名古屋大学豊田講堂
モダニズム建築の保存と再生
- 修復保存:コンクリート打放の意匠の保存再生
- 機能強化:ホールの機能性と快適性の改善
- 機能拡充:隣接施設を連結する複合施設化
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大学の象徴である豊田講堂
1960年、豊田講堂は大学を象徴するキャンパス軸の正面に、トヨタ自動車工業の寄付・槇文彦の設計により建設され、日本のモダニズム建築の一つとしても有名です。竣工以来、入学式・卒業式はもとより、コンサートやノーベル賞受賞者による講演などを開催し、地域に開かれた施設として利用されています。
名古屋大学は2001年、市民交流の拠点とする「芸術文化プラザ構想」を発表。2007年、再びトヨタ自動車とグループ企業の寄付による改修工事が行われ、知の創造と交流を促す拠点として再生しました。
再生のための手法
建設当時の構想や精神を保持しながら、より豊かな空間への再生を図りました。これらは建設当時と同じ建築主、設計者、施工者による緊密なチームワークにより、実施しました。
劣化したコンクリート打放部分の意匠の保存再生
建設当時の姿の保存継承を目的に既存躯体の調査をおこない、必要な部分については、杉板本実型枠コンクリート打放しの質感を復原する「極薄コンクリート打増工法」を開発しました。
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ホールの機能性と快適性の向上
オリジナルの印象を維持しつつ木質を基調とした内装改修により落ち着いた空間としました。客席は既存座席の前後間隔を広げ、収納テーブルやLAN端子・電源を設置し機能性を向上、空調は客席下の段床部に吹出口を設けた居住域空調方式とし快適性を飛躍的に高めました。音響は、明瞭性の改善をおこない、国際会議からコンサートまで幅広い利用を可能としました。
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隣接施設の一体化による機能拡充
講堂とシンポジオン(1992年竣工)の間にアトリウムを新設して施設の一体化による機能拡充により、国際会議等における複数の会議室利用や展示・交流スペースとしての利用等、新しいニーズに応える場として再生しました。
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外壁の保存再生について
既存躯体の調査の結果、主体構造に補強の必要性はなく、課題は意匠性の高いスリムなプロポーションの維持とコンクリートの質感復原の為の杉木目転写技術に絞られました。
極薄コンクリート打増工法
雨掛り外周部に適用しました。最小打設厚さの検証と充填性の確認、ひび割れ抑制対策と耐久性確保、構造一体性の確保、杉木目転写技術の確立などの技術課題に対して、検討と試験施工を繰り返し、安定施工が可能な工法として開発しました。
表面補修仕上工法
表面劣化が少ないピロティや軒天井に適用しました。表面保護は耐久性に優れたフッ素系表面被覆工法を採用し、汚れが懸念される部分は更に光触媒によるコーティングを上塗り施工しました。
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建物概要 |
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用途 | 講堂 |
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所在地 | 愛知県名古屋市 |
竣工 | 1960年 5月 |
改修 | 2008年 1月 |
建築主 | 名古屋大学 |
設計 | 槇総合計画事務所 |
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施工 | 竹中工務店 |
建築面積 | 3,759.03㎡ |
延床面積 | 8,643.36㎡ |
構造/規模 | RC造(一部鉄骨造)/地下1階、地上3階、塔屋3階 |