医療スタッフのコミュニケーションを「見える化」するツールを新たに開発~チーム医療を推進する立川綜合病院新築計画で活用~

2015年1月13日
株式会社竹中工務店

竹中工務店(社長:宮下正裕)は、病院の医師や看護師など医療スタッフのコミュニケーションの発生場所や頻度を設計段階で定量的・客観的に予測し、動画で「見える化」するシミュレーションツールを開発・実用化しました。

医療現場では、近年、高度化・複雑化する医療サービスに対応するためチーム医療が主流となり、医師、看護師をはじめ薬剤師、臨床検査技師、放射線技師、栄養士、事務職員などの多職種間のコミュニケーションの重要性が増しています。チーム医療の実践の基盤となる良好な人間関係の醸成に寄与するため、予定された会議などフォーマルなコミュニケーションだけでなく、ちょっとした立ち話など偶発的に発生するインフォーマルなコミュニケーションが生まれる環境を職場内に取り入れる試みが注目を集めはじめています。

今回開発したシミュレーションツールは、「いつ」「どこで」「誰と誰が」出会うのか、「どの程度」のコミュニケーションが生まれるかなど、インフォーマルなコミュニケーションの発生を、スタッフの1日の行動実態などからシミュレーションし、動画で「見える化」するものです。お客様は、効果をビジュアルに確認できるとともに、必要に応じ複数の設計プランを比較しながら、設計を進めることができます。また、関係者の合意形成をスムーズに進めることも期待できます。

本ツールは、チーム医療を積極的に推進する立川綜合病院(新潟県長岡市)新築工事の計画段階で活用されました。中央に吹抜と階段のある“スタッフベース”を設けるプランがスタッフ間のコミュニケーション量を約20%増加させることをシミュレーションで確認し、本プランの採用が決まりました。

当社は今後、本ツールを医療施設を始め、オフィス・工場など様々な施設の設計に積極的に活用していきます。

<設計段階でコミュニケーションの発生を動画でビジュアルに予測>

コミュニケーションマップ(丸で示す部分がインフォーマルなコミュニケーションの発生場所

■新シミュレーションツールの活用フロー

  1. 1.医師、看護師などのスタッフに診察、処置、カンファレンスなどの1日のスケジュールについてアンケートを実施し、個々のスタッフの行動パターンを集積。
  2. 2.アンケートに加えて当社がこれまでの医療施設計画で培ってきたノウハウを活用し、医療スタッフのタスク毎の作業場所・時間、職種間の業務近接度などをモデル化して行動特性データを作成。
  3. 3.行動特性データや設計プランなどの各種情報をもとにシミュレーションを実施し、コミュニケーション発生の状況を動画表示。シミュレーション結果データから発生頻度や発生場所が分かるコミュニケーションマップを作成・分析。
  4. 4.複数の設計プランについて、結果を比較分析。建築計画に反映することでお客様との合意形成に役立てる。

[補足]
予測にはマルチエージェントシミュレーションという手法を活用。政策の影響や効果、避難誘導などの複雑な社会的ふるまいの解析にも応用されている手法。一定のルールに基づいて自律的に行動する複数の「エージェント」をコンピュータ上で同時に動かし、その相互作用を分析する。

■立川綜合病院における適用事例
地域の基幹病院である立川綜合病院の移転新築にあたり、建築主より、患者にやさしいだけでなく、職種間・部署間に壁がなく、スタッフが働きやすい病院をつくりたいという要望を受け、当社開発のシミュレーションツールを基本計画段階で活用しました。様々な検討案に対し、「コミュニケーションマップ」を作成し、分析・検討を重ね、新たな空間として「スタッフベース」を設置するプランを提案し採用いただきました。「スタッフベース」は、各フロアの4つの病棟の中心に、クローズドカンファレンス、オープンカンファレンス、吹抜と階段を一体で配置したスタッフのための空間です。医療の最前線から少しだけ離れたリラックスできる環境に、打合せや休憩などを目的としてスタッフが集まることで、フロアを超えた複数の病棟間でインフォーマルコミュニケーションをも活性化させることがシミュレーションにより検証されました。

■立川綜合病院概要

建築地 新潟県長岡市上条町
基本構想・基本設計 株式会社竹中工務店
実施設計・監理 竹中・長建・ワシヅ 設計共同企業体
施工 竹中・福田・中越・渡長 建設共同企業体

採用された最終プラン

断面図