Project Story 02

神戸須磨シーワールド

神戸須磨シーワールド

未来志向の水族館に、
“オール竹中”で挑む。

35年にわたり「スマスイ」の愛称で多くの人に親しまれてきた、兵庫県の神戸市立須磨海浜水族園がリニューアルされることとなった。本件は、公募で選ばれた民間事業者が都市公園を再整備する設置管理制度(Park-PFI)を用いたプロジェクトである。水族館を中心に、「地域コミュニティと観光客が交流する“つながる”海浜リゾートパークの実現」がテーマに掲げられた。

  • 梶村 健

    梶村 健 Ken Kajimura

    • 建築設計
    • 2006年入社
    • 理工学研究科修了

    神戸須磨シーワールドの主要3棟のうち、アクアライブ棟の設計・監理をメインで担当。「『つながる』エデュテインメント水族館」のコンセプトのもと、公園の恵まれた自然環境を感じ、来館者が生き物のいのちの大きさを楽しみながら学べる展示空間を実現した。水とエネルギーの効率利用技術等により、さまざまな環境認証を取得。

  • 藤本 駿一

    藤本 駿一 Shunichi Fujimoto

    • 建築技術(施工管理)
    • 2011年入社
    • 建築学科卒

    アクアライブ棟の施工管理担当者として、主に展示エリアの防水工事、アクリル工事、擬岩工事等、仕上げに関わる各種工事を担当。建築主の飼育スタッフをはじめ、意匠・構造・設備の各設計担当者のほか、飼育設備・展示工事の協力会社との調整キーマンとしてプロジェクトに携わった。

神戸須磨シーワールド|プロジェクトストーリーの画像01

建築主が思い描く水族館の
最適解を導き出す

竹中工務店の中で、水族館という特殊なジャンルの建築実績はそれほど多くない。また、子育ての仕方が各家庭で違うように、生物の飼育の仕方、展示の仕方は水族館ごとに異なる。生物特性に合わせた飼育設備や、防水性能の高い水槽、透明度と強度を兼ね備えたアクリル板など、社内の知見に加え専門工事会社の協力も得つつ、設計・施工を進めていった。
大学院で水族館建築を研究した経歴を持つ梶村は、東京本店在籍時の2019年に本プロジェクトに参画。プロポーザル方式(企画競争入札)のPark-PFIで竹中工務店が事業者選定を受けた後は、自ら志願して大阪本店に異動し、建築設計の主担当を務めた。

飼育生物の生命維持や生活環境の質向上のためには膨大な量の水とエネルギーが必要となるが、それらを効率的に供給しながらも、CO2 排出量を大幅に削減する環境配慮型システムを導入した。

なお、水槽の水には、目の前に広がる瀬戸内海の海水が利用される。旧水族園では堤防に沿わせて設置された配管とポンプで海水を汲み上げていたが、阪神・淡路大震災時にこれらが破損した苦い経験があった。そこで、堤防よりもさらに沖までつづく取水管(海底トンネル)を新設し、さらに濾過や水温調節のできる水処理装置を整備した。
水族館では飼育生物の命が最優先される。水処理の方法や水槽の形状に絶対解はなく、建築主の飼育部門スタッフと協議を重ね最適解を導き出すのに、多大な時間を要した。

神戸須磨シーワールド|プロジェクトストーリーの画像02
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工期遅延が許されないなか
主導権を握りスケジュール管理

藤本がプロジェクトに加わったのは、着工直後の2022年2月のこと。3棟で構成される神戸須磨シーワールドで彼が任されたのは、魚類やアシカ、アザラシ、ペンギン、ウミガメなどが飼育・展示されるアクアライブ棟の施工管理だった。

オフィスビルや商業施設のような一般的な建築物の場合、建築主をはじめ意匠設計・構造設計・設備設計および協力会社と協議しプロジェクトを進めていくが、今回はそこに飼育設備と展示工事(擬岩・水流装置・各種演出装置)が加わる。水族館の飼育スタッフの意見も反映した期中の細やかな調整が必要であり、個別の打ち合わせではなかなか結論が出ないため、関係者全員が参加する定例会を毎週開催し課題を共有した。また、大きな紙の図面に調整箇所を各自が書き込むというアナログな手法から、最新ツールの活用まで状況に応じて使い分け、各課題を一つひとつ、優先順位をつけて解決していった。

