DESIGNWORKS_59号
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Interview03竹中セントラルビルサウス 吹抜写真:山本育憲今後はパーティ的なものを仕掛けていったら、面白い風景が生まれるかなと思って拝見しました。建設現場の作業着のリサイクル布を再生利用してエレベーターホールの階数表示サインにしてみたりという、素材のこだわりも面白いです。象徴的だと思ったのは、リノベーションのモチベーションが「耐震改修」ではなく、新しい働き方の実現や低炭素化ビルの実現といった「環境」にあったことです。日本ではリノベーションのモチベーションは、ずっと耐震改修でした。1995年阪神淡路大震災では、1981年(昭和56年)以前の旧耐震基準の建物が壊れました。それを踏まえて、耐震改修をするか建て替えるかみたいなプレッシャーや、耐震改修を促進する法律もできたりしました。最初は公共施設の耐震化が先導しますが、民間に対する補助金がつくられたりもして、1995年から30年近くがたった現在、相当の数の耐震改修が進み、それをうわまわる数の建物が建て替わっています。しかし今回の建物は2000年の竣工ですよね。新耐震基準の建物を、耐震のためでなく環境のためにリノベーションしちゃうんだっていうのは、新しい時代に入ったと感じました。地球環境のための改修が、次なるブームになると思いますし、東京が次に取り組むべきことは「環境」だけなのかもしれません。戦後のひどい状態を何とか終わらせ、住宅も何もかも足りるようになり、巨大都市としての最低限のミッションを全部達成することができた。東京は戦後の間に、建物の新陳代謝が2回転3回転ぐらいで現在のように成長してきたのです。「もういいじゃん、建てなくても」って私は思ってしまうこともあるのですが、まだまだ竹中セントラルビルサウス EVサイン写真:hokkyoku+見学友宙建てたい人がいて、その人たちの大義名分が「環境」なんだなと。ウェルビーイングみたいなことですね。環境を制御しながらそこで働いてる人たちの気持ち良い暮らしをつくる、みたいな結びつけが、リノベーションの大義名分になっていると思います。東京に必要なもの―良質な環境を引き出す建物   日本は人口減少が危急の課題になっていますが、東京の人口は増え続けています。都市計画的な視点で、今後どのような取組みが必要とお考えですか。饗庭 全国的に見ると、2023年から始まるとされている世帯数の減少が大きな課題になりそうです。住宅をつくる側からすると、人口減より世代減のほうが効いてきます。地方においては、間違いなく人口も世帯数も減っていき、空間がとにかく余ってきます。だから地方における都市計画は、どれほど活用をしようとも、絶対空間が減るので、荒れないように納めましょう、みんなが嫌な気持ちにならないように空間を整えていきましょう、をやらざるを得ないのだと思います。全国的には減少しますが、国の中で人口は移動します。いわゆる社会増減です。ほとんどの場合、仕事の引力に引っ張られて社会増減は起きます。そのため、1970年代の田中角栄首相は、全国への仕事のばらまきを政策的に誘導していたわけです。地方都市をみると団塊の世代が多く住んでいます。仕事を確保できた世代で、その世代がつくった良質な戸建住宅地が県庁所在地くらいの地方都市に行くと結構あったりします。しかし、次世代の優秀な人たちや地元で就職したいけどいい仕事がないという人たちが、東京で仕事しようといまだにどんどん流れてきていて、東京の人口が増えています。日本の人たちの「最大多数の最大幸福」を考えたとき、地方を良くするよりも、東京を良くした方が最大多数の最大幸福に繋がるのではないか、と最近考えるようになりました。東京って複雑な立場にあり、一極集中批判みたいな議論になると叩かれることもありますが、最近になって都内3区の出生率が秋田県の出生率を超えた、というニュースを知りました。昔は地方で子供がたくさん生まれ、そのうち地方で暮らせない人口が東京にやってくる流れでしたが、今はもう東京が人口を再生産している。そうなったら、東京で生まれた若者に対して、住宅や教育をサポートする政策は大事です。東京を良くすることは、日本の将来に繋がる重要事項だと思います。昔の都市は、伝染病や大火によって人がすぐ亡くなっていたわけで、それを改善するために都市計画が行われてきました。しかし、もう平均寿命は80歳を超えているわけですので、次なる課題に移行してきています。とはいえ、政府が都市計画を引っ張っていた時代はとうに終わり、市場とコミュニティが都市づくりの主役になりました。都市開発に携わる企業が、公共的な目的のためにどれぐらいマーケットを働かせることができるかが重要です。建物が新陳代謝をする際に、公共的なインフラや建物を埋め込んでいくということです。人口が減っていくということは、昔みたいに、使えなくなった駄目な建物を壊してもう一回まわせればいいや、と

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