DESIGNWORKS_64号
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Interview05梅田センタービル写真:高橋裕嗣いるワーカーはほぼ100%外国人労働者です。一方で、移民を減らすよう求める圧力も強く、工業化など施工現場の生産性向上を高める取組みが進められています。中でも、Buildabilityと呼ばれる施工性を評価する指標があり、一定の水準を満たさないと建設が許可されません。現在、日本も生産性向上に取り組んでいて、シンガポールに調査に行く実務者や研究者も多いのですが、Buildabilityが参考にしたのは、竹中工務店の複合化率です。日本だと企業ごとに良い取組みがあっても、担当者がいなくなるとやめてしまったりもしますが、むしろ海外で評価されて国のルールにまでなることもある。逆に、日本のゼネコンが海外に行くと、求められていなくても日本のような丁寧な納まりや、施工用の詳細な図面を描いて、生産性が高まらないこともあります。   工芸品のように綺麗に作ってしまう資質は保持しながら、生産性と両立することは可能でしょうか。権藤 付加価値をいかに生み出したかという面の生産性で言えば、つくりこむことで付加価値が上がれば両立できると思います。少し話は変わりますが、先ほどのように社会の方が変わっていって構法と合わなくなれば、構法を直すなど新たに生み出す契機になると思います。竹中工務店はASTM、東京ドームなど革新的な構法や施工法を生み出してきましたし、大阪マーチャンダイズマートビル、梅田センタービルなど、そこまで知られていなくても新技術の集合体のような建築をつくり出してきました。これが課題だと分かれば、プロジェクト単位で技術的な解決策は編み出すのが非常に得意な会社だと思います。一方で、その工芸品のようにつくってきた基盤は、技能者や技術者の経験や、プロジェクトより長いスパンで、きちんと育成や継承していくべきものですよね。生産性とは違うかもしれませんが、このコア技術・技能のようなことがなくなってまで生産性を上げたらどうなるのかは難しい問題です。少し時間やお金がかかってよければ違うゼネコンでもつくれるということになれば、徐々に差別化ができなくなっていくように思いますし、そうした意味では両立しなければならないのではないでしょうか。設計者が先導するデザインビルド権藤 建築業界として見ても今、フロントローディングやBIMで生産性向上といった流れがありますが、それが単にコストや工期の話だけだと魅力的な業界になるのか疑問に感じます。従来30ヶ月かかったもの27ヶ月になって、その27ヶ月が標準になるといったことが続くと徐々に疲弊していきますよね。発注者も設計者も施工者もそうしたことに気づき始めていて、なるべく創造性を発揮する方向に持っていきたいとは感じていると思います。竹中工務店のように設計・施工の両方を見ている会社であれば、そうした創造性のヒントが見つかりやすいように思います。施工現場で職人さんから、「こんなんじゃできない」と言われたときに、みんなで一緒につくり方やそのための仕組みを考えるようなことが大事です。そこで新しい提案をするにしても、コストや工期を踏まえて地に足の着いた提案ができるのが施工も分かっている会社の強み(聞き手:米正太郎・関谷和則・原康隆・奥村崇芳)権藤 智之 (ごんどう ともゆき)/東京大学工学部建築学科准教授1983年2006年2011年香川県生まれ東京大学工学部建築学科卒業同大学院工学研究科建築学専攻博士課程修了日本学術振興会特別研究員(芝浦工業大学)首都大学東京准教授東京大学大学院特任准教授東京大学大学院准教授2011-13年2013-17年2017-22年2022年-主な著書 『箱の産業-プレハブ住宅技術者たちの証言』(共著)彰国社、2013年『内田祥哉は語る』(共著)鹿島出版会、2022年などだと思います。イギリスでは建設業改革のためのレイサム・レポート(1994)やイーガン・レポート(1998)で、受発注者や設計者・施工者間の関係を対立的なものから協調的なものに変えていく方針が示されました。それまでは、お互いの信頼関係が希薄で効率が非常に低く、日本のようにもっと協調型になりましょうと言われたわけです。アメリカも含めて、欧米では設計施工分離ではなくデザイン・ビルドの割合は高まっていますし、BIMの浸透も受けてDfMA(Design for Manufacturing and Assembly製造や組立を考慮した設計)のような用語も様々な国・地域で聞くようになりました。ピーター・グラックという米国の建築家は「アーキテクトレッドデザインビルド」と呼ばれる取組みを行っています。設計事務所の主導で施工会社と人を行き来させて、コスト、工期、施工法をコントロールしながらプロジェクトを進めています。興味深いのは、社会性のあるプロジェクトを一定割合手がけると決めているところですが、ピーター・グラックは若い頃に竹中工務店で働いて、その経験を活かしているとのことです。 そうした地に足の着いた創造性に魅力を感じます。   本日はどうもありがとうございました。、

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