Project Story 01

長崎スタジアムシティ

長崎スタジアムシティ

複数棟同時施工を大胆かつ緻密に。
徹底したデジタル活用が新構工法を成功に導く

2024年10月、長崎市の中心に新たなランドマークが誕生した。長崎スタジアムシティは約75,000㎡の敷地に、サッカースタジアムを中心にアリーナ・ホテル・商業施設・オフィスなどが集積する複合施設だ。本プロジェクトに立ちはだかったのは、限られた工期内に3つのゼネコンが複数の施設を同時施工するという厳しいミッションだった。

  • 梶本 宗一郎

    梶本 宗一郎 Soichiro Kajimoto

    • 建築技術(作業所長)
    • 2001年入社
    • 土木工学科卒

    スタジアム棟・ホテル棟の作業所長として管理を行いながら、商業棟を含めた全体の工事計画やお客様との調整業務などを担当。着工前にはフロントローディング期間に設計室と連携しながら様々な作りこみを展開した。

  • 鶴田 将悟

    鶴田 将悟 Shogo Tsuruta

    • 建築技術(建築施工管理)
    • 2016年入社
    • 理工学研究科建築学専攻了

    商業棟を担当。鉄骨・外装の主担当として、図面の作り込みから施工までを一貫して担った。月間・週間工程の作成や各職能との打ち合わせ、作業所内の調整を日々行うほか、全体においては若手のまとめ役として各棟間の調整やイベント対応なども行った。

  • 川原 礼

    川原 礼 Rei Kawahara

    • 設備(設計・施工)
    • 2018年入社
    • 電気電子工学科卒

    商業棟の設計から施工までを担当。施工では商業棟の設備施工計画の立案から現場施工までを一貫して手がけたほか、設備BIMリーダーとして4D工程表の活用を主導。様々なシミュレーションを行なうことで効率的な施工を実現した。

  • 砂田 法央

    砂田 法央 Norio Sunada

    • 建築技術(建築施工管理)
    • 2019年入社
    • 工学部 建築学科

    計画グループでスタジアム・ホテル・商業棟のサイトPCaの楊重計画、スタジアム屋根鉄骨の施工計画、3D総合仮設計画の作成業務などの計画を立案。併行して労働基準監督署へ提出する資料や施工計画書の作成などの資料作成業務なども行なった。

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省人化と複数棟の同時施工。
立ちはだかるふたつの課題。

長崎スタジアムシティは約75,000㎡の敷地に、サッカースタジアムを中心としてアリーナ、ホテル、商業施設、オフィス、駐車場が集積する複合施設だ。建築には3つの建設共同企業体が参加し、竹中工務店はスタジアムとホテル、商業棟を担当した。本プロジェクトの作業所長を務めた梶本は、プロジェクトにアサインされた段階から、解決すべき二つの課題を予想していた。ひとつは九州建設業界に共通する課題だ。九州では半導体工場をはじめとして、多くの大型プロジェクトが進行しており、協力会社における労務職が圧倒的に不足している。そうしたなかでどう労務職の平準化をどう図っていくか、さらには省人化をどう進めていくかが課題だった。そしてもうひとつは建設業業界の課題でもある「働き方」にも取り組みながら25か月という限られた工期で、スタジアム、ホテル、商業棟を同時施工するという問題だ。本プロジェクトでは竹中工務店だけでなく、アリーナ棟やオフィス棟、駐車場棟を3つのゼネコンが同敷地内で同時施工する。搬入ゲートも共有であり、施工には綿密な調整が必要だ。こうした複雑な条件下ではひとつの工事の遅滞が全体に大きく影響する。緻密なスケジュールを正確に遂行するには建築主や設計、作業所だけでなく、協力会社を含めたすべてのメンバーが情報共有できる環境作りが必要だった。この難解な課題に対して梶本が出した答えが大胆な新構工法の採用と、徹底したデジタル技術の活用だった。スタジアムにおいては大型サイトPCa化工法を、複雑な屋根鉄骨においては大型地組ユニット工法を採用することで省人化と工期の短縮化を図り、BIMや4D工程表を駆使することでプロジェクトに関わる全ての人々が情報を共有化し、後戻りのない施工を実現する。この基本方針を元に、無数の要素が複雑にからみあう、極めて困難な条件下における施工がスタートした。

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複雑なパズルを組み立てる施工計画

PCa化工法とは建物の柱・梁・床などの部材を製造し、組立てる工法で、一般的には工場で部材を製造されるが、サイトPCa化工法では工事敷地内で部材の製造を行う工法である。屋根鉄骨大型地組ユニット工法は、あらかじめ地上で組み立て、大型ユニット化した鉄骨を、大型クレーンで揚重して組立てる工法だ。いずれも現場作業の簡略化によって工期の短縮と労務の平準化と省人化が図れるメリットがある。このダイナミックな構工法をいかに実現していくか。その立案を一任されたのが作業所の計画グループだ。計画グループが立案した計画をもとに、スタジアム、ホテル、商業棟の工事が進められていく中で、デジタル技術を駆使しながら3D総合仮設計画やサイトPCaの楊重計画などの計画業務を担当したのが砂田である。計画のタスクは多岐にわたる。PCaの強度計算、40tを超える重量物を安全に揚重するためのプロセス計画や安全検証、3棟を同時施工する工程表の現実性の検討。加えて建築基準法第88条に基づく計画届の作成も行なわなければならない。一般に工事計画は作業所と離れた内勤部門で行われるが、本プロジェクトでは施工中の現場と並行して計画を立てる必要があったため、作業所内に拠点を設置。そこで砂田は作業所長の梶本をはじめとして、所内メンバーと日々打ち合わせを行い、迅速かつ正確な計画立案を実行していった。さまざまな条件が重なる中で、一切の遅滞なく工事を進めるための計画を立案することは、複雑なパズルを完成させるに等しい作業だ。砂田は向上心と主体性を自らのテーマに掲げ、この困難なミッションに取り組んだ。頭脳がすり切れるほど考え、能動的に行動した本プロジェクトでの経験は、今後の大きな糧になると考えている。

