日本古来の和鉄の特性を現代技術で再現した鋼材「REI‐和‐TETSU」を開発-重要文化財太宰府天満宮末社志賀社本殿の保存修理に初適用-
2023年12月11日
株式会社竹中工務店
日鉄テクノロジー株式会社
竹中工務店(社長:佐々木正人)と日鉄テクノロジー(社長:谷本進治)は共同で、江戸時代末期まで国内の木造建築に使われていた和鉄※1の特性を現代の技術で再現した鋼材「REI‐和‐TETSU(れいわてつ)」(特許出願済)を開発し、重要文化財太宰府天満宮末社志賀社本殿の保存修理工事に初適用しました。
文化財建造物の保存修理工事や伝統木造建築の復元工事では、できる限り往時を継承した技術や材料を用いること※2が求められており、和鉄を材料とする和釘※3や金物類も例外ではありません。
日本古来のたたら製鉄法※4で製造した和鉄は、錆びにくく接合が容易であるという特徴を有しており、現代鋼で代替することはできないと言われています。しかしながら、たたら製鉄法は明治時代に入って衰退し、和鉄の供給は刀剣用を中心にごく少量に限られるようになりました。このため近現代では、建築用途として入手困難な和鉄に代わり、一般構造用圧延鋼材(SS400)や鉄線などが用いられてきました。
REI‐和‐TETSUは、たたら製鉄法の成熟期である江戸時代のものを中心とした和鉄の特性を最新の科学技術で分析・評価し、その成分組成を忠実に再現した鋼材です。太宰府天満宮末社志賀社本殿では、REI‐和‐TETSUでつくった7枚の八双金具と448本の鋲釘を桟唐戸(正面扉)に、7本の力釘を高欄隅部に、9本の鋲を高欄架木に、それぞれ適用しました。
現代の鋼材に比べて鉄の純度が高く、耐食性および柔軟性に優れた特性を有する江戸時代の和鉄の特性を引き継ぎ、かつ安定供給が可能な鋼材として、主に文化財建造物の保存修理工事や伝統木造建築の復元工事での活用が期待されます。
- ※1和鉄:砂鉄と木炭を原料にたたら製鉄法によって得られた銑(ずく)・鋼・鉄の総称。
- ※2ICOMOS(International Council on Monuments and Sites国際記念物遺跡会議)「歴史的木造建造物保存のための原則」(1999)に従うこととされており、同樹種・同品質・同技術での修理が原則要件。
- ※3和釘:軸全体が角錐状で一本一本手で叩いて作られる鍛造釘。
- ※4たたら製鉄法:日本において古代から近世にかけて発展した製鉄法で、砂鉄や鉄鉱石を粘土製の炉で木炭を用いて比較的低温で還元する。純度の高い鉄を生産できる。
今後の展開
両社は今後、REI‐和‐TETSUを伝統木造建築のみならず近現代建築に広めることや、今回採用した評価分析技術を通じて鉄の多様な魅力を社会に発信することにより、日本の建築文化と伝統技術の継承および持続可能な社会の実現に貢献していきます。
開発の経緯と概要
REI-和-TETSUは、これまでに培った伝統木造建築の設計・施工に関する知見を元に、2020年1月から2022年12月にかけて企画、開発および活用検討を行いました。
- ・独立行政法人 国立文化財機構 東京文化財研究所および公益財団法人 文化財建造物保存技術協会の協力のもと、国庫補助事業として近年修理された国指定重要文化財である阿蘇神社(熊本県)、井上家住宅(岡山県)、金野諏訪社(長野県)、名草神社(兵庫県)、榛名神社(群馬県)より、江戸時代を中心とした製造年代を特定できる和釘をご提供頂きました。
- ・材料・腐食・製鋼・分析の専門家からなるプロジェクトチームを結成し、入手した和釘の成分組成を原料や製造方法の新たな視点から詳細に評価分析しました。この結果、和鉄から作られた和釘は、表面を覆う錆が木材の中で使用年数とともに強固な酸化皮膜を形成し、内部の鉄を保護して錆の進行を抑えていたことが分かりました。(図1)また、極微量のニッケル等が耐食性に影響することも明らかとなりました。
- ・得られた分析結果に基づき、和鉄の成分組成をほぼ踏襲しつつ微調整を加えた現代の製鋼技術による新たな和鉄、REI‐和‐TETSUを開発しました。
太宰府天満宮様のコメント
此度、竹中工務店様と日鉄テクノロジー様により開発されたREI-和-TETSUという画期的な素材の初の採用場所として、太宰府天満宮末社志賀社を選定いただいたことを光栄に存じます。現代において、木造建造物の維持管理は、ますます困難になっております。そのような状況下で、伝統とテクノロジーの融合を経て生まれた新技術により、建物をより良い形で未来へ引き継いでいけることは、とても有意義なことです。
このREI-和-TETSUが、今後様々な文化財建造物保存において、大いに活用されることを心より願っております。