北野 雅人  きたの まさと

2009年入社

  • 環境・社会研究部 研究主任

学生時代の専門分野:自然生態

鳥害対策やまちづくりに貢献する、竹中工務店の唯一の「鳥博士」

北野の専門は、鳥類の行動生態。

その特徴的な専門性を生かし、建物の鳥害対策や環境アセスメント相談、緑地等における生物多様性保全に関する研究開発など、環境に配慮したまちづくりに貢献している。
2019年には、自身が研究開発に携わった、ハト・カラス対象のエア吹出し式防鳥設備『TORINIX®(トリニックス)』がリリースされ、注目を集めた。

社内でも異色の分野に取り組み、“キワモノ研究者”と自称する北野。その独特の立ち位置で、何を思い、どのように研究開発と向き合っているのだろうか。

防虫分野の後継者として入社。ニーズに応えていくうちに鳥専門に

「緑化生態環境グループの中でも鳥類専門は僕一人。ゼネコン全体でも鳥専門で研究している人はいないんじゃないかな」

北野が鳥類の研究を始めたのは大学院から。それまで国内で誰も着手していなかった『風力発電施設におけるバードストライク(※1)』をテーマに、“絶滅危惧種の保全”の観点から研究に取り組んだ。

そんな北野だが、実は、鳥ではなく、防虫分野の後継者として入社している。

「大学にリクルートの話が来て、研究者としては防虫の後継者として入るけど、鳥やネズミのニーズもあり、入ってから研究分野を広げることもできる自由な社風の会社だから、と声がかかったんです」
それまでゼネコンには全く関心がなかったが、「自由に研究もできそうだし、ゼネコンという“環境改変がどうしても伴う業種”だからこそ、生態系を保全する方向性の研究や知見の必要性も高そうかな」と、入社を決断した。

「入ってみると、予想以上に鳥の被害とか鳥を指標にした保全関係のニーズがあって、自然にそっちになっていきました。会社的にもボトムアップで研究テーマを作っていける風土があって、自由に研究開発ができる!という空気は事前に聞いていた以上でした」

  鳥が風車の羽根に衝突死することで、国内ではオジロワシなどの絶滅危惧種への影響が危惧されている。

特殊な分野だからこその厳しさやジレンマも

「大学での研究はどれだけ論文を書くかが勝負だけど、企業の研究員はベースとしては会社にいかに貢献するか。研究もするけど、開発もしなけりゃいけない」

研究開発に苦労はつきものだが、そこには特殊な分野なりの事情もある。

「本業とは遠いニッチな分野では、自分で開発したものを自分で売っていかなきゃいけないところがあります。開発して、検証して、技術営業のようなこともやって。自由にやらせてもらっているけど、責任は最後まで自分で持たなければならない。そこがツライところです」

また、自然を相手にする生態学の分野と、建築のように数値で評価できる部分が多い分野とでは、関わる人たちの認識にズレがあり、やりづらい面があるという。

「例えば鳥害対策って、やれば必ず防げるってものでもないんです。隙間をネットで物理的に塞げば100%侵入を防げますが、鳥の行動生態を踏まえた対策では、個体差など不確かなところがあったりするため、そうはいきません」

北野には、今も忘れることができない苦い経験がある。
「実は、そういったリスクや前提を共有できないままプロジェクトが進んでしまったことがあって…。生き物の行動に“絶対”はないし、数値的にも幅のあるところが理解されにくい。当時はかなりへこみましたが、設計者や建築主には前提条件などを丁寧に説明し共有しなきゃいけないと思いました」

技術営業で実感した課題。忙しくても頼られるのは嬉しい

2019年にはジョブ・ローテーション(※2)で技術営業の部門へ。お客様とダイレクトに接した1年間は、貴重な経験となった。

「今の研究の流れで『TORINIX』の展開とか鳥害対応を担当しました。鳥害でお困りのお客さんから被害内容や許容コストなどを聞いて、対策を提案する業務が多かったです」

そこで感じたのは、“お客様の意識”という壁。
「虫の場合は異物混入という喫緊のニーズがあります。対して、鳥の場合、糞害はどの建種にも発生するので間口は広いものの、お客さんは“困ってはいるけれど、お金はそんなに出せない”っていう。例えば『TORINIX』 は、もともとは建物の意匠性を損なわないという設計者のニーズとか、生物との共生(鳥に外傷を与えないで忌避させる)に繋げたいという目的で開発した経緯がありましたが、技術営業に関わることで建築主が求めているニーズとの多少の違いを感じました」

生物多様性の保全と鳥害対策の研究開発を続けながら、問い合わせや受託への対応。北野はそれらを一人でこなし、多忙な毎日を送っている。
「本音としてはもっと研究して論文を書きたい気持ちはあります。でも、いいですけどね。頼られるのは嬉しいので。今後は、お客様の多様なニーズをベースにしながら、生物の生態的知見や情報の蓄積などを通して、生きものと人の共生に繋がる研究や技術開発を進めていきたいです」

  職務範囲の拡大のために実施しているジョブ・ローテーション制度(職務転換)のこと

2020年10月に行ったインタビューを元に執筆しています。

プロフィール

北野 雅人  きたの まさと

  • 技術研究所
  • 環境・社会研究部
  • 研究主任

専門は鳥類の行動生態。大学院では『風力発電施設におけるバードストライク』をテーマに研究に取り組む。入社後は、その専門性を生かし、主に建物の鳥害対策や緑地等における生物多様性保全に関する研究開発に従事。
2019年には、ハト・カラスを対象としたエア吹出し式防鳥設備『T0RINIX®(トリニックス)』が実用化されている。

専門分野

  • 生態学
  • 鳥類学
  • 環境アセスメント
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竹中技術研究所研究員クローズアップ