竹中の人
イノベーティブな思考で
社会課題を解決し、
誰もが取り残されない
未来をつくる
浅井 隆博
Asai Takahiro
エンジニアリング本部 兼 経営企画室 新規事業グループ(2023年5月掲載当時)
浅井 隆博
思考に変化をもたらした二度の転機

私は大学で経営システム工学を専攻し、工場などでのモノの流れやそこで働くヒトの作業の分析をもとに生産性を向上させる手法を学びました。学んだことを活かすため、ラインを持つ製造業で生産性の向上を図る仕事、その中でも、幼少の頃から身内や友人に高齢者や障がい者がいたことから、介護や福祉の用具メーカーで力を発揮したいと思っていました。ところが、就職活動中に私の人生を大きく変える出来事がありました。偶然聞いた当社のリクルーターの説明によって、学んだことが製造物流施設の計画に活かせるだけでなく、それ以外の用途の建物を含め、あらゆる人が快適に過ごせる空間づくりに関わることができると知り、想像もしていなかった業界に足を踏み入れることになりました。

入社後は、おもに物流施設や工場の計画に携わりました。生産フローや作業の分析をもとに、機器の選定やレイアウトからメンテナンスまで一貫してプロジェクトに関わりました。そのおかげで、ユーザーをはじめとする建築に携わるすべての関係者の目線で物事を考えることが出来るようになりました。入社から17年が経過したころ、その後のキャリアプランを考えるなかで、違う分野で経験を積み、視野を広げたいと思うようになりました。社内でスタートしたイノベーション人材育成活動と私のジョブローテーションのタイミングが運よく重なり、上司の働きかけもあり、スタートアップ企業に出向することになりました。この機会が、私の視野を建築の枠を超えて、さらに広げることになりました。

建築の枠を超えたスタートアップ企業での経験

出向先では、中小企業と大手企業のマッチング業務を担当しました。さまざまな中小企業を調査・訪問し、優れた技術の活用方法を考えたり、その技術を必要とする大手企業を探したり、シーズとニーズのマッチングで両者の課題解決を図るのです。最初のころは「門前払い」されることも少なくなく弱気になることもありましたが、チームメンバーの考え方やモチベーションに刺激を受けるにつれ、私の思考や行動が次第に変化していきました。それまでの私は、与えられた課題をいかに自分の力で解決するかという合理的な思考スタイルでした。一方、メンバーは自ら社会課題を見つけ、周囲を巻き込みながら解決に導くという人たちばかりでした。私も、関係者との対話や課題の設定に多くの時間をかけ、失敗を恐れず、解決に役立ちそうなことをどん欲に探すようになりました。ここで学んだことは「情報の中心=起点」になることの大切さです。失敗を恐れずに行動し、情報を発信すれば、自然に多くの情報が集まり、イノベーティブな発想につながるのです。

様々なアイデアが生まれるオープンイノベーションの拠点「COT-Lab新橋」での打合せ

様々なアイデアが生まれるオープンイノベーションの拠点「COT-Lab新橋」での打合せ

建設業におけるロボットの活用と多様性に配慮した空間づくり

1年間の出向を経て、2018年に帰任した私は、ロボットの操作や管理を効率化するシステム「ロボットプラットフォーム」の構築に向け、プロジェクトチームを立ち上げました。その理由は3つあります。一つ目は、システム構築という点で生産設備とロボットに共通点があること。二つ目は、新しい分野の開拓に出向の経験が生かせること。そして三つめは、私の夢でもある「高齢者や体が不自由な人の生活を豊かにする」ことにつながること。ロボットが自由に動くことができる空間は、車いす利用者が不便を感じずに移動できる空間でもあるのです。

社内チームメンバーやベンダーの皆様との実証実験

社内チームメンバーやベンダーの皆様との実証実験

建設業でも労働者不足を解決する手段としてロボットの活用が進められていますが、ロボットに自分のいる場所を認識させ、目的地まで走行させるだけでも一苦労です。一般的にロボットが自律走行するためには事前準備が必要で、手動操作によりロボットを走らせ、走行範囲を地図にして覚えさせる作業が必要になります。この覚えた地図を基準に現在位置を把握し自律走行ができるようになります。こうした準備をしなくても3次元の建物デジタルモデルであるBIMデータを利用して走行用の地図を作ることができる「ロボットプラットフォーム」を開発しました。さらに、このプラットフォームでは、エレベーターを新設することなく、既存のエレベーターにデバイスを取り付けることで、移動の妨げになる扉の開閉やエレベーターの乗降などの支援を行います。例えば、1階にいるロボットが「5階に移動して」という指示を出すと、1階のエレベーター外部に取り付けられたデバイスが受信し、ドアを開けます。同時に5階のエレベーター外部に取り付けられたデバイスが上下ボタンを操作することにより、到着階で降りることが出来ます。火災や地震が起きたときの制御も課題でした。避難の妨げにならないよう、周囲の様子を見極めながら、ロボットを停止させたり指定した場所に自ら移動させたりする仕組みを開発しました。開発にあたっては、作業所の妨げにならない時間帯に実験をするなどの苦労もありましたが、メンバーと議論を重ね、試行錯誤を繰り返すというプロセスはまさにスタートアップそのものです。

エレベーターを改造することなく、ロボットと連携するデバイスを開発

私の主な役割のひとつは、開発した技術やサービスをプロジェクトに展開することです。最初は自分の想いだけで活動を始めたようなものですが、「情報の起点」になることで、お客様のニーズや社内のアイデアなどさまざまな情報が届き、想像すらしなかった展開の可能性を日々感じています。今後は、作業所での管理だけでなく、フードデリバリー、清掃、消毒といった作業を行うロボットを導入したオフィスなど、「新しい価値の提供」にも寄与していきたいと考えています。

誰もが取り残されない社会のために

SDGsへの社会的な関心の高まりもあり、高齢者、障がい者、外国人などをデザインプロセスの上流から巻き込む「インクルーシブ(包括的な)デザイン」が注目されています。当社は建築デザインをはじめとするハード面で実践していますが、私はさらにサービスロボットというソフト面でも貢献できると考えています。例えば、様々な理由により働きたくても働けない人々が、「場所」や「時間」の制約を受けずに、ロボットを遠隔でオペレーションするといった社会参加の機会を提供できます。
ロボット技術の進歩は目覚ましく、今後も想像できなかったことが実現されていくと思います。その流れに乗り遅れないよう、これからもイノベーティブな思考を忘れず、建設業の枠にとらわれることなく、さまざまな発想をかたちにしていきたいと考えています。そして、それが特定の問題で困っている人のための取り組みであっても、社会のより多くの人の役に立ち、「誰もが取り残されない社会」の実現につながることを心から願っています。

折を見ては社内外でロボットを走行させ、認知度を高めるとともに新たな情報収集のきっかけづくりを続けています。

折を見ては社内外でロボットを走行させ、認知度を高めるとともに新たな情報収集のきっかけづくりを続けています。

back number