DESIGNWORKS_64号
5/36

Interview03見つかる構法もあると思います。これは歴史が構法を評価するとも言えるし、設計者が歴史を前に進める、とも言えます。そもそも性能が高い構法が残るわけではないですし、コスト、性能、意匠、施工性、耐久性などトレードオフの関係にある様々な項目から、構法の評価は複合的になされますし、そうした全体のシステムに合った構法が生き残ります。例えば、ハウスメーカー各社には主流の住宅商品があります。その主流の住宅商品に合わせて、メーカーの製造、流通、販売の総合的なシステムが出来上がります。いったん社会的にそれが受け入れられると、その後に開発された他の住宅商品にとっては、いくらその新商品の性能や機能が優れていたとしても、システムが主流の商品に合わせて出来上がっている中での厳しい戦いになります。ある時点で総合的に見れば、主流の住宅商品をつくるのが最も合理的だからです。ただし、それでも新たな構法を開発しないと、いつか社会的には陳腐化していったり、局所最適に陥る可能性があります。バックミンスター・フラーは「宇宙船地球号操縦マニュアル」の冒頭で、現状のデザインの多くをピアノの上板に例えています。船が難破して海を漂っているとピアノの上板が流れてきてつかまった。ただ、それは偶然手に入れたものにつかまっているだけで最良の解決策ではありません。特に建築や住宅の場合は、多くの人や物が関わり、保守的なデザインが合理的だと認識されやすい領域です。そうした近視眼的なデザインを避けるためにも設計者や技術者が新たな構法を開発することは重要ですが、先に述べたような建築がつくられるシステムを少し理解するだけでも、開発される構法は社会大阪木材仲買会館写真:母倉知樹に受け入れられやすくなると思います。構法を進化させる権藤 考えてみると、新たに構法を開発したときに、最初から材料が手に入って職人さんにも文句を言われず使える方が少ないと思います。材料をどう調達するか、どのように組立てるかも手探りです。けれども一度つくれば作り方が分かって、次に使う時にはもっと改良されて、構法と生産システムがすり合わされていきます。使われる中で改良が行われると、構法は残っていくとも思います。だから、施工担当者や技能者からの意見が設計に反映され改良しやすいのは、設計施工一貫の強みだと思います。   建築は、その時代や地域の構法や生産システムとの関係性においてつくられますが、設計者は、それを意識的にドライブして、新しい建築を創造しようとします。権藤 新しい材料が出てくると、どういった使い方や構法が良いかを考えますよね。新材料がでてきたときも、最初のうちは材料の活かし方が分からず、形は過去の時代を踏襲する事例が見られます。英国のコールブルックデール橋は鋳鉄を使った最初の鉄橋ですが、全体はアーチで接合部は木造のような納まり形をしています。そのうちに、その材料しかできない形が見いだされます。パリのサント・ジュヌヴィエーヴ図書館など、鉄でなければ出せない細さです。新しい材料や構法に固有の新しい形や新しい空間、近代化のようなその時代の精神と合致すると、それが普遍的なプロトタイプとして受け入れられていく。竹中竹中育英会学生寮写真:鈴木文人工務店の燃エンウッドも改良を続けていますね。  最初は、燃エンウッドという新構法が、造形や空間を先導する試みでした。権藤 同じ木造でも大阪木材仲買会館と最近の竹中育英会学生寮を比べると、とにかく木材を使うというのではなく、木材をバランスよく適材適所で使うようになってきたという印象を受けます。大阪木材仲買会館は、軒天の張り方やかんなくずを入れたドア、フィンガージョイントの吸音壁まで徹底していて、良い意味で「やり切った感」があります。あの年代の木造木質建築のマスターピースのひとつです。かつて分離派で活躍した後藤慶二が「結晶化」といったように、木造でどのような建築ができるのかを見た人に気づかせた建築だと思います。それに対して竹中育英会学生寮は、構法とデザインなどが現在の生産システムと合致する最適解に近づいている印象を受けます。現代における建築の結晶化   後藤慶二は「建築技術は最先端を走るのではなく一歩遅れることによって結晶化される」と述べています。現代建築における結晶化とは、どのようなものでしょうか。権藤 後藤が言っているのは、様々な分野で新技術や新たな芸術が出てきて、建築というのはそれを、形や空間として結晶化させていく、ということだと思います。建築ですから、社会の役にも立つ必要があるし、性能やコストなども検証されないと使えない。しかも、新しい技術や時代の空気感のようなものを見た人に

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る