2006年中途入社
学生時代の専門分野:建築構造
北アフリカのアルジェリア出身。幼い頃は、夏休みになると父に連れられて、大工だった祖父が造った建物を見に行った。
「どの建物もきれいでした。子どもの頃から建築が好きだったんです。遺跡にも興味がありました。アルジェリアでは電車の窓からローマ時代の橋や建物が見えます。今でもまだ残ってるんですよ。強いでしょう、きれいでしょう。それで、自分も建物を造りたいと思いました」
建築技術の素晴らしさに目を輝かせていた少年は今、RC構造の研究開発に加え、レガシー建築保全技術として、れんが造りの建物の耐震補強も研究している。
「竹中に入社して、もう15年。信じられないですよ」と軽やかに笑う彼は、どのように日本での仕事に取り組んでいるのだろうか。
日本に来た理由については、「地震工学のレベルが非常に高い日本で、研究を頑張りたかった」と語る。
「アルジェリアは、北アフリカの中でも強い地震がある国です。アルジェリアにいた15歳の頃、大きな地震がありました。初めての体験で、怖かった。そのときから地震に興味を持ちました」
アルジェリアの大学で、土木と建築を両方学ぶシビルエンジニアリングを専攻。大学で地震の講義を受けて、さらに興味が湧いたという。
卒業後は、橋や建物の設計を行ったり、振動を計測したりする仕事に従事する。地震への興味は尽きることがなく、地震の解析方法や建物への影響についてもっと知ろうとした。
「先輩に聞いてみたりしたけど、答えがない。それならもう、自分で勉強するしかないかと思って」
東京大学でRCの耐震補強を研究し、2006年に竹中工務店に入社した。
現在力を入れているのは、レガシー建築の耐震補強技術。これまでに、清泉女子大学本館の耐震補強などのプロジェクトを手掛けてきた。
清泉女子大学本館では、れんが壁にプレストレスを導入する工法の開発に関わった。この工法では、れんが壁にPC鋼棒を挿入し、基礎部分のコンクリートに基礎配筋コンクリートを打設して、PC鋼棒の下端を定着。PC鋼棒を締め付けて、れんが壁にプレストレスをかけることで、地震によって崩れるのを防ぐ。
「建物は社会のメモリー。これからの日本の社会は、古い建物の保全が必要になってきます。木造の建物は30〜40年くらいで建て替えますが、れんがの建物は100〜200年前のものが残っている。古い建物は国の誇りだから、補強して守りたいとみんなが考えるのでしょう」
歴史的価値を損なわずに古い建物を守る。そのために、保全技術は常に進化してきた。
現役で使われている建物は、使いながら耐震補強の工事ができれば、それに越したことはない。さらに、コストの削減や工期の短縮も重要だ。
「それらを実現できるような、シンプルな補強方法を研究中です」
ハッサンはさらに続ける。
「古い建物って、価値を生み出せるんです。保全すれば観光客が来て、お金を払ってくれるから、ビジネスになります」
費用をかけてでも古い建物を守れば、やがてそれ以上の価値が生まれる。独自の考え方で、ハッサンは研究に向き合っている。
海外から来た研究員として、日本の現状を客観的に見ている一面もある。
「竹中工務店の技術は非常にレベルが高いけれど、海外では知っている人が少ない。技術のほとんどが日本語で発表されていて、英語での発表が少ないからです。海外のお客様にも注目してもらうためには、英語での発表を増やした方がいい」
研究員や設計者が書いた英語の論文や、国際学会で発表する際の資料などをチェックすることも多い。自分からサポートを申し出ているという。
「仲間をサポートしたい。私の父は教師でした。人を助ける仕事です。私も同じ道を行きたいと思います」
そんなハッサンが考える「グローバル」とは、英語を使いこなせるようになることだけではない。国ごとに異なるスタンダードがあることを理解しなければ、本当の「グローバル」にはならない、とアドバイスする。
「これからは、若い外国人がどんどん竹中にやってくるでしょう。スタンダードは自国のスタンダードだけじゃないことを、お互いに知ることが大事だと思いますね。でも、日本の仲間はみんな優しいです。だから、頑張りたいと思います」
研究にプライドを持ち、仲間を積極的にサポートするハッサンが、日本の研究員に向けるまなざしは温かい。
2021年10月に行ったインタビューを元に執筆しています。
ウサレム ハッサン
専門はRC構造の研究開発。レガシー建築の保全のため、れんが造りの建物を耐震補強する技術の研究開発も行っている。
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