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BIMを駆使した情報共有で
後戻りのない施工を実現

鉄骨・外装の主担当として商業棟の図面の作り込みから施工までを担ったのが鶴田だ。鉄骨の製作・施工には、高い専門性が求められる。とりわけ本プロジェクトは3つのゼネコンが6つの棟を同時に施工するという、他の現場にはない厳しい条件が課されており、鶴田自身、鉄骨担当自体が初めての経験とあって、その身にかかる重圧は相当なものがあった。鶴田が目指したのは「後戻りのない」鉄骨製作である。躯体の要である鉄骨の製作・施工の遅滞はプロジェクトの進行に重大な影響を及ぼす。そのため設計部や鉄骨工事を担うファブリケーターと緊密な連携体制を整え、フローごとにリミットを決めて作業を進めるという手法を採用した。また施工図の作成にあたっては、意匠・構造設計を交えて予想される施工上の課題を事前に共有し改善策を考案。さらに施工段階では躯体職から仕上職までほぼすべての職人とコミュニケーションを図り、円滑な施工の実現を目指した。こうした「後戻りのない鉄骨製作・施工」「各部門、職能との緊密な連携」に力を発揮したのがBIM(Building Information Modeling)だ。コンピューター上の3次元の形状情報に、建物の属性情報などを内蔵した建物情報モデルを構築するこのシステムは、完成イメージと同じ3Dモデルを確認しながら、設計図の調整・検討や施工のプロセス・課題など、さまざまな情報を事前に把握できることから、プロジェクトメンバーすべての意見交換や問題意識共有や合意形成に役立つ。鶴田は工程説明や工事計画にBIMや4D工程を取り入れることで、厳しい条件下でのミッションをクリアした。

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4D工程表で施工プロセスを可視化

本プロジェクトの特色である「建設DX」は設備設計、設備施工でも力を発揮した。設備設計から施工までを一貫して担当した川原は、厳しい条件下でのプロジェクト遂行にBIMや4D工程は不可欠だったと述懐する。例えば建築主とのスムーズな合意形成もそのひとつだ。建築ではコンペ案が採択されてもそのままの形で完成するわけではない。コンペ案を土台にして新たな要望や修正希望が必ず発生する。建築主の夢や想いを実現するために設計に手を入れるのは当然だが、工期を考えればいつまでも修正に時間をかけるわけにはいかない。本プロジェクトではBIMを活用して設計変更後の完成イメージや費用をわかりやすく、かつ迅速に提示することで、建築主とギャップのない合意形成が計られた。施工段階では4D工程表をフルに活用した。4D工程表はBIMの3次元モデル(3D)に施工スケジュール(1D)を足したもので、施工のプロセスをステップバイステップで可視化することができる。特に従来の工程表ではイメージしづらかった設備工程を4D化した。本プロジェクトでは電気は商業棟から供給するといったように、ガス、水道といったインフラ供給がそれぞれの場所から各棟へ張り巡らされていたため、ルートや施工時期の調整も大きな課題だった。川原は社内担当者だけでなく、アリーナ棟、オフィス棟、駐車場棟を施工するゼネコン各社と工区を横断した分科会を設けて課題を整理し、設備4D工程表に施工時期などを反映することで、プロジェクトのスムーズな進行を実現。施工時の手戻りを無くすことに成功した。

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長崎の成功はこれからのスタンダードに

2024年10月、長崎スタジアムシティは予定通りにオープンした。このプロジェクトの成功は建築業界全体にとっても大きな意味を持つ。大型サイトPCa化工法にしてもBIMをはじめとする建設DXにしても、それ自体はすでにさまざまな現場で利用されているものだ。しかし、ここまでデジタルを効果的に駆使して行なわれたプロジェクトは例がない。いちばんの違い、特色は「使い方」にフォーカスしたことだ。BIMを使うのは当たりまえだが、どう使いこなすかが大きな違いを生む。たとえば屋根鉄骨の施工シミュレーションは3次元に視覚化することで、建築主から設計、施工を務める各社、現場の作業員までが統一したイメージの共有に大きく貢献した。課題を共有し、解決策を共有し、計画に落とし込み、実行するそれぞれの場面で、あらゆる人々の「理解」のためにデジタル技術がフル活用されたのだ。その共通理解なしに、同じ敷地内で3つのゼネコンが6つの施設を、新たな構工法も採用しながら同時施工するという、難解なミッションを遂行することは困難だっただろう。このプロジェクトは社会的にも大きな注目を集め、プロジェクトでの取組みや成果は広く発信され、大きなインパクトを建設業界に残している。協力会社労務職の平準化、省人化という建築業界に共通する課題を乗り越えながらも、作業所員の働き方にもフォーカスした取り組みによりワークライフバランスを確実に保ち、幾重にも重なる条件をクリアして完遂されたこのプロジェクトの成功は、今後の建設業界の構工法とデジタル技術の融合というイノベーションを起こし、新時代に向かうスタンダードになっていくはずだ。