超高層立体都市の「かたち」と「しくみ」

構造設計|あべのハルカス

FEATURES01

ハルカスの耐震グレード

震度7相当の⼤地震時の被害程度に着⽬すると、「⼀般的なビルの耐震グレード」の場合、その被害程度は⼤破、「⼀般的な超⾼層の耐震グレード」でも、中破となります。最⼤級の想定外地震動に対する検討の結果、あべのハルカスでは、⼤地震を上回る巨⼤地震に対しても⼩破でおさまり、継続使⽤が可能な状態を維持できます。
これがハルカスの耐震グレードです。

本グラフの斜めの帯は耐震グレードを、横軸は地震の⼤きさを、縦軸は建物の被害程度を表しています。対象とする地震の⼤きさを決め、そこから耐震グレードに向かって引いた線と交わるポイントから建物の「被害の程度」が想定されます。

地震グレード表

FEATURES02

最⼤級の想定外地震を考える

60mを超える超⾼層建物は、稀に発⽣する地震動(中地震動:年に数度は経験することが予想されるレベル)、極めて稀に発⽣する地震動(⼤地震動:安全上検討が必要な最⼤級のレベル)の2種類の地震動に対して時刻歴応答解析(*1)による安全性検討が必要となります。
⾼さ300mと、⽇本で初めてのスーパートールビルとなるあべのハルカスでは、設計⽤の最⼤地震動の⼤きさは、極めて稀に発⽣する地震動の1.5倍程度で⼗分か、地震動の特性は、建設地の特性を考慮した海溝型地震動と直下型地震動だけで⼗分か、と検討を重ね、その結果「故意に最⼤級の想定外地震動」を作成して検証することとしました。

*1 時間ともに変化する地盤の揺れ(地震動)による建物の揺れを解析により求めること

 

下図は速度応答スペクトルと呼ばれ、⾊々な固有周期(建物が揺れやすい周期)をもつ様々な建物に対して地震動がどの程度揺れの強さ(応答)を⽣じさせるかを⽰したものです。横軸に固有周期、縦軸に揺れの強さを、速度を評価量として⽰しています。

速度応答スペクトルル

海溝型地震動である、発生確率の高いの東南海・南海地震動(南海トラフ地震動)の加速度応答スペクトルのピークを、意図的に建物の一次固有周期(5.6秒)に合わせた共振型の東南海・南海地震動を作成し、解析的検討を行いました。
さらに東南海・南海地震に加え、東海地震・日向灘地震が連動した4連動地震など、最大級の想定外地震動を作成し、追加で安全性の検討を行いました。

共振型の東南海・南海地震動の加速度応答スペクトル

四連動地震の震源域

直下型地震動は、敷地から約900mに位置する上町断層を対象としました。「大阪府自然災害総合防災対策検討(地震被害想定)報告書(平成19年)」に示される断層モデルを用い、断層帯全長が動くことを前提に、アスペリティ(*2)は建設地直下と南北に細長く設定した2ケースとしました(下図)。
さらに、左下図中に示した上町断層上の別の出力地点40地点の地震動のうち、建物の1次・2次・3次固有周期に近い卓越周期をもつ地震動(下図中の3つの算定点)を意図的に抽出し、追加で安全性の検討を行いました。

*2 プレート境界や活断層などの断層面上で、通常は強く固着していて、ある時に急激にずれて地震波を出す領域のうち、周囲に比べて特にすべり量が大きい領域

敷地直下にアスペリティ

南北に長いアスペリティ

FEATURES03

かたちとしくみが生み出す優れた空力性能

建物に強風が作用すると、建物風下側にカルマン渦(*3)が発生し、風向きと直交方向へ建物を揺らす現象が生じます。直方体形状の場合、数百年に1回程度の強風では地震と同等以上の外力となることが想定されました。あべのハルカスでは百貨店、オフィス、ホテルの大きさや形状が異なることを建物のかたちにも活かし、カルマン渦の周期を高さ方向で変化させ同時発生しないようにし、建物に作用する風の力を抑制しています。

