新谷 祐介  しんたに ゆうすけ

2005年入社

  • 建築基盤技術研究部 主任研究員

学生時代の専門分野:建築構造

防耐火の本質を見極め、世界の防耐火技術を牽引する若きリーダー

私たちの生活が安全であるように、世の中にはさまざまな法律やルールが存在している。さらなる安全を追求しようとするならば、その法律やルールを「足す」方向へと世の中は動きがちだ。
新谷の取り組みは、その逆。建物の防耐火という安全に直結するテーマにおいて、無駄を省き、不要なものを「引く」方向に舵を取る。

「法律で決まっているから、やる」に切り込む、そこには「建物の防耐火の本質」を見極めようとする研究者のまなざしがある。

大学時代に培った火災に関する知見を下支えに、「安全性を確保するのに最適な方法で設計できるようにしたい」と語る新谷は、どのように研究に取り組んでいるのだろうか。

“法律”ではなく“性能”で考える合理的な建設技術を追求

新谷が取り組んでいるのは、ひとことで言えば「火災になっても建物が崩れない設計を、より合理的に行う」ための研究だ。

「普通、火事になったとき建物が崩れないようにするには、骨組みとなる鉄骨に、耐火被覆を施します。でも吹き付ける資材が飛び散らないようにシートで囲まなきゃいけなかったり、けっこう大変で。作業中は他の工事を止めなきゃいけないので、被覆作業が多いと工期にも影響があります。合理化して、より簡単に建物を建てられるようにしたいと考えています」

作業負荷や工期の問題だけではない。例えば、床スラブの場合。
法律ではコンクリートの床を支えている大小の鉄骨の梁に耐火被覆を施すことが決められている。しかし、そもそも小梁に関しては、耐火被覆しなくても床は崩れない可能性がある。そのメカニズムを検証し、日本国内で実際の建物に適用するのが、新谷の取り組みだ。

現在、大手製鉄会社との共同研究も進行しており、国内某所の超高層ビル建築にも適用され、工事が進んでいる。

“性能設計”と出会い、火災の研究を積み重ねた学生時代

耐火被覆は本来、建築基準法で実施を決められている工法である。ただし法律で認められていない設計であっても、実験や解析で確認した建物を大学が評価し、国土交通省から大臣認定を受ければ適用可能になるルートがある。
“性能設計”と呼ばれるこの制度は、「火災に何分耐えられるか」や「震度7の地震がきても問題ないのか」など、「建物に求められる性能を満たせるかどうか」で判断する方法だ。

「一貫して思っていることは、建物の安全性を確保するのに一番いい方法で設計できるようにしたいということです。法律で決まってるからではなく、こうしたほうが安全になるからとか、もしくは、普通は2つと決められているけど、本当は1つでもちゃんと安全性を確保できる、ということを根拠にして設計をしていきたいと考えています」

基本的に火災は、地震などと比較すると、被害にあう可能性は少ない。安全性を確保するための対策はもちろん採用するが、「なくても必要な安全性を確保できるのであれば、合理化したい。安全を確保することは重要ですが、過剰な部分はそぎ落とすことで、より有効にお金や資源を使って頂きたいと思っています」。
無駄なものはなければないほうがいい。新谷の発想は、シンプルだ。

性能設計に興味を持つようになったのには、大学の恩師が性能設計の制度立ち上げに携わっていたことも影響している。その恩師の元、学生時代は炎の燃え広がり方について研究を重ねた。

「例えば、この部屋で、その辺から火事が起こったら、その後どういうふうに広がってくか。机と椅子が燃えて、炎が出て、煙が上に上がって・・・放射熱で隣の物に燃え移ったりしながら、どんどん火災は広がっていきます。大学では、このような火災が拡大する広がるプロセスを予測する手法を研究してました。火事があったらどうなるか分からないと、建物の設計がちゃんとできないですから」

海外との連携で気づいた世界へ向けた情報発信の大切さ

学生時代の研究を下支えに、現在の研究を深める新谷。その思いは海外にも向く。

「性能設計という仕組みを国内だけじゃなくて、海外でも展開できるようにしたいなと思っています。海外に向けた防耐火設計の研究にも取り組みました」

対象となったのは、シンガポール チャンギ空港第5ターミナル。残念ながら工事は途中でストップしているが、海外に視野を広げたからこそ、見えてきた景色もある。

「うちの会社は、防耐火の分野でも日本国内だと実績も信用力もありますが、海外だとまだまだ知名度も低いと感じています。性能設計のような特殊なことやろうとすると、現地の大学の先生方の信用なども必要になってくると思います。そのためにも、海外に向けて技術を発信してかないといけないと思いますし、ネットワークも広げていきたいですね」

研究員として防耐火技術の世界トップを目指しつつ、世界に向けた竹中工務店のアピールの必要性も感じている。

「論文を書いたり発表したりもしていますが、十分ではないと感じています。国外に向けた竹中工務店の実績・技術の発信も、これから取り組んでいきたいですね」

「いいものをたくさんの建物に使ってもらえるようにしたい」と語り、そのためにも性能設計をずっと続けていきたいと話す新谷。

今後も研究を通じ、世界中で使える“本当に必要な技術”を作り出してくれるはずだ。

2021年10月に行ったインタビューを元に執筆しています。

プロフィール

新谷 祐介  しんたに ゆうすけ

  • 技術研究所
  • 建築基盤技術研究部
  • 主任研究員

耐火・避難技術の研究開発を専門部分野としている。超高層建物の耐火技術などの現業支援技術や新たな防耐火技術の研究にも積極的に取り組んでいる。

専門分野

  • 建築系

受賞歴

2017年:

日本火災学会内田奨励賞

CLOSE
竹中技術研究所研究員クローズアップ