主要建物を含むエリア全体の工事は旧水族園の一部営業を継続しながら段階的に行われる。他棟に先駆けて工事を完了するアクアライブ棟の竣工は、プロジェクト全体のスケジュールの中で重要なポイントであり、工期の遅れは断じて許されない。すべての情報を集約する藤本が会議の主導権を握り、スケジュールを徹底管理した。 特に苦労したのが水族館特有の水槽の品質管理だ。水槽の躯体およびアクリル面には何百トンもの水圧がかかっている。些細な施工中のミスが後の漏水発生の原因になってしまうため、現地現物での品質管理を徹底した。

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神戸須磨シーワールド|プロジェクトストーリーの画像05

最新ツールを活用しつつ
設計と施工が密に連携する

旧水族園は、本館の大きな三角屋根の本館がシンボルになっていた。その象徴性を継承し、新たなまちのランドマークとなるのが、オルカ・ドルフィン両スタディアム大屋根だ。屋根の形状はイルカやシャチが跳躍する姿を表現しており、数多くの部材によって構成されている。この屋根は、設計者・作業所スタッフはもとより、竹中工務店の内勤各部門ならびに、鉄骨製作工場、協力会社作業員の技術を結集し、設計施工一貫のプロセスによって複雑な形状を精度高く実現している。

一方、4層で構成されるアクアライブ棟は、多種多様な水槽・展示空間をつくり出すため、鉄骨鉄筋コンクリート造で構築されている。躯体が斜めに立体交差したり、ねじれながら放射状に広がったり、あるいは勾配や段差を伴ったりと、非常に複雑な形状をしている。そこで、鉄骨と鉄筋の納まり不良を未然に防ぎ、高い品質を確保するために、鉄筋貫通孔(鉄筋コンクリートの構造部材に開ける穴)の位置やサイズを3Dモデルで検討することになった。

ただ、最新ツールは活用しつつも、欠かせないのが設計と施工の密な連携だ。設計担当の梶村と、作業員や協力会社を束ねる施工管理担当の藤本は、膝詰めの打ち合わせを繰り返した。ときにはモックアップ(模型)をつくり、ときには図面では表現しきれない細部について、現地現物で調整しながら工事を進めた。

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魅力的な作品をもっと
感動的な作品をもっと

就職活動時、大手の設計事務所やゼネコンの設計部を検討していた梶村が最終的に竹中工務店を選んだのは、同社作品のデザイン性の高さに惹かれたからだ。建築に詳しくない人にも魅力的に映る作品をつくりたい、という思いを今も一貫して持っている。
アクアライブ棟の足元には「日本の白砂青松100 選」に選ばれた松林が立ち並んでいるが、屋上まで上がると梢がちょうど途切れ、明石海峡大橋や淡路島を背景にした瀬戸内海をきれいに見渡すことができる。その景色を眺めながら、須磨海浜公園が地域のコミュニティベースとして発展し続け、遠方も含めたくさんの人が神戸須磨シーワールドを訪れてくれることを梶村は願っている。

一方、藤本が本プロジェクトで最も印象に残っているのは、アクアライブ棟3階エントランスに設置した滝の展示だ。兵庫県三木市の黒滝を再現したその滝は、毎分6トンもの水が勢いよく流れ落ちる。建築主が思い描く迫力・水流を実現しつつ、飛沫、湿気等による建屋内への負荷を最小限にする必要があったが、規模が大きく実験施設をつくるわけにもいかなかったため、現地で実験を繰り返した。結果的に想像以上の仕上がりとなった。
せっかくなら楽しく仕事がしたい、というのが彼のモットーである。自分だけでなく、周囲も楽しく。現場に笑顔があふれ、作品に感動が生まれるように。建築主や来訪者がその感動を味わってくれたなら、これほど幸せなことはない。

そして2024年6月1日、神戸須磨シーワールドはついに開業の日を迎えた。シャチやイルカが圧巻のパフォーマンスを披露し、スタジアムの大屋根に歓声が響き渡った。