「現代の組積造」をつくる
構造設計|富士ソフト汐留ビル
FEATURES01
現代の組積造
建設地である汐留シオサイト5区「イタリア街」は、都市再開発の一環として、イタリア建築デザインを取り入れており、石畳の美しい街並みが広がります。イタリア街では、建物低層部はアーチ/中層部はポツ窓/高層部はコーニス(頂部の水平部材)の三層構成とするデザインコードが制定されており、統一感ある街並みがつくられています。
しかし、現代の建築はコルビュジェのドミノシステムを基盤としたラーメン構造を骨組みとすることが多く、イタリア街のアーチもポツ窓もあくまで装飾であり、構造体から切り離されてしまっています。そこで、私たちは、今一度、ポツ窓が生まれた原点であるファサードと構造体が一体となった「組積造」に立ち返り、建築技術が発達した現代だからこそつくれる「現代の組積造」を設計コンセプトに掲げ、プロジェクトをスタートしました。
FEATURES02
新しい組積の架構形式を生む
「現代の組積造」という設計コンセプトの下、建築・構造・設備の設計者が職能の垣根を超えて案を出し合う中でひとつのアイディアが生まれました。約2.5m角のプレキャスト壁(以下、PCa壁)を千鳥状に積層し、鉄筋を機械式継手で接合するだけで、ブレース効果により優れた水平剛性・耐力を発揮する「千鳥積層プレキャスト耐力壁」(特許出願中)という新しい架構形式です。この架構はファサードと構造体が一体として表現できるだけでなく、建設現場でのコンクリート打設を大幅に低減でき、省人化及び工期短縮を実現できると考えました。
ただ、このような新しい架構形式の構造特性は明らかになっていません。そこで、当社技術研究所と共に、構造実験及び詳細な解析により、構造特性を明らかにしていきました。1/3スケール試験体を用いた構造実験では、崩壊モードおよび弾性限界を確認し、PCa壁間の目地までもモデル化した詳細な非線形弾塑性有限要素解析から、鉄筋のダボ効果と摩擦力の影響を考慮した耐力評価式を立案し、部材設計に活用しました。
FEATURES03
超軟弱地盤のデータセンター
建設地の汐留は、江戸時代に東京湾を埋め立てて作られた場所で、超軟弱地盤の地域です。本計画では、その地に振動を嫌うデータセンターとして活用し得る建物の建設が求められました。そこで、免震構造を採用し、新たに考案した「千鳥積層プレキャスト耐力壁」の高い剛性を活かすことで、免震効果を最大限に高め、大地震時においてもデーターセンター対応フロアで水平応答加速度200gal以下とすることを目指しました。外周のアーチ柱下を鉛プラグ挿入型積層ゴム、中央のコア柱下を弾性すべり支承とし、 ねじれ抵抗を確保しつつ免震層の水平剛性を抑え、免震効果を高めることで、応答の増幅する最上階のデータセンター対応フロアにおいても、応答目標値を満足することができました。
FEATURES04
シンプルなシステムで最大の効果を得る
「千鳥積層プレキャスト耐力壁」は、高い構造性能だけでなく、建築計画・環境設計・施工計画においても多くの効果を生み出しました。PCa壁による外殻架構はオフィス空間の柱型を無くすとともに、コア 周りの耐震要素が不要となるため、スペース的に無駄の無いコアレイアウトが可能となり、フロアレンタブル比85%を達成しました。また、PCa壁を千鳥状に積層することにより生まれる開口を利用し、建屋内に光と空気を取り入れると共に高い断熱性能を確保することで、居住性と環境性能を両立させ、ZEB Ready 及び CASBEE Sランクを取得しました。「現代の組積造」という設計コンセプトは、設計者の思惑をはるかに超えて、建築・構造・設備・施工の全てをインテグレートした建築システムとして、汐留の地に結実しました。
和田 純一
小田島 暢之
三橋 幸作
田井 暢