04Interview台北の若者向け社会的住宅写真:饗庭伸いう風に考えることができない、ということです。数少なくなる建て替えのチャンスを活かし、建物が建て替わる時に良いものをつくる、リノベーションする時にも良いものをつくる、という取組みがますます求められます。そして、建築単体を良質化するだけに留まらず、建築のまわりもちょっと良くなるような“仕掛け”を都市計画を実践できたら良いなぁと考えています。例えば、ある建物が警備員を雇うときに、警備員にお願いする日常的な巡回の中で近隣にまでちょっと足を伸ばしてもらうようにすると、周囲の治安が保たれますよね。それは、結果的に警備するべき建物の安全性が向上することにもつながってきます。このように、ひとつの建物をつくるときに、そのまわりをちょっと良くする仕掛けを埋め込むと、都市全体が良くなっていくわけです。ハードな建築だけではなく、利他的なソフト技術をどれぐらい埋め込めるか、日本の都市計画でまだまだやれることだと思います。市場による住宅供給とセーフティネット 日本の最大幸福をどう生み出すかという視点、とても興味深いです。東京において、「環境保全」や「貧困格差解消」の仕掛けをどのように埋め込んでいくことができるのでしょうか。饗庭ちょうどこの春に、台湾の台北の都心で見学した若い人向けの社会的住宅の事例を紹介します。社会的住宅は、日本の都市計画ではもう新規でつくられることは無くなりました。なぜ台北の都心で展開されているのか、とても気になりました。若い人向けの社会的多摩ニュータウン写真:饗庭伸住宅の背景ですが、台北市内の開発余地がなく、地価が高騰してしまい、台北市内の住宅は高値がついています。東京なんか遥かに超えてニューヨーク位になっているそうです。地下鉄が郊外へと延長されているので、若い人たちが郊外に住むことが多くなり、行政としても何とかサポートしたいという考えから、次世代を担う若者に社会的住宅を提供したということでした。日本では、若者だけにターゲットを絞って公営住宅を開発することはもう無いのですが、台湾では、若者が弱い立場なのだから、若者優先に住ませようという政策が出てきているそうです。日本よりも台湾のほうが、少子化が深刻な課題になっている背景もあるそうです。「あ、台湾はそこまできてるのか」と思いました。若者を対象とするかどうかはさておき、東京でも新しく社会的住宅をつくるにはどうしたらいいだろう。都営住宅として東京都が新たにつくることはまず無理だろう。公共と民間が組むしかないだろうな、と思います。民間と組むということは、インセンティブをどう設計するかということですが、容積率割り増しの代わりに若者向け住宅をつくれないか。東京はこれからも集合住宅が建つはずですので、インセンティブを設計し、例えば200戸つくったら1割の20戸は社会的住宅をつくる。外国人や障害を持っている方、母子家庭を対象とする、若者を対象とするなどの様々なメニュー展開が可能であり、民間主導のセーフティネットが実現するのではないでしょうか。2006年に住生活基本法ができて日本の住宅政策の体系がグッと変わりました。「市場」と「セーフティネット」って言われます。制定以前は、公団住宅・公営住宅・住宅金融公庫という三本の柱があって、それを使って住宅供給を下支えしてきました。住宅開発の民間プレイヤーが育ったので、住宅供給は民間に任せます、となりました。それが「市場」です。そこからこぼれる人だけをセーフティネットでカバーします、それだけが政府の役割です。しかし、この「市場とセーフティネット」の役割分担が固定化していることが気になっています。私が先ほどお話した取組みは、「市場の中にセーフティネットを入れましょう」ってことです。市場の人たちが小さいセーフティネットをつくって、それを繋いでいくことにより、社会を支えようという考え方です。東京だったら実現できるのでは、と考えています。今日の都市開発における公共貢献メニューは“豊かな人向けの公共貢献”になっているので、セーフティネットという視点をもって、民間が公共貢献を組み込んでいくことが大事です。リセットなき76年目の東京 東京の50年先100年先を考えたとき、都市を持続させるためにはどのような取組みが必要とお考えですか。饗庭最近、リセットなき75年目、76年目ということを論じた原稿を書きました。日本の都市って、リセットが75年周期であるんです。150年前に明治維新があり、戦争に負けたのがその75年後。これら2回のリセットでは、いろんなものが壊され、再構築されています。その周期にならえば、3回目のリセットが2020年ごろだったのですが、じゃあ、コロナ禍がリセットだったのかというと建物は壊れていません。東日本大震災がリセットか、って
元のページ ../index.html#6