長周期地震動による建物被害額を評価するシステムを開発~被害を減少させて不動産価値の低下を防ぐ~
2013年10月24日
株式会社竹中工務店
竹中工務店(社長:宮下正裕)は、超高層ビルなどの鉄骨造建物を対象に、長周期地震動による二次部材や各種設備などを含む建物本体の被害額(復旧費用)を推定するシミュレーションシステムを開発しました。本システムを活用して算出した想定被害額を既存建物の耐震補強や新築時の構造設計に反映することで、建物被害を軽減させると同時に、不動産価値の低下を防ぎます。
従来、一般的には建物被害額や※予想最大損失率(PML)を算出する際,長周期地震動は考慮されていませんでしたが、東日本大震災を受けて、長周期地震動による被害予測とそれに基づく対策が求められています。当シミュレーションシステムを活用することで躯体に加えシステム天井などの二次部材や空調設備などを含む被害をも予測し、より正確な長周期地震動による被害額とPMLを算出することが可能になりました。
基本的には既存建物への適用を目的としていますが、設計初期の段階に当システムを活用することで、設計計画に反映することも可能です。今後は、当面当社設計のプロジェクトを対象に有償で提供させていただく予定です。
本システムは、すでに「飯野ビルディング」(千代田区内幸町)で適用されています。
- ※予想最大損失率(PML:Probable Maximum Loss)
不動産売買や投資判断に当たり、対象に内在するリスクを事前に多角的に調査する「不動産デューデリジェンス」などで地震リスクを表す指標として使われる。今後50年間に10%の確率で発生するとされる大きな地震に関して、予想される最大の物的損害額を建物の再調達価格との比で示したもの。
J-REIT(不動産投資信託)など不動産取得の際に必要なER(エンジニアリングレポート)で行われる通常のPML評価では長周期地震動はほとんど対象外とされているが,長周期地震動は,デューデリジェンスのER作成に係るガイドラインでも,今後考慮すべき事項として挙げられている。
【システム概要】
以下の手順により、高い精度で建物の損傷を評価し、被害額を推定することが可能です。
- ①想定地震の設定
中央防災会議などの公開データをもとに設定。 - ②長周期地震動データの作りこみ
国土交通省のパブリックコメントに盛り込まれた手法に準拠。ばらつきを考え1つの想定地震あたり約1000の地震動を生成。 - ③建物の3次元地震応答解析
②で作りこんだ約1000の地震動全てで建物がどのように揺れるかを計算。解析には建物の3次元モデルが必要。 - ④部材の損傷評価
長周期地震動が発生すると、部材に長時間繰り返して力が加わる。そこで,従来からの階単位の評価に加え、柱や梁など部材ごとの疲労による損傷を含めた建物(構造)の損傷も評価することで、より高い精度で評価することが可能。また、二次部材や設備などの損傷も評価することで,躯体、内装、外装、設備などの部位ごとに被害額を算定することが可能。 - ⑤最大損失率(長周期地震動によるPML)の算定
約1000パターンについて損失率を計算し、所定の確率(90%)で生じる最大の値を最大損失率(長周期地震動によるPML)と算定する。 - ⑥対策効果の検証
免震や制振対策後の被害額を再計算し、比較することで、費用対効果の高い対策を立案することが可能。
【長周期地震動について】
東日本大震災では、発生した長周期地震動により、震源から遠く離れた都心にある超高層ビルが長時間大きく揺れました。東海、東南海、南海などの海溝型地震でも長周期地震動が発生すると予測されており、特に超高層建物でその影響が懸念されています。
当社は、構造的な被害を予測し、法的な対策の必要性の有無を判定する「長周期地震動リスク判定システム(TRAIN®-L)」や、事業継続に欠かせない情報を提供するBCP被害推定システム「TRAIN®-BCP」などと併せ、お客様の安全確保やBCP(事業継続計画)策定のために、様々なご提案をさせて頂きます。