が「空間」に鋭く対比される。食の分野でトレーサビリティーが言われ、衣の分野でエシカルファッションが言われるのと同じです。奈良井には独特の町家形式が残っていますが、それを成立させた生業は失われています。けれどもそうした建物の振る舞いが教えてくれる過去の事物連関を理解できれば、今なら何で置き換えられ るかを想像することができ、新しい使い方やプログラムの可能性を見つけることにつながります。町家の連関が現代の条件において、もう一度息を吹き返してきます。建築家ル·コルビュジエが住宅の建設にコンクリートを導入してマニフェストした、水平古民家下さん全景写真:塚本由晴連続窓や自由な平面、立面には、伝統的な煉瓦への対抗意識がありました。縦長の窓しかできない組積造への対抗であると同時に、生産者ギルドへの対抗でもあって、その既得権益から自由になることが重要だった。「自由な建築」の向こうに、「自由な社会」を構想していたわけです。建築は本来的にローカルな生業で、多様な事物の連環の上に成立している。竹中工務店のような、規模と歴史を持つ企業の場合、それが抱えている膨大な事物の連関こそが、財産であり責任でもあると思います。竹中工務店が使う木材を塩尻市の森林と結びつけるのは、そういう連関の繋ぎ方のデザインですね。今まで見落としてきた連関に目を向ければ、色々な仕事を発見できると思います。「プライベート」から「コモンズ」へ   連関に着目するようになった経緯を教えてください。塚本連関という言葉は、山内節さんの著作に影響を受けて2000年代から使い始めました。私は学生の頃から、バーナード·ルドフスキーの『建築家なしの建築』※1で紹介されるような、近代以前の集落をつくり上げていた伝統的住居やバナキュラーな建築に憧れがあった。バナキュラー建築は、人々が試行錯誤を繰り返し、時間をかけてつくりあげてきたもので、地域の自然特性、気候、材料、それをもとにした技術や人々のふるまい、それらが均衡してかたちになった。しかも可愛いかったりかっこ良かったりする。材料や気候が人の暮らしの中で活かされ、うまくバランスがとれていて、これこそが建築的知性だと思う。資本蓄積にあらゆること

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