街と街、人と人をつなぐ
新しい都市公園として。
渋谷駅から徒歩3分、敷地面積約1万㎡という渋谷区立宮下公園のPPP事業建替計画として進められたプロジェクト。長さ約330mの公園全体を地上約17mに島状に浮かせ、下3層に商業施設、北端部にホテルを併設した。渋谷駅周辺と原宿・表参道エリアの結節点として、新しい都市公園のスタイルを追求している。
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吉田 良祐 Yusuke Yoshida
- 建築技術(建築施工管理)
- 2002年入社
- 建築学専攻
入札から竣工まで、約5年にわたり本プロジェクトのリーダーを務めた。内勤および作業所の経験も豊富で、プロジェクトでは施工の計画、管理や作業所運営でリーダーシップを発揮。竣工後も機会あるごとに足を運び、その賑わいぶりに目を細めている。
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町田 巌 Iwao Machida
- 建築設計
- 1999年入社
- 建築学専攻
基本設計から実施設計、設計監理まで、 設計チームの取りまとめを担った。 2009年に米国に留学し、ランドスケー プなど都市計画を学ぶ。以来、公園に関連するプロジェクトに多く担当。今回のプロジェクトについて「都市に 接続した立体的な道の建築をつくったことで、点から線、線から面へと地域 全体の回遊性と界隈性を高め、新しいまちと体験を創造し、渋谷のストリート文化を生み出す駆動力にもなり、竹中工務店の誇れる作品のひとつに仕上がった」と語る。
多様な機能を複合させた
緑あふれる浮島
2020年、渋谷駅から徒歩3分、約1万㎡の敷地にオープンした「MIYASHITA PARK」。緑豊かな浮島のような公園と3層からなる商業 施設、ホテルを複合させた空間は、いつでも多様な人々の笑顔であふれ、大規模な再開発が進む渋谷駅周辺において今や欠かせないエリアとなっている。
渋谷区と三井不動産によるPPP事業として動き始めたこのプロジェクトが本格化したのは2016年。建設に向けた競合入札が実施され、竹中工務店が受注を勝ち取った。しかし、プロジェクトはいきなり大きな壁にぶつかる。当初の計画では、受注段階ですでに基本設計は完了しており、竹中工務店は実施設計から建設までを請け負うスキームだった。ところが、詳細に検討した結果、当初の基本設計では諸官庁協議も未了の部分があり、事業採算性でも工期的にも到底適合せず、改めて竹中工務店が基本設計から取り組むことになったのだ。当然、着工は後ろへとずれ込む。とはいえ、開業の時期はすでに決定している。
このような困難なゴールに向かって、設計と施工が一体となったチームが走り始めた。
季節とともに移りゆく
光や風の変化まで設計する
改めて基本設計から担うことになった町田たち設計チームは、完成予想パースなどの情報をもとに竹中工務店が蓄積してきた知見を盛り込み、計画を具現化していった。なかでも町田がこだわったのが、四季折々に変化する「MIYASHITA PARK」の豊かな表情を形づくるキャノピーである。このキャノピーによる緑化をプランニングするにあたって、町田はかつてここにあった旧宮下公園を基準とした。そこから人々に心地よい緑視率を導き出し、さらに進化させたスタイルで現代の渋谷に実現したのだ。その先進的な緑化手法を可能にしたのが、ステンレスメッシュの緑化下地と鉄骨造アーチを組み合わせた構造である。施設を包み込むように巨大な弧を描くアーチは、「MIYASHITA PARK」の意匠においても大きなアクセントとなっている。
キャノピーの設計にあたっては、VR(バーチャル・リアリティ)をはじめとする先進のシミュレーション技術を用い、意匠面ばかりでなく、時間や季節とともに移りゆく光や風の変化まできめ細かく検証を重ねた。「商業施設の通路や公園、ホテル客室から見下げた様子など、いわゆる道路レベルからの外観ばかりでなく内側や上空からの景観にも気を配りました」と町田は語る。心地よい陽の光、涼やかな木陰、軽やかな風……。「MIYASHITA PARK」は、空間の隅々にまで作り手たちの想いが込められた作品なのだ。
