2010年入社
学生時代の専門分野:建築音響
空気を伝わってくる音を材料内で減衰させ、再び室内へ返らないようにする「吸音」は、室内の残響時間の調整や騒音の低減に役立つ技術である。
従来の枠組みに捉われず、吸音効果のある素材を求めて実験を繰り返す靍羽は、「吸音」技術による豊かな生活の実現を目指している。
研究開発の担当者であると同時にプロジェクト対応として音響設計者の役割も担う、「音響技術者としての実務と、研究の間には、ギャップがあるように感じます。その間を繋ぐのが、建設会社の研究所員である我々の役目です。」と語る靍羽は、新たな吸音材を探し続ける、建築音響の探求者だ。
学生時代の研究分野も建築音響。感性に関わる分野でありながら、ロジカルな側面をもつ世界に惹かれ、14年経った現在も建築音響の研究に没頭している。
「建築には、意匠系、構造系、環境系の分野がある中で、生活を豊かにすることに直結する環境系に進みたいと思いました。その中でも、自分の強みであった物理や数学を活かせる『建築音響』に興味を持ちました。結果が数字で見えることが、私の性格に合っていました。」
入社以来、実務であるプロジェクト対応と研究の両輪で建築音響に携わってきた靍羽は、音響技術者として建設過程で直面する問題にタイムリーに回答できるエキスパートであり、未来の問題に向き合う研究者でもある。
フレックス制度などの制度を活用し、家族との時間を大切にしながらも「仕事柄ついつい空間の残響が気になって、私生活でも手を叩いてその場の反響を確認してしまい、びっくりされることがある。」という靏羽。
建築音響に対する熱意は、どこからくるのだろうか。
日本では、『騒音低減』というテーマに取り組む研究者は限られており、評価されにくい背景があるという。騒音に関する苦情は今なお多い。(令和元年度公害苦情調査によると、種類別苦情受付件数で騒音が最多)
しかし靍羽は、海外の学会に行ったときに『Reduce Noise to improve life(騒音を低減して生活を豊かにしよう)』という学会の大きなタイトルを見て、騒音を減らすことは世界的に見ても重要視されており、生活を豊かにするために直接的に貢献できることだと再認識した。
その気持ちを今も忘れずに、日々の研究に取り組んでいる。
「当社での研究は、組織や上司から研究テーマや内容を指示されるというよりも、自分がやりたいことや、取り組みたい内容を提案していくスタイルです。そこが当社の大きな魅力ではないかと思います。」
自分自身の信念に沿って取り組む研究スタイルが、靍羽の原動力だ。
「大学でお世話になった先生方の背中を見て、技術は着実な積み重ねによって進歩するものだと実感しました。何かを成し得ることは、急な飛躍によるものでなく、小さな積み重ねの結晶によるものだと思うんです。些細な事でも考え続けて手を動かしていかないと、結果にはつながらない。だから小さな一歩でも確実に先に進めることが大事かなと思っています。」と話す靍羽。
研究者は孤独と感じることも多い。
しかし靍羽は、「巨人の肩に立つ」という言葉を心に留めながら、一歩一歩、前に進み続ける。
先人の偉業に基づいて仕事をすることで、その一歩先に行けるように、成果を積み重ねていく道のりが、靍羽の見ている未来だ。
「20年30年後に自身を振り返ったときに成果が見えてきたら、それでいい」
そんな思いで、生活を豊かにするための吸音材を、これからも探し続ける。
一歩一歩、着実に。
2022年11月に行ったインタビューを元に執筆しています。
靍羽 琢元 つるは たくまさ
粒子状材料を利用した低音用吸音材の研究に取り組んでいる。
専門分野 |
|
||
---|---|---|---|
受賞歴 |
|