DESIGNWORKS_64号
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02Interviewエア・ウォーター健都写真:母倉知樹権藤 拝見した「イシダ本社」「エア・ウォーター健都」について、まず敷地と建物の関係が対照的です。イシダ本社は文脈が複雑な京都の都心街区に沿うように、輪郭線はすっきりと線を重ねていくのが印象的です。エア・ウォーター健都は新たに開発された街区に建っていて、ボリュームで凹凸をつけて自ら輪郭をつくっている。外装に関しては、イシダ本社はそれぞれの素材が、東大路側の開口と庭園側の開口に慎重に配慮されている。エア・ウォーター健都はアルミの線や寸法などもシビアに調整されて、抽象的に見せています。どちらも綺麗にまとめられているのですが、単に透明であったりシャープにきれいに見せるオフィスから、一歩抜け出そうとしていると感じました。権藤 ここ数年、各地のインキュベーション施設やコワーキング施設を訪問していますが、利用率が高くありません。近年の潮流として、ABW(Activity Based Working)でフリーアドレスにして、かつ様々な場を用意してといった流れがあり、見た目はお洒落ですが、活気がなくて静かだなと感じることもあります。むしろ昭和の普通のオフィスの方が、活気があった気さえします。作り手が使いかたまでフォローするイシダ本社写真:古川泰造ことは可能だろうか、と感じていました。エアウォーターの場合は、建物を平面的に4分割して、スキップフロアで繋げていく構成です。繋ぎとしてスロープもあれば緩い階段もある。いろんなフロア形状があって仕上げも異なって、多様な場をあらかじめ用意しています。今後どのように使いこなされていくのか、非常に楽しみです。イシダの方は、整形でフラットな事務所平面を重ね合わせる構成で、用途に対してフレキシブルに対応できそうです。ワークプレイスとしては対照的ですが、どちらが働きやすく優れているということではない。どちらも重要だと思います。フレキシビリティについて住宅の例を挙げると、日本は戦後しばらく住宅が圧倒的に不足していました。そこで大量生産によって標準化された住宅を作ってきましたが、1968年に日本全体では住戸数が充足します。1970年代に入ると、日本住宅公団が同じ部品の組み合わせで様々な平面プランを用意するK E P(Kodan Experimental Project)を始めるなど、多様化の取組みが始まります。さらに1980年代になると、建設省がCHS(Century HousingSystem)プロジェクトを始めます。将来的に間取りを変えたり設備を取り替えたり、比較的自由にプランや設備などを変更できるものです。空間のフレキシビリティを考えるときに、KEPのように竣工時点で様々な固有の場所を設計しておくという方法と、CHSのように将来的な用途変更に対応できるようシステム設計しておくという方法があり、どちらも重要です。多様な場所を多様に更新していけるのがベストですが、それは非常にハードルが高いと思います。優れた設計者であればこそ、少しの変更も許さない合理的な設計をするわけですが、将来的な可変性を考えれば、切り詰めて設計するのは合理的なのかも分からなくなります。プランも構造も設備も、将来的な可変性を考えると無駄とも思える余裕が必要かもしれません。竣工時には無駄に思えたものが、後年役に立つこともあると思います。構法は歴史が評価する  計画や構法の妥当性は、 設計者ではなく、歴史が事後的に評価する、ということでしょうか。権藤 戦前にワルター・グロピウスの乾式組立構造が日本に紹介され、木質パネルの組立住宅がいくつか実現します。最初は工期短縮などに加えて「乾式なので仕上げが自由に選べて衛生的だ」と利点が説明されました。ところが戦争が深刻化するにつれ、機能性や快適性の説明がどこかに行ってしまい木質パネルのメリットは「早く建設できる」と説明されるようになります。また、日本は空襲や火災で住宅が焼かれ、巨大な自然災害により住宅が壊れ木造に懲りたので、1959年に日本建築学会は木造建築禁止を決議します。それが今ではとにかく木造を増やそうと、50,60年の間に正反対の方向に変わりました。構法や材料を合理的に選ぶといっても、構法の捉え方は多面的であり、その合理性や評価軸は時代によって変わります。ある指標で科学的に評価をしたといっても、たとえば長寿命化や持続可能性は、50年後ぐらいにならないと評価できません。建設時点で選んだ構法の利点について説明されていても、検証がなされていないこともあると思います。逆に当初は気づいていなかった利点が使われることによって権藤智之氏に聞く構法と社会のしくみを変える本号では、東京大学で建築構法・生産システムを研究されている権藤智之准教授に、竹中工務店設計部の近作を視察いただきました。建築構法に関する歴史的展開と、新しい社会状況(情報化、木造の興隆、労働者減少など)についてお聞きし、日本の建設業の将来的な可能性を伺いました。フレキシビリティと構法Interview

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