DESIGNWORKS_60号
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InterviewFLAPS写真:新良太てくるんです。何してるんですかって漱石が夢の中で聞くと、仏像を彫ってるんじゃなくて、埋まってる仏像を掘り出しているんだって言うんだよね。そういう感じがいいなと思ってます。世界には潜在しているあるべき形みたいなのが既にあって、それを見い出していくっていう話。この辺は言語化が本当に難しいですね。そこにある確からしさみたいなものがあって、この感覚を持っている人って、例えば職人と話が通じる。どちらかというと理屈以前の感覚するものなんですけど、確かにそこに「正しさの基準」があるんですよ、これが。これは間違ってるこれは良い悪いというのは、好みとはまた違う。でその言語化しづらい感覚みたいなものもどうやって都市に持ち込むか、具体的に言えばデベロッパーをどうやって説得するか、が課題です。私という建築家を信用してくれるようにだんだんなってきているんですけれども、それでは個別解です。普及していかない一番大きな課題かもしれません。個人邸の設計でしたら「原田さん大好きだからお任せします」だけど、相手が組織になってくると、なかなか「大好きだから」で全権委任にはならない。相手組織を説得する苦労があります。大きい建物でも僕を選んでくれているからには尊重してくれるんですけど、でもそれはそのクライアントとの関係でしかできないじゃないですか。ほかのクライアントとは、容易にセットできる訳ではない。原理にならなくても、帰納法的に歴史的に振り返って、この辺のやり方とあの材料の組み合わせ方とすれば、社会に受け入れられる建築に至ります、みたいな説得の仕方もあるんじゃないかなと思っていて、統計的なアプローチというか、ビッグデータを根拠にAIによって統計が扱えるようになるといいですけどね。それは、大きい組織に期待したい04Entô写真:鈴木研一ところです。デベロッパーと話をしていても、デザインが良い建物ってお客さんが入る、入り続ける、となりますが、でも何故どの程度そうなるのかは誰も分からないんです。最新の研究だと、そのデザインの価値を定量化するみたいなことやってるらしいんですけど、本当にそういうものが確立し、普及したらいいなと思いますね。  流山おおたかの森SCで、デベロッパーと協業されてますよね。北青山吉川ビル 1994年竣工写真:堀内広治つくるという、連鎖してくるまちづくりなんですよね。都市開発は2006年から始まったんですが、かなり多様な場所が生まれています。   建築における質について、もう少しお考えを教えていただけますか。オープンエンドなまちづくり原田 設計者からのフィードバックを受け入れるぐらい、いい意味で組織のコンパクトさがあって、とても面白いデベロッパーとの協業でした。大きな底地を持っていないので、毎回その時の状況に合わせて一個ずつ建築を足しながら街をつくっている。二子玉川等が典型だと思うんですが、おおたかの森は、全体計画の中に押し込められた都市空間ではありません。歩いても多様性があって、うまくいってないところがあってもそこがまた面白いなって思います。マスタープランを粛々と作っていくんじゃなくて、その時々に考えながら全体として進んでいくような、オープンエンドに街をつくっていく方法。それは、集落の成り立ちかたと似てると思うんだけど、そういう都市開発の仕方が実現し得るんだっていうのをおおたかの森では感じました。 “オープンエンド。計画のアウトラインを閉じてない”っていうか、マスタープランが明確じゃないから他のデベロッパーも入って来やすいし、街づくりに地域住民も参画意識を持っていて、それはすごくいいなと思います。ひとつ建物ができると場所が変わって、それを読み取って次を建築における「質」原田 言葉としてはクオリア、クオリティの元の言葉で脳科学でよく使われます。品質とか実質とかの「質」なので、抽象的な概念だけでは拾えない、良さのようなことを指している言葉として使っています。語義的に定義しづらいですけど、あるんですよね。庭等もそうですが、この石とこの石は、この位置関係になきゃいけないとか、重さと形のコンポジション、存在のことなんだと思うんですけど、それは「言えないからない」って言ってしまうと、ろくな建築にならないから(笑)。「言えないけどある」ってことをベースに考えています。スタイロでスタディ模型をつくらないっていうことをずっと実践しています。スタイロの模型って空間ボリュームとして建築を捉えちゃいますよね。そうすると物がなくなっちゃう。面倒だけど、木でつくるとかパーティクルボードでつくってると、実体がオンの状態で設計することになるから、全然出来上がりが違うんですよ。最初のプレゼンの模型から、確実にマテリアルが入っている模型にするし、マテリアルコラージュのボードを持っていくことが多いですね。実際に使うもので、コラージュボードをつくって、こういう世界観だっていうのを出す。それはやっぱり最後まで効いてきます。施主のマインドセットが最初のプレゼンで設定できるのはいいですね。こういう価値観だっていうことを基底的にわ

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