熊谷 博人  くまがい ひろと

2009年入社

  • 建築基盤技術研究部 研究主任

学生時代の専門分野:建築構造

見えない地下で建築を支える地下工法のスペシャリスト

見上げるような建物も、その足元は地中の奥深くにある見えない技術に支えられている。
熊谷は基礎工事の第一ステップとして重要な役割を持つ山留め(やまどめ)の専門家だ。入社以来12年間にわたって地下工法の研究に携わり、同分野の今後を担う人物として期待が寄せられる。
まさしく「縁の下の力持ち」として活躍してきた熊谷は今、建築の未来を開く新たな研究に挑んでいる。

「すぐに答えがでる」地下工法ならではのおもしろさ

山留めとは、地下工事で地盤を掘削する際、周囲の地盤が崩れるのを防ぐために設置する壁のこと。熊谷は、地盤の状態や施工コスト、工期など、さまざまな条件に応じた山留めの工法開発や、地盤の動きの解析手法を研究している。

「地盤って一様ではなくて、同じ場所でも少し位置が変われば地質が違ったり、水位が変わったりするんです。その地盤をどれだけ想像して、どう正しく値を与えて計算してやるかっていうのが結構ミソで」

ダイナミックな掘削工事の裏にある繊細な技術。熊谷はそこに独自の視点でおもしろさを見いだしている。

「地下工法の何がおもしろいかというと、つくっている時にもう答えが出るんですよね。例えば『この工法・仕様であれば山留めが10ミリ動く』と計算した時に、それが正しいかどうかが施工段階ですぐにわかる。もちろん合っていなければ非難も受けるのですが……その時も『方針をこう変えたらうまくいった』といった声がすぐに返ってきます。そうしたところが非常に楽しい分野だと思いますね」

フィードバックの早さは研究の発展に直結する。そこに熊谷の探求心が加わり、研究速度はさらに加速する。

シンガポールでのジョブ・ローテーションで学んだ探求心

熊谷の研究姿勢を培った経験のひとつが、入社3年目でのジョブ・ローテーションだ。行き先はシンガポール。高さ約250mの超高層ビルの建設プロジェクトに従事した。

「行くからには地盤が難しい作業所で学ぶべき、という上司の意向で選定されたのですが、本当に難しかったですね。建設地のベイエリアは、軟弱な粘土の下に固い地盤が出てくるという極端な地質で。粘土の層も場所によって10メートルだったり、40メートルだったりと違いがあるんです。一方で、粘土の下に現れるのは、岩盤のように固い地盤。1時間に数十センチしか掘れないこともありました」

地盤の解析も難しく、思いがけないアクシデントが起こることも。
「掘削用の巨大な重機の重みで地盤が予想以上に動き、近隣する地下鉄の建造物が動いてしまったんです。『地盤や使う道具が違えば、違う現象が起きる』ということが身に染みた体験でした」

山留めから掘削完了まで2年半。難工事を通して、日本とは異なる環境や工法に触れた経験は、その後の大きな糧となった。
「解析を適切に評価するというのはどういうことか、その時やったことが本当に正しいのか、もっといい方法があるんじゃないか。山留めの工法も、もっと考えればさらに合理的なものがあるんじゃないか。そういったことを意識しながら新たな開発をしようと考えるようになったのは、ジョブ・ローテーションがきっかけですね」

建築の未来に向けて挑む、山留めの“パンドラの箱”

熊谷が目指す合理的な工法は、環境評価が重視される建築の今も反映する。
「都心部では、山留めを新しくつくるプロジェクトというのはすごく減っているんです。すでに地下に多くの建物があるので、『元の建物を山留めとして使いながら工事を進める』というのが今のトレンドで。ある意味での“再利用”も新しい山留めの考え方なんですよね」

しかし現在取り組む研究は、すでにその次の未来を描いている。
「今求められるのが『環境にやさしいもの』だとすると、おそらく次のテーマになるのは『コントロールしながらつくる』ということではないかと思っています。というのも、山留めの施工精度は意外とわかっていない部分が多いんです。ただ、この先さらに複雑な地下工事やさらに深い深度の施工が必要になった時にはそうはいかない。そのために今は、山留め壁の施工の精度をあげる、制御する、といった研究に注力しています。そこを考えていく先に次なるステップである施工の自動化技術があるのではと思っています。

これまで研究されてこなかった山留めの“パンドラの箱”に切り込むのは、こんな思いがあるからだ。

「地下工法は非常に古くから研究されている分野なので、もうそれほどやることがないんじゃないかと思われたりもします。ですが、逆にそういうところに今後の芽があって、もっと追求すればもっと違う方法や考え方も生まれてくるんじゃないか。そう思って研究しています」

必要とされるものを自ら見極め、目指す方向へと妥協せず進んでいく熊谷。その挑戦に終わりはない。

2021年10月に行ったインタビューを元に執筆しています。

プロフィール

熊谷 博人  くまがい ひろと

  • 技術研究所
  • 建築基盤技術研究部
  • 研究主任

大学での研究分野は地震動。入社後は、地盤・基礎分野の中で施工に関係した地下工法を主な守備分野とし、山留めの解析手法や工法開発に取り組む。現在は先端技術を取り入れた地下工法も研究中。

専門分野

  • 地盤・基礎
  • 地下工法
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竹中技術研究所研究員クローズアップ