森とまちの未来を
つくる1
写真:大阪木材仲買会館(大阪府、2013年竣工)
森林⼤国⽇本と森林の多⾯的機能
当社が⽊造・⽊質建築に取り組む背景には、⽇本における森林・⽊材活⽤の現状があります。
⽇本は、国⼟の約3分の2が森で覆われ、先進国で第3位をほこる世界でも有数の森林国です。
⽇本は世界でも有数の森林⼤国です
森は⽊を育て、⼟壌を守り、⽔を蓄えます。また最近では地球環境保全機能として森林が⼆酸化炭素を吸収・固定する機能が、注⽬されています。さらに森林には、⽣物の多様性を保つ役割や保健・レクレーションに関わる役割もあり、私たちは様々な恩恵を森林から受けているのです。
森林の有する多⾯的機能
(出典:平成22年度森林・林業⽩書)
様々な問題を抱えている⽇本の森林
しかし今、⽇本の森林は危機に瀕していると⾔われています。
近年の林業の低迷に伴って、⼿⼊れが⼗分に⾏われていない森林が増えています。戦後復興期に⾏われた拡⼤造林政策により植林された⽊が成熟期を迎え、その森林貯蓄量は49億㎥(2012年現在)、年々8000万㎥ずつ増加をしているにも関わらず、国産⽊材の利⽤は2500万㎥で国内で使⽤する⽊材量の3割にとどまっています。
本来森林は「植える→育てる→収穫する→使う→植える→…」という「森林サイクル」が維持されることで健全を保っています。⼿⼊れをされないままの森林は荒廃し本来の役割を果たせません。成⻑が⽌まった⾼齢⽊ばかりになり、期待されている⼆酸化炭素を吸収・固定する機能にも⽀障をきたすことになります。
このことから、⽇本の林業を活性化し、「⼭林の⼿⼊れ」「⽊材の利活⽤」をすることが必要とされています。
林業の衰退は、⽇本の環境問題に直結しているのです。
「植える→育てる→収穫する→使う→…」というこのサイクルを、森林サイクルといいます。
⽊造・⽊質建築への気運の⾼まり
⽊材利⽤促進のために政府もさまざまな施策を講じています。建設分野では2000年に建築基準法が改正され、必要な性能を満たせばどんな建物でも⽊で建物を建てることが可能になりました。この法改正をきっかけに、2010年には「公共建築物⽊材利⽤促進法」において低層の公共建築物へ⽊材利⽤が義務付けられる等、⽊造建築物の気運が⾼まりつつあります。
建築に⽊を⽤いることは、⽇本の森林を再⽣すると同時に、⽊の「ぬくもり・やすらぎ」への親しみといった従来⽇本⼈が持っていた記憶を呼び起こし、多くの⼈々の関⼼を集めています。
当社が⽊造・⽊質建築に取組む2つの側⾯
当社の⽊造・⽊質建築への取組みには、前述の社会的背景と、もう⼀つの側⾯があります。
それは、当社が1610年に創業し、神社・仏閣の造営の時代から⼀貫する「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」経営理念です。
当社は400年にわたり、時代とともに変化する社会のニーズに対し、その時代の最適・最先端の技術を駆使し、最良の作品(建築)を⼿がけることで、信頼をいただいてきました。
東京ドーム、ナゴヤドームなど⼤型ドームを多く⼿掛けた1990年代には、当時最先端の⽊造技術を⽤いて⼤規模⽊造ドームを開発しました。
⽩⻯ドームにおける⼤断⾯集成材技術の利⽤や、⼤館樹海ドームにおける国産⽊材の活⽤は、今⽇に先駆けた⽊の利⽤への取組みです。
⽩⻯ドーム(広島県、1992年竣⼯)に⽤いられた⼤断⾯集成材のキールアーチ。欧州で普及しつつあったビッグフィンガージョイント⼯法を⽇本で初めて採⽤し、⽊製の梁を架け渡して、差し渡し50m近い体育館の屋根を⽀えています。
地元産のスギ約4000㎥を⽤いた⼤館樹海ドーム(秋⽥県、1997年竣⼯、愛称:ニプロハチ公ドーム)。多雪地域に、外国産⽊材に較べて強度が低いとされている国産スギの弱点を克服して、⻑径178m×短径157m、室内野球が可能な世界最⼤級の⽊造ドームを建設しました。
このようにして、⽊造・⽊質建築が制限されている中でも、その時代の最新の技術を駆使して「⽊造・⽊質建築を推進したい」というステークホルダーのニーズに応えてきました。
そして2000年、前述のとおり建築基準法改正により、⽊造・⽊質建築に関する規制が緩和されたことで、上記のニーズに対し、新たな取り組みによって⼀層期待に応えることが出来るのではないかと考えました。
その取組みとは、
- ⽊造・⽊質建築を技術開発により促進する「⽊のイノベーション」の創出
- 所有者不明の森林の増加、境界未確定の森林の存在
- 林業復活、森林再⽣を通じまちづくり・地⽅創⽣に繋げる「森林グランドサイクル」の構築
