DESIGNWORKS_62号
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Interview03とおり町Street garden写真:ナカサ&パートナーズこのプロジェクトでは街路樹を切らさず、季節を楽しめるような街並みにするために植栽は行政に植えてもらい、商店街組合を中心とした商店主が育てるという仕組みを実現しました。商店街の天蓋に代わり7000本のステンレスのワイヤーが上空を覆う、既存の柱を利用したリノベーションです。柱は軒を連ねる商店同士の境界にあり、通りを中心として左右にランダムに配置されています。柱の周囲を緑地帯としているので、自身の商店の前にある植物を育てることは、向かいの人たちの景観をつくることにつながります。商店主一人ひとりと植栽の範囲を現地で協議しながら合意形成に至るまでには苦労しましたが、執拗に取り組み商店主たちの庭として共有していきました。アーケードの撤去についても最初は異論がありましたが、かつての賑わいとはまた違う緑あふれる庭のような商店街を目指し、造園家と一緒に育て方や害虫の対処など、植育みたいなことから一緒に始めました。そのうち商店主の方々は愛着がわいてきて様々な工夫を凝らし始め、枝ぶりなど配慮しながら剪定などの手入れしてくれています。緑あふれる街並みはとても重要だと思いますし、そこに住んでいる人たちが当事者意識をもつことにつながることが重要だと感じています。気持ちのいい場所は肌感覚で理解しているので、都市にはそういう場所が必要だと思います。マインド×ソフト×ハードを再構成する前田 商店街を示す大きな看板を設計時に求められ、デザイン協議会という街並みについての勉強をする会を立ち上げました。尾道や倉敷、ニューヨークやイタリアなどの街並みを一緒に研究し、商店街の方も街並みに対する意識が高とおり町Street garden写真:ナカサ&パートナーズまり、最終的に看板は人間に近い高さにあったら十分だという結論となり、事例を通して一緒に学んだことが功を奏しました。そうやって当たり前にあるものを改めて問題定義して、対話をしながら共有し合意形成をとることが建築家の動的な実践としてとても大切なことと考えています。最終的には商店街の方々が自分たちの街並みを醸成していく役割になるので、対話としての5年間はとても長いようですが必要な時間だったように感じます。「建築に興味のない人を振り向かせる」   人びとをどうやって巻き込んでいくかを大事にされていますね。地方都市で仕事をされる時に心掛けていることはありますか。前田仕事で東京もよく行くんですけど、私が学生時代の頃からすると全然違うまちになっていますよね。至るところ再開発だらけで、何をもって都市の文化なのか考えさせられます。福山という地方都市を拠点に活動していると相対的にまちの姿形やそこにいる人たちの活動が見えてとてもいい学びがあります。私たちが手掛けたご縁でUIDが入居している森×hakoというテナントビルの話をしたいと思います。もともと、オーナーと繋がりがある地元工務店による設計・施工の新築プロジェクトで、1階に入る予定のテナントが私の知り合いだったことから、内装のインテリアだけ依頼されました。設計が全然よくなかったので、これでは繁盛しないと伝え設計からやり直した方がいいと勧め、オーナーと施工会社を紹介してもらいました。オーナーは事業収支として10年でペイできたらいい、後は家賃下げて入ってもらえばいいという森×hako写真:上田宏考え方だったんですね。これでは建築の価値は生まれず消費されるだけです。事業収支を押さえながらも建築の価値を上げるような考えを共有できなかったら福山の街は変わらないと思い毎晩三者で話し合いをして、最終的には工事予算が変わらないのであればという条件で理解をいただき、設計し直し喜んでいただくことに繋がりました。建築はその空間を実現し体験して初めて、その重要性を共有できるものだという認識を再確認したプロジェクトでした。いくら魅力的な設計案のパースや模型を見せても工事費が合わないと破綻してしまう可能性があり、粘り強く様々な観点から話し合いをしながら、投資した費用以上の付加価値があることや、街並みに寄与している責務など、建築家はクライアントや施工の方々へ働きかけを実践しないといけない職能だと感じます。森×hakoの場合はこの建築をきっかけにして建築に興味がなかったオーナーは我が子のように愛着をもって建築に接してくれるようになりました。それこそが建築のちからであり、小さな単体の建築から周辺へ波及していくことを可能にすると信じています。とはいえ、建築は敷地を超えてはつくることはできないので、建築に何ができるのかを建築家は常に考えないといけません。ハレミライ千日前の商店街と接続する路地や広場、そして岡山営業所の街への余剰空間はその実践のあらわれのひとつであるように感じました。建築家の職域の広がり   人の心を変えていければ、その建物をずっと使っていく人が社会との関係性も変えてくれることにつながるんでしょうね。

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