Interview05日野 雅司 (ひの まさし)/東京電機大学未来科学部 准教授1973年兵庫県生まれ1996年1998年東京大学工学部建築学科卒業同大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了1998-2005年山本理顕設計工場2008年SALHAUS設立、共同主宰2007-10年横浜国立大学 Y-GSA 設計助手2017年-東京電機大学未来科学部 准教授主な作品「金沢美術工芸大学」「陸前高田市立高田東中学校」 「群馬県農業技術センター」ほか多数(聞き手:米正太郎・関谷和則・浮田長志・原康隆・奥村崇芳・荒川智充 / 設計者:永井務・堀良平・寺村雄機・金澤潤・田中はつみ)学校建築の新しい形式に挑戦して、その取り組みの成果を積み上げることで、建築界全体の教育施設設計の精度を上げてきた歴史もあります。その上で、今後必要とされる学びの場とはいかなるものなのか、を考えて行きたいと思います。まだこれから考えなければいけない課題として、やはり地域社会との関係などは、まだまだやるべき課題が残されていると思います。地域と大学のサバイバル 人口減少や高齢化という社会的変化を背景に、地方では環境劣化や経済活動の低下が進行しています。各地域の特徴を活用した自律的な地域社会の再生が求められています。日野 教育施設は小学校から大学まで、さまざまなレベルで地域との関わりが深く、学校を考えることは地域社会を考えることだと言ってもよいと思います。そのとき、それぞれ地域にある固有性に着目する必要があると思われますが、この地域の固有性への議論は例えば「この地域にはこういう文化があってその文化を取り入れましょう、地元の木も使いましょう」みたいな話になりがちで、気が付いたらお土産屋みたいな話に矮小化されたりします。地域に固有とは現在持っているリソースのことだけでなく、これからつくられる新しい学校、新しい学びの場がどれだけ地域を上書きして、新しい地域のリソースになりうるかという心意気が必要なのではないかと思います。これは単純に学びの場のデザインというだけでなく、例えばウォーカブルな町を実現するための拠点であるとか、防犯・防災に貢献したりなど、これからのまちづくりにとって重要な役割を果たせるのが学校・教育施設だと思います。 地域社会と大学に共通する課題は多いです。地方にとって、大学キャンパスの存在は地域再生のために必要な資源になりうるでしょうか。日野 地方都市を見てみると、大学があることでなんとか保っているような地域が多くあるように感じます。単純に若い人口を担保しているというだけでなく、看護師など地域のエッセンシャルワーカーを輩出するという重要な役割も担っています。そういった地域は、大学が無くなったらもう衰退するしかない、というようなギリギリの状況です。一方、多くの地方大学も少子化の影響で定員割れを起こしながら、生き残りに向けて試行錯誤している真っ最中です。今、私自身が設計に携わっている小規模な地方私立大学も、地元企業との連携した教育・研究プログラムに力を入れ、まちづくりやコミュニティづくりにも積極的です。私が務める都内の私立大学等と比べても、危機感はずっと高くて、逆にそういった小規模な地方大学こそ、これからは面白くなっていきそうだな、という感じはあります。まだまだ地域社会と教育機関が連携することは、多くの可能性を秘めているのではないかと思います。もちろん全ての大学や地域社会が生き残っていけるわけではないと思いますが、今までにない関係性が生まれてくるのでは、と前向きに考えています。竹中工務店設計部への期待日野 本日、竹中工務店の設計したキャンパスを拝見して、大学と地域の連携は、住民たちがいかにキャンパスを気軽に利用できるか、そこからスタートだなと再認識させてもらいました。地域にあるリソースを使うだけではなく、竹中工務店のような大きな組織の知見を惜しみなく導入していくということが、改めて大事だなと感じています。また同時に、地域に合わせていくだけでなく、地域そのものを創出するという姿勢も感じられ、つくり手側の責任は非常に大きいなと思いました。また細部を見てみると、多様な使い手のニーズがしっかり受け止められて、その精度と密度感を感じることができました。私はゼネコン設計部の仕事の進め方はよく知らないのですが、どうやってこのような多様な条件の中で精度とクオリティを確保しているのかと、そのチームづくりにも興味をもちました。おそらくこれは組織のカルチャーの成果のように思います。この質を維持していただきたいですし、僕らアトリエ系の建築家も負けてられないな、という思いを新たにしました。 本日はどうもありがとうございました。
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