DESIGNWORKS_66号
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写真:小篠隆生写真:小篠隆生Interview03ポートランド ウッドデッキの歩道「地区の家」と「屋根のある広場」サンサルバリオ 「地区の家」中庭をビルボードタワーとして設置しているのも、札幌駅前広場からよく見えますね。そういう意味では、ここからがすすきのの中心だっていうゲート性のようなものがつくられていると思います。すすきの入口の交差点にたつ建築としての振る舞い方として、その場所が歴史的に担ってきた商業的サイン性を引き受けつつ、人の集まる場所をより魅力的にする、パブリックに開く、という2つの都市デザインを行っています。都市との関係性について、さまざまなチャレンジをされて出来上がった結果なのだと思います。境界をずらす/境界を少し消すような配慮が必要とお考えですか。小篠 3作品に共通している話では、「境界をずらすとか、境界を少し消す」方向の計画、設計手法みたいなものが、人びとにアトラクティブな魅力的な場所を提供することに繋がっていると思います。異なる機能ごとに管理・運営されてしまうのではなく、人びとの居場所としてのパブリックスペースをつくるために必要な作法です。アメリカのポートランド都市部のパール地区に行くと、倉庫街だったところが魅力的な公園と住宅地になったりカフェになったりしています。カフェに面する歩道部分をウッドデッキに舗装し直し、まさに官民の境界を曖昧にしています。そこにテーブルやいすを出して魅力的な空間が生まれている。境界線を薄くして、官民両方で管理運営することが結局、空間を魅力的にすることを行政が認めているのです。建物のクライアントやビル運営をする人たちが何を価値として見出すのか、今までの「金銭的な価値だけではない価値」を見い出している人たちが出始めているということなのだと思います。「地区の家」と「屋根のある広場」  まちづくりの主導者は必ずしも行政だけではないと思いますが、まちづくりは、誰がどのように主導していくとよいのでしょうか。小篠 2018年に『「地区の家」と「屋根のある広場」』という本を出したのですが、タイトルにある地区の家と屋根のある広場というのは、既存のビルディングタイプだけに拘っていては、これからの社会のニーズに応える建築が創れないという想いがあるからなのです。イタリアには、「地区の家」と、「屋根のある広場」といわれている施設があり、地区の家というのは日本でいうコミュニティセンター、公民館みたいなところで、屋根のある広場というのは図書館です。トリノ駅近くのサンサルバリオという古い地区は、トリノの玄関のような場所なので、さまざまな国の人が住んでいました。ある時に地元の新聞が、ここは移民が多くて治安が良くないって書いたのです。それをきっかけに、危険な地区だという風評がたち、犯罪なども起きてしまいました。地区の隣に学校があるトリノ工科大学の建築学科の学生たちが、それに疑問を感じて地区の人たちに話を聞いたり、課題や要望を調べたりしているうちに、そんなに悪い地区ではないことが分かり、人びとが本当に欲しいものが「自分たちの活動ができる場所づくり」だとわかりました。そういう情報を行政にもっていっても、行政はお金がないので予算を出さない。そこで、ボーダフォンの財団が出しているファンドに応募して獲得、調査して存在がわかった地区のさまざまな活動団体に声をかけ、自分たちで運営していく、新しいコミュニティの拠点  ひとの居場所を生み出すためには、どのを放置されていた日本の銭湯のようなシャワーハウスを改修してつくりあげました。例えば、イタリアに初めてやってきた移民の多くは、イタリア語の読み書きができないので、自分の得意なことがあっても履歴書が書けない。それを手伝ってあげるサービスなどがあります。イタリア語の習得に関しては、父親は仕事先で、子ども達は遊んでいる間に覚えますが、一番覚えられないのは母親なのです。そこで、子どもの一時預かりができるサービスを設けて母親のためのイタリア語教室を開くといった、地区の住民のニーズに柔軟に対応する活動を行なっています。それは福祉政策として行政がやるべきことですが、行政はその地区の情報を持っていなくて何をやっていいか分からないとか、そこだけ特化してやるわけにいかない、ということで、ほとんど何もできなかった。でも情報として課題が収集され、それを解決できる人材と場所があれば、行政ができなくても地域が自立して行なっていけるというコミュニティの再生につながっているのです。旧シャワーハウスの駐車場は、全部中庭に改修されましたが、老若男女が始終集まります。ここでも都市におけるパブリックスペースの重要性がよく分かります。東川町の取り組み  オープンスペースをつくるときにどういう設計をすれば、人びとに使ってもらえるかをいつも悩みます。先生がかかわった東川町では、どのようなことを考えられましたか。小篠 東川町にある「せんとぴゅあ」は、もともとまちの中心にあった小学校を、移転後リノベーションしてギャラリーやカフェ、多目的なホール、日本語学校といった機能に転換しました。さらに、

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