*3 流体中(風)の個体(建物)の後方に交互にできる渦の列

直方体建物周辺のカルマン渦

あべのハルカスのカルマン渦

数百年から数十年に1回程度の稀に発生する非常に強い風への安全確保とともに、1年に数回と頻度の高い強風時の安心の実現も重要です。このような風揺れには、建物と固有周期が一致するTMD(Tuned Mass Damper)が有効ですが、高さ300mで5.6秒という長い固有周期に同調させるには、吊り長さ8.1mの巨大な振り子が必要となります。あべのハルカスでは、従来のTMDに倒立振り子を組み合わせたATMD(Active Tuned Mass Damper)を独自に開発し、2.2mの短い吊り長さで建物の固有周期と同調させています。倒立振り子型ATMDは、年に数回~数十回程度の強風時の建物短辺方向の揺れを約2分の1に低減し、強風時においてもホテルで快適に過ごすことができます。

FEATURES04

イノベーティブな架構で都市を立体化

あべのハルカスは、百貨店、オフィス、ホテルと異なる機能が積み重なるため、それぞれの用途にあわせてボイドやエレベータや階段コア周辺に主に水平力を担う部材を配置し(左図青)、メガトラス(左図赤)と組み合わせて立体的な都市の骨組みをつくっています。
高層部から順に解説します。

高層部のストラクチャ

⾼層部のホテルボイドには古代五重塔の⼼柱になぞらえた⼼棒ダンパーを設置しています。
さらに高層部と中層部の間のメインアウトリガーが高層部の変形を抑え、地震時や強風時の変形を約10%軽減しています。

高層部のストラクチャ

⾼層部のホテルボイドには古代五重塔の⼼柱になぞらえた⼼棒ダンパーを設置しています。
さらに高層部と中層部の間のメインアウトリガーが高層部の変形を抑え、地震時や強風時の変形を約10%軽減しています。

中層部のストラクチャ

中層部はオフィスボイドを外部空間化し、⾃然光や⾃然⾵を取り⼊れて環境負荷を低減しています。ボイドと2段階のサブアウトリガーが、⾮対称建物の重⼼と剛⼼を合致させるとともに、中層部の剛性を⾼めています。スーパートールビルでは珍しい⾮対称な形状は、興福寺の天燈⻤のような⼒強さを有し、外乱に対する復元性や冗⻑性を予感させます。

中層部のストラクチャ

中層部はオフィスボイドを外部空間化し、⾃然光や⾃然⾵を取り⼊れて環境負荷を低減しています。ボイドと2段階のサブアウトリガーが、⾮対称建物の重⼼と剛⼼を合致させるとともに、中層部の剛性を⾼めています。スーパートールビルでは珍しい⾮対称な形状は、興福寺の天燈⻤のような⼒強さを有し、外乱に対する復元性や冗⻑性を予感させます。

低層部のストラクチャ

百貨店が位置する低層部のエレベータコアや階段のコア周辺には、速度依存性の⾼いオイルダンパー(*4)と変形依存性の⾼い回転摩擦ダンパー(*5)を配置しています。それぞれのダンパーの最⼤減衰⼒を発揮するタイミングが異なるため、常にどちらかのダンパーが効果を発揮し、揺れを最⼩化します。

*4 建物の揺れの速度と減衰力の関係性が強いダンパー
*5 建物の揺れの幅と減衰力の関係性が強いダンパー

低層部のストラクチャ

百貨店が位置する低層部のエレベータコアや階段のコア周辺には、速度依存性の⾼いオイルダンパー(*4)と変形依存性の⾼い回転摩擦ダンパー(*5)を配置しています。それぞれのダンパーの最⼤減衰⼒を発揮するタイミングが異なるため、常にどちらかのダンパーが効果を発揮し、揺れを最⼩化します。

*4 建物の揺れの速度と減衰力の関係性が強いダンパー
*5 建物の揺れの幅と減衰力の関係性が強いダンパー

平川 恭章

佐分利 和宏

九嶋 壮一郎

小島 一高