中央大学は8学部・約30,000人の学生を擁し、多摩や後楽園などにキャンパスを持つ総合大学です。
豊かな自然環境を活かした「グローバルキャンパス」を目指す多摩キャンパス再整備事業の一環として、本計画では学部の枠組みを超えた共用を可能にし、多様な学修ニーズに応える新たな学びの場が求められました。
キャンパスの新たな顔として、その玄関口にて「森のキャンパス」をコンセプトに、自然に調和し、学修や交流の拠点となる環境配慮型教育施設を計画しました。
あらゆる『知』を集合・発信する空間
トップライトから木漏れ日のような光が降り注ぐアトリウムの「フォレストプラザ」は木のぬくもりが感じられる居心地のよい半屋外的な空間で、集う人々の偶然の出会いや交流、自発的な学びを促します。
青空の見える半開放の階段状空間「シアター」はガラスや音響反射板による音の制御、カーテンによる緩やかな視線制御、階段の各段から放出される空調により機能的で快適な空間を実現し、自習や協働学習、プレゼンテーションの場として活発に利用されています。
つながりをもって配置されたそれぞれの空間は人々や知をつなぎ、能動的でアジャイルな学びを可能にします。
快適性と省エネルギーの両立
アトリウムでは直射日光を制御し「温熱快適性」を維持しながらも、他方では青空が見え、光りが降り注ぐ「開放感」を最大化するという、相反する事象の最適化が求められました。
数千万通りを超える超高解像度の温熱・光・気流環境シミュレーションを実施し、開放的で快適なアトリウムを実現しています。
シミュレーションはVR(Virtual Reality)技術を用いて可視化し、建築主と共に検証しました。
トップライト遮蔽や庇、人の行動に合わせた空調など、建築・設備の一体的な環境配慮計画によりZEB Ready認証※を取得しています。
- ZEB Ready認証施設:基準一次エネルギー(加工されずに供給される石油などのエネルギー)消費量から50%以上の削減を達成した建築物。
温熱・光環境はアクティビティに応じてきめ細やかに設計しています。
建物内に設置したデジタルサイネージで現在のエネルギー使用量をリアルタイムに可視化し、学生の環境意識を高めます。
資源循環を体験的に学ぶ ~学生参加による木の伐採と伐採木の新棟適用~
本建設事業を環境教育の一環としても位置付け、資源循環の学びを自分事化できるように計画しました。
学生が森林と資源循環について学んだ後に実際に多摩の森に入って木を伐採するワークショップを開催し、伐採した木はアトリウムトップライトの補剛材や、オーダーメイド家具である長椅子として、当施設に設置しています。
「対面」の安心を守る ~感染症対策~
新型コロナウィルス感染症の蔓延によるキャンパスの入構制限、オンライン授業の進展などを経て、大学キャンパスでは改めて、リアルに人々が対面で集い、学び合う事の価値が顕在化しつつあります。
感染症に備え、安心して人々が集えるよう、350席を擁するホールでは座席配色を工夫しました。特定の色に着席することで、2mや1mのソーシャルディスタンスを自然に確保できる設計としています。(特許出願中)
2021年2月にFOREST GATEWAY CHUOが竹中工務店様のご協力の元、晴れて竣工を迎えた。
多摩キャンパスでは2000年1月の多摩都市モノレールの開通により、キャンパスの動線が劇的に変化し、かつてはキャンパスの裏側であったエリアが、一瞬にして、訪れる人にとって初めて目にする、いわば顔となった。そこには、多摩移転時の計画においては、学生にとっては知る必要のないインフラの中枢「エネルギーセンター」が配置されており、結果としてキャンパス計画と現実が調和していないもどかしさが生じていた。
一方、2015年に中長期事業計画を策定し、多摩と都心の二大キャンパス体制の形成を謳い、多摩キャンパスは緑豊かで施設設備の整ったグローバルキャンパスを目指すこととしていた。特にモノレール駅付近は、学修支援に加えダイバーシティ・グローバルゾーンと位置づけて、駅前からキャンパス全体に拡がる活性化を期待するエリアとした。
そこで本建物の事業計画ではその「もどかしさ」の解消と新しい時代の顔となる建物が求められた。本事業計画を遂行するために、エネルギーセンターの一部を減築した上で、「稼働させながら増築する」ことや周囲動線である「ペデストリアンデッキとのシームレスな接続」という難易度の高い条件・制約の上での自由でユニークな発想を募るという観点から、基本計画に基づく技術提案型設計施工提案方式を採用した。
本学が計画に求めた、当該エリアのポテンシャルを最大化するという要求に対して、エリアの中心となる建物として、外観上のインパクトやPR性、ゲート性、話題性は抜群であり、期待以上の提案で応えてくださった。
また、既存キャンパスの軸線を意識したプランニングであり、かつ中央に大きな吹き抜け空間を計画し、教場間の連動が期待できるようなフレキシビリティ・視認性が確保された計画や、建物全体的に木質仕上げによる温かみのある学修環境を提案頂いた点は、これまでにない新しい教場として学内外に対して誇らしい建物となっている。
さらに、最先端のコンピュテーショナルデザインを駆使したトップライトの日射遮蔽パネルの配置により、最適な温熱環境を緻密に計画したり、燃エンウッドをふんだんに採用するなど、環境配慮への意思を示す建築は、SDGsに取り組む本学の姿勢と調和する。
建設期間中に地球規模での新型コロナウイルス感染症が蔓延してしまい、キャンパスの入構制限、オンライン授業の普及など、世の中の大学の教育環境が激変する中、当初設計にはなかった提案も数多くいただいた。中でもアルゴリズム解析に基づき自動的にソーシャルディスタンスの確保可能となる多目的ホールの座席配色は、非常にユニークなものとして採用し、結果、学内外の話題を集めている。
施工チームにおいても、極めて短工期であり、さらにコロナ禍における大きな制約があるにもかかわらず、本学の意向を可能な限り反映できるよう決定のリードタイムをとるための工夫をしていただき、常に付加価値の上がる対応をいただいた。
FOREST GATEWAY CHUOを、本学の目指す教育の形の1つとして、今後も広くアピールしていきたい。
(2022年11月)
建 築 地 | 東京都八王子市 |
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建 築 主 | 学校法人 中央大学 |
用 途 | 大学(演習室、ホール、ラーニングコモンズ等) |
階 数 | 地上6階 |
延床面積 | 14,704㎡(新築部12,718㎡+既存部1,986㎡) |
構 造 | 鉄骨造、一部木造 |
工 期 | 2019年12月~2021年2月 |
受 賞 | ウッドデザイン賞2021、 日本空間デザイン賞2021 他 |