特別史跡五稜郭跡内箱館奉行所庁舎復元工事
函館市により五稜郭の史跡の発掘調査が進み、箱館奉行所の建物の遺構が良好な状態で残っていることが分かり、当時の外観写真や絵図文献との整合性の検証が可能となり、1995年に復元計画が本格化しました。
五稜郭の歴史的役割を明確にするという函館市の整備事業の一環として計画され、当時の建物を当時と同じ材料を用いて、当時と同じ場所に、同じ工法で可能な限り忠実に復元することになりました。
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建物の歴史的背景
幕末の箱館開港に伴い蝦夷地(北海道)の統治、防衛、対外交渉のために徳川幕府が築造した役所建築、星形五角形の五稜郭はその奉行所を守る西洋式の要塞でした。
奉行所の建物は1864年に完成しますがその3年後大政奉還により幕府は崩壊、明治4年に明治政府により解体されました。(札幌に新築する開拓使本庁舎の建設に奉行所の木材を利用するという名目で)その間、戊辰戦争の最後の戦いとなった箱館戦争では榎本武揚や土方歳三が立て籠もり、明治政府軍とあい対した歴史上の舞台にもなった建物です。
当時の姿を忠実に再現
復元にあたって、遺構の発掘調査結果、絵図文献、古写真などから当時の建物の構造、工法、仕様などを確定し文化財保存計画協会が復元設計をまとめました。建築面積は約3,000㎡そのうち、今回復元は中心となる約1,000㎡の建物となりました。
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古写真との検証
古写真に写る外観復元上の重要部位については、実物大モックアップを作成して、同じ位置から写真をとり古写真に重ね合わせて検証を行い、復元精度の向上を図りました。
建物の高さや屋根の勾配(こうばい)、軒の反りなどは単写真解析や透視図法による解析等で割り出し、瓦の枚数を読み込むことにより、各部材の位置・大きさを確定していきました。
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当時と同じ材料・工法
施工にあたり、可能な限り当時と同じ材料を調達し、同じ工法で建てる努力をしています。柱や敷居鴨居など造作材は青森ヒバ、小屋組の桁梁などは東北地方の松材、瓦は越前瓦等当時の資材調達先の記録に基づき同じ産地から調達しました。
また、木組の継ぎ手・仕口なども大工棟梁が書き残した出来形調書に記載されている通りの種類を用いて組み上げました。
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工事の特徴
特別史跡での復元工事のため、地面下の遺構を傷めないよう盛り土養生を行い敷鉄板の上に仮設の素屋根を構築しました。
素屋根の外壁には透明の樹脂板の用い、採光と冬季の内部暖房の軽減を図りました。3万8000枚の瓦を自然な色むらを出すため4色の瓦をミックスさせて葺いています。また、左官用の荒壁土は、現場で約14カ月寝かし、練り返して作りあげられました。
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プロジェクト概要 |
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建築主 | 函館市 |
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建築地 | 北海道函館市五稜郭町1-1 |
設計監理 | (株)文化財保存計画協会 |
構造規模 | 木造 平屋建て(太鼓櫓は5層) |
延床面積 | 979㎡ |
最高高さ | 約12m、太鼓櫓約16.5m |
工期 | 2006年7月~2010年6月 |
主な仕様 | <屋根> 桟瓦葺き、太鼓櫓銅板葺き、庇屋根 柿(こけら)葺き <外壁> 下見板張 生渋塗、渋墨塗、一部漆喰塗 |