この巨大なキャノピーの実現では、実施設計や施工においても竹中工務 店の新たな挑戦があった。施工ヤードが十分に確保できないという難条件のもと、合理的な施工を実現するために、建物と鉄骨アーチを同時に建てていく建て逃げ工法を採用。仮設支柱を用いずに鉄骨アーチを組み上げる独自のノーベント工法を開発した。また、形状の異なる多様なアーチをわずか8種類だけの曲率で構成し、ジョイント部も溶接が不要なボルト接合を用いるなど独創的な技術を駆使している。
シンボルとなる空間を
一夜のうちに出現させる
長さ約330mにわたる公園の下に3層からなる商業施設が連なるのが「MIYASHITA PARK」の基本構造だ。南街区、ブリッジ、北街区、ホテル棟の4つの建物によって構成され、延べ床面積は実質合計で約56,000㎡という大規模複合施設である。一方、西側にJR、東側に明治通りが近接し、施工ヤードが狭く、車両ゲートが少ないなど、都心立地の中でも施工条件はきわめて厳しい。
このような難工事を23か月という短工期で完遂させるために、吉田が率いる施工チームは知恵を絞り独自の施工計画を立案した。南街区は順打ち、北街区は逆打ち、ホテル棟はその併用、さらにブリッジはフルユニット化と、4つの異なる工法を組み合わせ、すべての建物の同時施工を可能にしたのだ。
この大胆かつ緻密な施工について吉田は話す。「現場の施工管理というと図面の通り、つくるだけというイメージがあるかも知れませんが、毎回違った土地に違った建物をつくるわけであり、施工方法もその都度最適解が異なります。良い建物を作るということは、その作り方から考え、多くの関係者と共にそれを実現していくことが必須で、非常にやりがいのある仕事なんです。
これらの工程の中でも困難を極めたのが「MIYASHITA PARK」の中心部となるブリッジだった。このブリッジは、クルマや人が行き交う公道上に位置し、そこに4階建ての構造物を建てなければならない。公道であるため通行止めなどの規制も最小限にし、効率的かつスピーディーな工法が絶対条件となった。
そこで吉田たちが選択した工法がフルユニット化だった。隣接する敷地をヤードにし、詳細な設計をもとにブリッジを組み上げる。そして夜間にクレーンで引き揚げて移動させ高精度で設置した。このブリッジは、今ではSNS映えするスポットとして若者に人気だ。その瀟洒な空間を、竹中工務店の匠の技は一夜のうちに出現させたのだ。
街とともに進化し続ける
新しい都市公園を思い描いて
「MIYASHITA PARK」は、渋谷駅周辺と原宿・表参道エリアの結節点に位置し、芝生広場やスケート場など多様な施設を備える公園、渋谷のカルチャーを体現する商業施設、そしてホテルまで、衣食住のすべてを複合している。その存在は、もはやひとつの「街」といってもよいだろう。実際、今回のプロジェクトでは、設計・施工ばかりでなく、まちづくり、ランドスケープ、環境・防災、技術研究所など幅広い部門の技術者たちが関わりその英知を結集した。
また、竹中工務店では、「MIYASHITA PARK」とほぼ同時期に、このエリアで「WITH HARAJUKU」と「渋谷PARCO」という2つの作品を手がけている。今後はこれらの施設との連携をはじめ、大規模な再開発が進む渋谷エリアにおいて、「MIYASHITA PARK」はさらに存在価値を高めていくはずだ。
町田には、竣工した「MIYASHITA PARK」の姿を眺めていて、ふと気づいたことある。今から20年以上前、建築学科の学生だった彼が卒業設計として描いた作品のコンセプトがこの施設によく似ているというのだ。若き日に抱いた想いは、竹中工務店に入社して夢中で紡いできた歳月の中でやがて現実となった。最後に、町田と吉田は言葉を揃えて言う。「会社の枠組みを超え、まちを変え、社会を変えるような仕事に仲間とともに挑めることは他社ゼネコンや設計事務所、アトリエでは絶対にできない竹中工務店ならではの最大の魅力。技術者としてこれほど幸福な“作品”はありません」