「⽊のイノベーション」の創出
これまで以上に建物に⽊を使うこと、それは⽕災や地震に対する安全性、⽊の耐久性など多数にわたる課題への挑戦です。しかし、これまで社会に貢献する作品(建築)づくりで培われた「技術開発⼒」「設計⼒」「施⼯⼒」の連携により、当社は⽊のイノベーションを創出しています。
このイノベーションによって、社会課題の解決とともに、ぬくもり・やすらぎといった⽊の良さを活かし、まちの未来を描いていくことが1つ⽬の取組です。
当社が開発した新しい⽊材利⽤の技術、「燃エンウッド®」等は、まさに課題解決+⽊材の良点を発揮させる「⽊のイノベーション」です。
耐火性能を有する集成材「燃エンウッド®」
まちなかの自動車ショールームに燃エンウッドが採用された例
「森林グランドサイクル」の構築にむけて
⽊のイノベーションにより、森林資源が建設市場で活⽤されることで、より活発な経済と資源の循環が期待できます。
林産県を中⼼にこの循環が起こることで、地⽅都市やまちに、よりサステナブルな都市構造への再編を促します(地⽅創⽣・まちづくり)。⽊の利⽤の場が拡⼤することによって⽊材需要が創起され、林業の復活とそれによる森林再⽣、そしてその先は富と資源の循環につながるのです。
当社は、森林と社会における資源と経済の循環を「森林グランドサイクル」と名付け、その構築に向けて、林業事業者・各⾃治体など各⽅⾯のステークホルダーとの連携を進めています。
「森林グランドサイクル」は、従来の森林サイクルを越えて森林と社会における資源と経済の循環を促します
私たちは、森林への理解深耕に積極的に取組んでいます
経済同友会、地⽅創⽣委員会を通じた、地⽅創⽣への取組みの様⼦
都市⽊質化を通じた地域交流も⾏っています
Voice
大阪木材仲買協同組合 事務局長 大町洋三様
⼤阪⽊材仲買会館は、「国産材(国産の⽊材)が、まちの様々なところで使⽤され、まち全体が活性化してほしい」「国産材と国⼟を守っていきたい」という想いから、『⽊材業界のランドマーク』を⽬指して建てました。2013年の竣⼯以降、会館は建設,⽊材関係のお客様に加え、⾏政・⼤学の⽅々や海外からのお客様など、幅広い分野のお客様にご覧頂いています。私たちは、お越し下さった⽅々へのご⾒学対応を通じて、「国産材活⽤の促進」の重要性を伝えています。
現在⽇本は⽊材⾃給率が30%と国産材があまり活⽤されておらず、⽇本の林業は衰退しています。また、最近は森林機能の低下により、⼟砂災害などの災害が多発しています。いまこそ「林業復活」「森林再⽣」にむけて動き出す必要がありますが、簡単に達成し得る課題ではありません。これらの難題を解決するために、私は
・ 様々な団体,企業が協働し、林業復活・森林再⽣にむけての課題解決に努めること
・ 各々の団体,企業が、林業復活・森林再⽣にむけてできることを、地道にでも始めていくこと
が重要であると考えます。また、林業復活・森林再⽣をなすには、国産材の活⽤が前提となります。
そのような状況の下、⽵中⼯務店さんは「森林グランドサイクル」の考えで、林業復活・森林再⽣にむけて活動を展開しようとしていますよね。「国産材活⽤の技術開発や概念を、建物の中のみならずまちづくりの中に取り込む」活動は、国産材活⽤を促進させる素晴らしい活動であり、これを実⾏するだけでも林業復活・森林再⽣に繋がると思います。
ともあれ、『⽊材活⽤のまちづくり』となると⽊材仲買会館のようなランドマークモデルケースから更に幅が広がります。そのために、⽊が活⽤できる分野の技術開発をすすめることも⼤切であると考えます。
また、さらに活動を深めるためには、具体的な活動内容を明⽰することが⼤切なのではないでしょうか。たとえば、「1つのまちにおいて、どれだけの国産材を使⽤するか」と具体的な数値⽬標を設定したり、それに対する実績値を明⽰したりすることで、「⽵中⼯務店は森林グランドサイクルを社会に対して訴えかけている」「林業復活・森林再⽣に対し本気である」という印象を抱くはずです。
そして、森林グランドサイクルの活動が「まちづくり」のビジョンや⽬標に偏ってしまっていては絵に描いた餅になると思います。なので、⽇本の林業や森林についても、将来どうあるべきかをまちづくりと同様、具体的に考える必要があるのではないでしょうか。
今後森林グランドサイクルを回していくために、様々なステークホルダーと協働しながら、具体的にどのような課題解決,⽬標設定を検討され、そのために必要な技術開発が何か、これらを深く考え実⾏されることに、私たちは期待しています。
大阪木材仲買会館と大町事務局長