竹中の人
さまざまなステークホルダーの想いを、世界にたった一つの建物に込める
似鳥 秀太
Shuuta Nitadori
東北支店 作業所(2020年10月掲載当時)
似鳥 秀太
建築は、一つとして同じものはない

私は学生時代までサッカーをしていて、多くのグラウンドを訪ねる機会があり、スポーツ施設に興味がありました。「東京ドームをはじめ、日本国内の多くのドームやスタジアムを手掛けてきた竹中工務店で、スタジアムの建築に携わりたい」という想いのもと、2007年に入社しました。東北支店で作業所の施工管理などに従事し、はや13年。東日本大震災の復興工事も含め、東北6県で、オフィス、大学、図書館、病院、工場など、様々なお客様を相手に多種多様な建物の施工に携わってきました。一つとして同じものがない作品づくり、それに対するお客様をはじめとするステークホルダーの熱い想いを受け止め、目の前のプロジェクトに真摯に、丁寧に向き合っています。

配筋検査の様子(左が本人)

配筋検査の様子(左が本人)

相手に寄り添い、粘り強く対話を繰り返す

作業所を円滑に運営するためには、お客様、設計者、役所、近隣、協力会社等、様々なステークホルダーとの連携が不可欠で、コミュニケーション能力が非常に重要です。私は5人妹弟の賑やかな環境で育ち、コミュニケーションには自信がありました。しかし、入社後数年は物言いや立ちふるまいについて先輩社員から指導を受けることも少なくなく、改善に取り組んできました。そんな私が、経験を積んでいくなかで、気づいたことがあります。

以前は職人さんに工程表を提示する際、自分の検討結果を一方的に押し付けていました。現在は、自分が作成した草案を職人さんに見てもらい、お互いが納得できるまで話し合って決めています。
「相手に寄り添い、粘り強く対話を繰り返す」。そこで生まれた良好な関係が、最良の作品を世に遺す、という目標に向かって共にまい進する原動力になると確信しています。

上棟式:ステークホルダー一丸となって工事を進めます

上棟式:ステークホルダー一丸となって工事を進めます

五感を使って、施工管理をする

ある医療施設のお客様から「使う人の身になって考えてほしい」とのご指導をいただいたことがあります。例えば、廊下やトイレの手すり。身体にハンデのある方にとっては極めて重要な役割を果たし、使う人の背丈やわずかな寸法の違いで使いやすさが大きく変わります。時には、トイレのペーパーホルダーが手すりを使用する際の障害物となることもあります。このご指導により、使用者の目線に立って使用状況を想定し、自ら行動し確認することが、施工担当者として求められる姿勢であることに気づかされました。若手時代に、当時の作業所長から「五感を使って施工管理をする」よう指導されてきたことが、身に染みた瞬間でした。

余談ですが、このお客様が、雪が降りしきるなかでの長時間の通勤を心配してくださり、お客様の寮での宿泊を提案していただいたことがありました。私の日頃の言動がお客様の心に伝わり、一個人としても良好な関係を築けたのだと思います。とても嬉しく、誇りに思った出来事でした。

時には厳しく、時には温かく、成長を見守ってくれる上司たちとの親睦会(2009年11月撮影:右上が本人)

時には厳しく、時には温かく、成長を見守ってくれる上司たちとの親睦会(2009年11月撮影:右上が本人)

長く、不具合なく、快適に使用してもらうために

完成後の建物を維持・保全するFM(ファシリティ・マネジメント)の経験がある私は、デザイン、コスト、工期を満たしたうえで、お客様に建物を「長く、不具合なく、快適に使用してもらう」ようにすることを常に意識しています。そのための第一歩は、お客様、設計者、協力会社と対等な関係性を構築し、協議するための「旗振り役」を務めることです。

着工前の設計図に、使い勝手やメンテナンス上のウィークポイントとなり得る箇所を見つけることがあります。例えば、守衛室や集中管理室などの「重要機能室」には分電盤や受変電設備が置かれていますが、万が一、漏水が発生し機器が故障すると、建物の機能を維持できなくなります。そのため、給排水管を部屋内に配置しない、あるいは漏水しても機器に達しないような措置が必要ですが、他社の設計では図面に記載がないこともあります。このようなリスクをお客様にお知らせし、設計者と共に防止策を講じることが、建築のプロである我々のあるべき姿だと考えています。

想いをかたちに 未来へつなぐ

引渡後の建物の様子が気になり、改修工事を担当したワイン工場でのイベントに参加しました。お客様をはじめ多くの来場者の笑顔と盛り上がりを見た時、達成感と同時に「長く、不具合なく、快適に使用してもらう」という姿勢が正しかったことを実感しました。

多くの来場者で賑わうワイナリーの収穫祭

多くの来場者で賑わうワイナリーの収穫祭

現在は、母校である東北学院大学のキャンパスを統合するという2年がかりの大きなプロジェクトを担当しています。母校の工事担当という滅多にない機会が巡ってきたことに感謝しつつ、多くの後輩が未来永劫誇れるような建物となるよう、そしてまちのシンボルとなるよう、これまでの私の経験の全てを注ぎ込んでいます。これからも、一つとして同じではない建築の施工に対し、妥協することなく、自分にできる最良を追求し続け、ステークホルダーの想いをかたちにすることに貢献していきたいです。

母校の起工式の様子(壇上は東北学院理事長)

母校の起工式の様子(壇上は東北学院理事長)

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