
大学入学時は文系の学部を選択していましたが、国際交流で北欧を訪れた際、20世紀を代表するフィンランドの建築家アルヴァ・アアルトが設計した建築に感動し、建築学科を専攻することを決意しました。
アアルトをはじめとする北欧の建築では、自然の光が室内に積極的に取り込まれているほか、地元で採れる木材などがインテリアに用いられており、視覚的にも体感的にも温かみのある空間でした。北欧の気候や風土に基づいた建築を体感したことから、「環境デザイン」に興味を持ち始めました。

アアルト記念講堂

アアルト・スタジオ
大学の研究室では、建築環境の実測技術と環境シミュレーションによるデザインを学びました。
まず、様々な地域や建物で温湿度や風速などを実測し、自分が心地よいと感じた時のデータを元に、目指すべき環境を研究しました。
現在も温度計、サーモカメラを常に持ち歩き、実測するのが癖になっています。完全に職業病ですね(笑)。
さらに研究の成果を環境シミュレーションに展開、室内外の環境条件を生かして建築の形やプランニングに結び付けるデザインの手法を習得しました。

サーモカメラでの実測

入社2年目に医療関連の開発・展示施設の設計を担当し、環境シミュレーションを用いた外装デザインを実践する機会を得ました。
もともとの設計案ではガラスカーテンウォールの外装だったので、日射が室内に直接入り、環境負荷が高くなる可能性がありました。
そこで、外部に縦方向の板材(ルーバー)をとりつける外装を提案し、室内に直接日射が入ることを防ぎつつ、間接的に自然の光を取り込むことで、開放的な施設を実現しようとしました。太陽の動きや隣地建物など周辺環境を与条件とした環境シミュレーションを行い、ルーバーをランダムに配置するという最適解を導きました。建物が竣工したとき、学生の頃から取り組んでいた環境デザインを実現できたことに達成感を味わいました。

シミュレーションによる外観デザインの変遷

完成した建物の外装 |
ランダムに配置したルーバー |
竹中工務店の設計者の一人として誇りに思っていることは、当社が時代に対応した環境デザインを常に実践し社会に貢献してきたことです。
戦前、当社に在籍していた建築家の藤井厚二が、京都の自邸「聴竹居」の設計において、屋根裏換気や地下冷気の取り込みなど自然風を生かしたパッシブな手法で、当時最先端の環境建築を実践していました。
現在も、超高層立体集密都市をコンセプトとした「あべのハルカス」では、冷房排熱の給湯利用やバイオマス発電など、オフィスやホテル、商業など複合用途の特性を生かした環境デザインへの取り組みがされています。

聴竹居

あべのハルカス
今後はVRやAI、ロボティクス、エレクトロニクスなど新たな技術が加わることで、生活の質が変わり、人々が環境建築に求めるニーズはより高度化、多様化すると考えています。
このような社会変化の中で、建築を使う人はもちろん、周辺地域や都市の人々が快適に暮らせるような環境デザインを実践していきたいと思います。

環境デザインの実践