※掲載写真は竣工当時(2015年)のもので、
閉ざされた公共空間を、
市民へと還元する。
大阪市天王寺区にある約26haの天王寺公園のうち約2.5haのエントランス部を、官民連携によって再整備したプロジェクト。あべのハルカスを背景に7,000㎡の芝生広場とレストランやカフェを要したこの施設は、あべの天王寺エリアの活性化の核となっている。
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宮島 照久 Teruhisa Miyajima
- 建築施工管理
- 1993年入社
- 社会開発工学科修了
本プロジェクトにおいてコンペの公募後から完成まで、設計を担当した。普段から、建物とそれを取り巻く周辺地域の価値の向上まで見据えて設計に取り組んでいる。本案件では、天王寺周辺エリアの特長を引き出すよう努めた。
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橋岡 佳令 Yoshiharu Hashioka
- 開発計画本部
- 1991年入社
- 工学部 建築系学科卒
コンセプトの立案や提案書の作成など、コンペの前段階からブレーンとして本プロジェクトを担当。仕事における信条は、プロジェクトを通じて顧客と地域の価値向上に貢献すること。このプロジェクトでも公園の価値をいかに引き上げるかに腐心した。
公園を再生し、
にぎわいを取り戻す。
2015年、これまでにない都市型公園としてリニューアルオープンした、天王寺公園エントランスエリア「てんしば」。広大な芝生広場や店舗が整備され、地域住民や観光客の憩いの場、かつ周辺エリアや施設へのターミナルとして機能している。
今の溌溂とした光景からは想像もできないが、かつての天王寺公園は不法占拠を防ぐため、その大部分が有料として柵に囲まれていた。時代の流れの中で公園の中は徐々に陳腐化し、また柵の周囲には日中から居座る人などにより地域的にも市民から避けられるようになっていた。
そこで行政は民活による公園の活性化を目指し、公園のエントランス部について民間事業者の募集コンペを開始した。コンペの条件として、有料を無料化する、にぎわいを取り戻す、2500㎡の既存広場を想定し芝生広場をつくること、などが掲げられた。竹中工務店はあべのハルカスでの仕事の縁から同じディベロッパーから依頼を受け、コンペへの全面協力、当選後の設計・支援まで一貫して担当することになった。
世界の公園に匹敵する
価値を創出。
コンペが始まると、橋岡が公園再生や地域再生の視点から、宮島がランドスケープやにぎわいの観点から、さまざまな議論を行った。その後宮島が複数のランドスケープイメージを作成。その中に、芝生をできる限り広げた案があった。宮島からはニューヨークのセントラルパークのようなイメージとの説明があった。橋岡はその最もシンプルで大胆な案こそがこの地域イメージになかった明確なメッセージになり得ると考え、それを一押しにすることを決めた。その案はディベロッパーにも受け入れられることとなり、ここに現在の「てんしば」に至る原型が完成した。
コンペに勝つため橋岡はさらに提案を工夫した。例えば世界の公園と比べてそれに匹敵する価値を創出できることを謳い、また大阪市内の公園にはこのような都市型の公園が見られないことからその必要性を謳った。またこの公園を通じてさまざまな地域活動が広がることを提案した。宮島はてんしばのもつ素晴らしい可能性をさまざまなビジュアルを用いて表現した。広い芝生で子どもたちの遊ぶ姿、またライトアップによりこれまでにない都会的な公園の夜景が生み出されることを、巧みなCGパースを使って表現した。
これまでのコンペで培った二人が持つノウハウを惜しみなく投入することによって、晴れてコンペ当選を果たした。
広がり、高さ、平面のシナジーで
地域を再生する。
本プロジェクトにおける設計の中心人物の宮島は、広大な芝生広場を含めた開放的な景観が最大限生かせるよう、テナントが入る建物の高さは地上2階以下に抑え、開放的なテラスと庇をもつ木造建築とした。さらに建物の周囲を既存の樹木を活かした緑でゆるやかに包み、低層かつ緑に向かって平面的な広がりを意識したアプローチで設計・施工を進めていった。その結果「広がり」だけではなく、背景にそびえるあべのハルカスの「高さ」と公園の「平面」、互いの特徴が際立ったことで景観のシナジーも生まれた。
さらに、所々に動物を象った案内標識やアーティスティックなオブジェを設置。これは、訪問客に対して近隣に天王寺動物園や大阪市立美術館があることを意識づけ、相互の往来を促すための試みである。
周辺エリアとのつながりまで視野に入れた設計・施工によって、かつて都市としての機能を停止していたエリアは着実に息を吹き返しつつあった。
竣工を間近に控えた現場ではランドスケープを仕上げる工程が待っていた。橋岡はコンペ提案時に地域の人々が新しい公園に愛着を持ってもらうよう、地域の人々に芝生を貼ってもらうイベントを提案していた。当日は雨がしとしと降る天候だったにもかかわらず、多くの子どもたちが一生懸命芝生を貼る姿が見られた。この様子はメディアにも取り上げられ、地域の人々もオープンに期待を高め、プロジェクトは着実に完成に近づきつつあった。
新しい公園のあり方を示した
「てんしば」。
2015年秋、いよいよ「てんしば」がオープンを迎えた。オープン当日やはり近隣の小学生を招待したところ、子どもたちは式典ムードそっちのけで新しい芝生広場の上を走り回り、転がり出し、追いかけごっこを始めた。それは、以前の天王寺公園では全く見られなかった自由奔放な子どもたちの姿。橋岡も宮島もこの生まれ変わった公園に、自分たちの想像以上のポテンシャルがあることを実感した瞬間であった。
開業後は以前の入場者数の3倍を超えるペースで入場者数が増加、またソーシャルネットワーク上でも圧倒的な高評価、各地の自治体やディベロッパーが視察に来るなど、てんしばは新しい公園のあり方を示すことに成功し、グッドデザイン賞金賞を受賞するに至った。今日ではてんしばモデルを追随するように都市公園法が改正され、全国で公園再生のプロジェクトが進められている。
橋岡と宮島は今またそれぞれ立場で都市空間の再生や活性化に関わり、「てんしば」的な革新的なプロジェクトを創出すべく、日々の仕事で提案活動を続けている。