DESIGNWORKS_64号
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04Interviewサン・ジャン・ド・モンマルトル教会写真:権藤智之言葉の説明がなくても伝わるように美しく表現していくといった統合性は、他の芸術や工学と比べても建築が持つ、特徴ではないでしょうか。構法自体、素材と素材の組合わせ方ですから、色々な要素を統合していく側面は強いと思います。フランス初の鉄筋コンクリート造の教会建築である、サン・ジャン・ド・モンマルトル教会は、レンガの中空部に鉄筋を通してコンクリート(細骨材を入れたセメント)を打設する構法ですが、現代から見ると特殊解に思えます。ただ、「鉄筋コンクリート建築の考古学」(後藤武、東京大学出版会)などを読むと、構法としては非常に合理的に突き詰められている。レンガはレンガの長所、鉄筋は鉄筋の長所、それらをうまく統合するのが最も合理的であると考えていたのだと思います。鉄筋コンクリートは一体化した構造体で自由で合理的な造形ができるのが利点であると理解してきましたが、単一の材料よりも適材適所で組み立てる方がむしろ合理的だと気付かされ、建築の本質を突いていると思いました。モダニズム全盛期には、建築も工業製品の様に、材料・部品の種類や量を切り詰めることが良しとされましたし、自動車のように合理的につくろうと言われました。建築は無駄だらけだ、切り詰めようという考え方は、ハイテクやライトコンストラクションの頃には行き着くところに行き着いた印象もあり、別の合理性や合目的性を見つけたいという認識は多くの人に共有されていると思います。単にシャープになるべく細く軽く透明に見せればいいというのではなく、いろんな材料が適材適所で活きているというのが、現代的な「結晶化」でしょうか。プレカット写真:宮川工機蔵のつくり方が大きく変わった例だと思います。構法と社会のしくみを変える権藤 そのプレカットが普及する中で、手放したものもあります。通常のプレカットのプロセスだと架構を考えたり、現場を見たことのないCADオペレーターが伏せ図まで入力しますし、問題が起こるような架構を見逃す可能性もあります。分業化の弊害と言っても良いでしょう。大工は1980年の90万人から2020年の30万人まで減りました。大工が減り始めて対策が必要な時期にプレカットで生産性が伸びて問題の認識が遅れ、手遅れ状態になったという見方もできると思います。現在となっては、一層の生産性向上が求められています。スウェーデンでは、木質のモジュラー建築が盛んに供給されています。法的に道路の幅4.3mまでは手続き不要で運べるので、先日訪れた工場では4.3×10.8mが基本の寸法でした。日本は幅2.5mまでです。50㎡近い部屋を工場でつくるわけですから、当然生産性は高くなります。驚いたのは、その工場の経営者が、ベッドが長手方向に2台いれられないからと、さらなる規制緩和を求めていたことです。行政の方でも、認定を受けた設計事務所であれば、新構法を開発するハードルを大幅に下げようとしていました。日本だと、プレカットのように一般的な構法や施工法の生産性はかなり高く、日常的な改良は得意ですが、制度やルールを見直すような意識は薄いのかもしれない。ルールをつくることに積極的なのはシンガポールです。シンガポールでは、建設現場で働いて構法の見えない進化権藤 私にとっては、ヒロイックな空間よりもそれを裏側で支えるエンジニアリングに興味があります。建築を集団で見た場合に、個々の建築の条件によらず一定の時間や地域の広がりをもって採用される技術や、その使われる契機となった建築、および個々の建築における使われ方のバリエーションに関心があります。それは、華々しい話ではなく、「木造で見たことのない空間をつくりました!」というのと、普通のオフィスの間仕切りの構法が着実に改良される話とは世界が違いますよね。後者は見せるためにやっていない。そもそも構法は「下地」であって、仕上げに対しての下地をどう組むかといった話です。そこで頑張ったからといって建築雑誌に取り上げられることもあまりありません。   たとえば木造軸組構法は、昔から何も変わっていなくて地味にも思えますが、進化しているのでしょうか。権藤 日本の住宅の場合、柱・梁で構成する木造軸組構法のことを在来構法と言って、大工や小規模な工務店が建てるどこにでもある構法として認識されてきました。木造軸組構法も、継ぎ手や仕口を機械加工するプレカットなどの技術革新を続けていて、生産性は飛躍的に向上しています。プレカットを使えば、工務店が設計した平面や断面のデータをプレカット工場の人が読み取って生産用のCADに変換し、ルーターが円運動と上下運動をすれば接合部ができあがります。プレカットによって何か新しい空間がつくれるようになったわけではなくて、仕上げの裏側にある構法の、さらに裏側

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