写真:母倉知樹写真:日野雅司写真:古川泰造京都外大西高等学校立命館大学 大阪いばらきキャンパス H棟都住創 コーポラティブハウスで研鑽を積みました。数万平米もの建物を1人の建築家がデザインしようとするときに、強い骨格やシステムを建物全体に展開するような手法を学びました。それは巨大で複雑な施設に対して、建築家の思想を隅々まで行き渡らせるための有効な方法論ですが、いわばルシアン・クロールの思想とは対極です。その方法論を大学施設において最初に実現されたのが埼玉県立大学で、その成功体験を徹底して推し進めたのが、はこだて未来大学だと思います。はこだて未来大学は非常に開放感に満ちています。「スタジオ」と呼ぶ広い吹き抜けの大空間があり、そこに面した研究室や講義室、図書館や事務室もすべて透明なガラス張りで、さまざまな活動が混じり合いひとつの空間を共有する骨格を持っています。強いシステムが使い手に挑むかのような、「自由な空間を与えるから使いこなしてみろ」みたいな感じもします。先日久しぶりに訪問しましたが、今でもとても上手く使いこなされていました。長い年月をかけて「固定席を一部つくりながらこっちはフリーアドレスの席にしましょう」とか、いろんな試行錯誤が繰り返され、建築家の投げかけに対してとても能動的に応えていると思いました。もちろんどんな大学でも、同じように応えられるわけではないかもしれませんが。まちのようなキャンパス日野 こういった隅々まで一つのシステムを行き渡らせることは一つの方法論ではありますが、いろいろな場所でいろいろな風景が展開するような、居方の多様さとどうしても相反してしいうスキルがきわめて高いと思いました。使い手とつくり手の多様性日野 私は学生時代に、ルシアン・クロールというベルギーの建築家に関心を寄せていました。ブリュッセルにあるルーヴァン・カトリック大学学生寮などで、学生をはじめさまざまな住まい手の意見を反映して、開口部など建物立面をデザインしています。そういう住民参加を建築設計プロセスに反映させることに、はじめて取り組んだ建築家の1人です。さらに住宅団地の設計においても、多様な建物群を設計する手段として、CADを導入したかなり初期の人です。多様なヴァリエーションをつくるとかモジュラーコーディネーション(建築生産の全体に基本単位となる寸法モデュールを定めること)をやりきるために、コンピューターを活用した黎明期の建築家です。そういったルシアン・クロールの手法は、日本では「都住創」による都市住宅を自分達の手で創る試みにも影響しています。郊外ではなく「とにかく都市に住む」という強い意思の下、住み手が建設組合を結成して、設計委託から工事発注、完成建物の維持管理までを共同して行う、いわゆるコーポラティブハウスです。都住創がつくった集合住宅は、住戸ごとにファサードが意識的にバラバラにデザインされていて、すごく面白いです。そのような建築の表現が、建築家個人の中から出てくるだけではなく、その状況や住まい手に合わせていくことで結果的に立ち現れてくる、そのような設計手法に、私は学生時代から興味がありました。大学を出て私は、建築家の山本理顕氏のもとまちとキャンパス−連携から再生へ社会状況の変化によって、定員割れや統廃合また社会構造の転換により、学生の知識技術が刷新を求められています。一方で、高齢化となっています。今号では、教育施設を精力的に設計され、かつ大学でも教育に関わられている日野雅司先生をお招きし、立命館大学を視察いただきました。日野 どちらも大学キャンパスの一部ですけども、敷地条件や建物条件が対照的で、とても興味深かったです。京都外大西高等学校は、京都市内にある敷地であって面積的な制約がかなり厳しい中で、必要とされる施設をどう合理的にプランニングするのか、という主題大阪いばらきキャンパスは敷地にも建物にもところを、キャンパスと校舎全体をきっちりとした密度で満たされていることのすごさ、迫力を感じました。特に、キャンパスとまちとの関係がシームレスに連続できている点に開かれたキャンパスはさまざまな先行事例が訪問者の多様な使い方などを高い精度で練りそういった多様さを受け止めるためには、1人にリアリティを持って合理的に物事に向きだと感じます。竹中工務店の設計部は、そうInterview日野雅司氏に聞くが進行するなど、学校淘汰の時代に入りました。などを社会的背景として地域社会の衰退が課題大阪いばらきキャンパスと京都外大西高等学校に対して、効率的かつ魅力的な空間がしっかり確保できていたと思います。一方で立命館大学比較的余裕があり、下手すると持て余しそうなおいて、かなり成功していると感じました。ありますが、複雑な敷地条件を読み込み、建物こまないと、ここまで達成できないと思います。の建築家の作家性を拠り所にするよりも、いか合っていけるかという設計スキルがとても重要02Interview
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