DESIGNWORKS_62号
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Interview05後山山荘(改修後)写真:上田宏がら、古瓦や吹きガラスが嵌め込まれた木製建具など現代ではつくれない貴重なものの選別からはじめ、建築史家にも見てもらい土壁の重要さを指摘いただいたりしました。聴竹居へも何度も足を運び、実験住宅と呼ばれる1回目から5回目までの変遷を見直し、藤井の考えを模索しました。西欧の文化が入ってくる中で、それを取り入れながら日本という固有の土地がもつ文化を大切に継承しようとしたのが藤井だと思うんですよね。最終的には昔あったであろう形をトレースし、現在のクライアントの要望を踏まえ新旧の空間を設計しました。サンルームは徹底してオリジナルに復元するといった全体の指針を決めるまでにかなりの時間を要しました。施工は信頼できる地元の建設会社へお願いしましたが、その社長は「これが残せなかったら福山の文化は遺せない」って言ってくださったんですね。当時は建物ばかりに意識がいっていましたが、施工が始まってから、庭を何とか復元したいと考え、庭のワークショップを造園家の荻野寿也さんの協力のもと企画し、20名の学生と1週間泊まり込みでやり遂げました。土砂降りのなか土を掘り起こしたり、砂利を運んだりと壮絶な状況のなか往年の庭の姿が現れました。残り2日間で水生植物など下草を学生たちと植え、最終日に現地に来たクライアントは庭をみんなでつくったことにとても感動され、「これは私自身のものではない。」と述べられ、その後の活動へ繋がるものになりました。クライアントからの重要な要望のひとつが、別荘として使用しないときの活用方法でした。竣工後から色々とイベントを企画するものの継続性が難しく、聴竹居倶楽部の松隈章さんに相談し、後山山荘倶楽部を関係者で立ち上げました。毎月第2日曜日の予約制の見学は今年でちょうど10年を迎えます。コロナ禍もあり継続性と集客性には課題がありますが、地元にいる建築家の役割のひとつと考え継続したいと思っています。このプロジェクトは別荘という個人宅から始まり、最終的には文化事業に発展したもので、住宅を社会的な資産に変えることのできる普遍的な方法を提示しているのではと思っています。そして、何より藤井厚二との不思議な縁を感じます。ひっそりとサンルームだけを遺しつつ朽ちていたギリギリのタイミングは、時代を超えて福山出身の藤井厚二が私を引き合わせてくれたような気がしてとても運命を感じますね。5年程前には藤井の次女の小西章子さんが来てくださって、小さい頃ここによく来られていた際の貴重なお話を伺うことができました。建築がつくりだす風景はやはり人にとって、過去からつながっていると感じる出来事でもありました。こういったかたちで多くの方々の力を借りながら新たに再創造ができてよかったと思います。   福山という地域に根差した建築家の役割が確実に形になっていて素晴らしいです。前田 近代以降、私たちを取り巻く環境は都市や人間性までも均質化されてきているように感じます。しかし、近年その方向はちょっとおかしいんじゃないかっていうことをみんなが薄々感じはじめてきていることを私が手掛けたプロジェクトは実証している気がします。均質化された都市において現代を生きる私たちが今一度、文化から掘り起こすようなことができる時代にしないといけないと考えています。ハレミライ千日前も人間の営為を堀起こすことによって生気あふれる場を生みだそうとしているように思います。それこそが豊かな未来の創造(聞き手:関谷和則・鈴晃樹・吉田直弘・藤原健太・河合哲夫・寺谷啓史・柿本忠則・國本暁彦・髙橋賢・大竹大輝)前田 圭介 (まえだ けいすけ)/建築家、近畿大学教授1974年1998年1998年-2003年2017-18年2017年-2018-21年2022年-広島県福山市生まれ国士舘大学工学部建築学科卒業工務店で施工管理に従事UID設立広島大学客員准教授福山駅前再生協議会委員広島工業大学教授近畿大学工学部教授主な作品 『アトリエ・ビスクドール』『ホロコースト記念館』『Peanuts』『群峰の森』『とおり町Street Garden』ほか多数につながっていく手立てのように思います。今目にしている社会を疑うことこそが次の新たな地平を拓く鍵となりますが、疑うには過去から連綿と続くこの社会の変容を新たな視点で見る目が必要だと思います。――最後に竹中工務店へのメッセージをお願いします。前田 竹中工務店は大工からはじまっているせいか、ものづくりにかける熱量を非常に感じています。ひとつの会社の中に設計と施工があることによって互いに切磋琢磨する連関が生まれ竹中工務店という会社を新しくしているように感じます。また本日、いろいろなお話を聞かせて頂いて、一人ひとりの担当者のこだわりがよく理解できました。設計と施工、その両義性が竹中工務店というブランドを支えているのですね。そして竹中工務店が全国の各本支店に設計部を設置して、ハレミライ千日前のように、地域に根ざしたまちづくりを展開していることが何よりも竹中ブランドの本質だと感じました。   本日はどうもありがとうございました。

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