気候変動シナリオに基づいた建物計画用の将来気象データ「Met.box」を開発気象・社会の将来変化を中長期的に予測し、建物計画をライフサイクルで評価

2024年7月24日
株式会社竹中工務店

竹中工務店(社長:佐々木正人)は、九州大学、エクセター大学※1、ウェザーニューズと共同で、建物計画用の将来気象データ「Met.box(メットボックス、Meteorological dataset Based On Climate Change Scenario)」を開発しました。
気候変動が進む中、これまで一般的だった過去観測値に基づいた建物計画から、将来予測値に基づいた建物計画への変容が求められています。当社はMet.boxを使用することで、気候変動の緩和・適応・レジリエンスの3つの観点で、お客様の新築・既存改修等の建物計画を評価し、温熱的快適性・エネルギー性能、安全性などに優れた付加価値の高い建物を提案します。また、当社だけでなく社会全体で気候変動対策をしていくことが重要であると考え、「Met.box」の一部のデータを公開します。
当社は今後、気候変動や社会システムの脱炭素化などの将来変化を独自に、かつ中長期的に予測し、所有建物や建物計画について運用開始から解体に至るまでのライフサイクルで評価していきます。

  • ※1イギリスのエクセター大学気候変動科学科教授Matt Collinsと同大学上級講師Mat Eames
Met.boxを仕様した建物計画の気候変動シナリオ動き

「Met.box」の特長

「Met.box」は将来の気象データを集めたもので、標準的な気温や湿度等のデータと、熱波や豪雨といった数十年に一度発生する極端現象のデータが含まれます。標準的な現象のデータは建物の年間のエネルギー消費量・CO2排出量・快適性の評価に使用し、極端現象のデータは熱波・豪雨等の建物へのリスク評価に使用します。それぞれのデータが、気候変動とその対策に関する科学的な知見を提供しているIPCC※2が定義した気候変動シナリオに基づいており、2090年までの変化を予測しています。データは日本全国の約840地点※3を網羅しています。

  • ※2国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
  • ※3気象庁地域気象観測所に対応

・気候変動の緩和(Mitigation):温室効果ガスの排出削減と吸収
建物運用時の実態に沿ったCO2排出量を評価し、脱炭素目標を達成する建物計画を提案

気候の将来変化を予測するために、IPCCによりいくつかの気候変動シナリオが定義されています。過去の気象観測値に基づいた建物計画では、気候変動を考慮できず、経年変化する建物運用時のCO2排出量を正しく評価できません。信頼性の高い気候変動シナリオに基づくことで、建物運用時の実態に沿ったCO2排出量を評価することができます※4

将来の建物運用時の実態に沿ったCO2排出量評価

・気候変動への適応(Adaptation):既に起こりつつある気候変動による被害の回避・軽減
気候変動による建物設備への影響を評価し、適応性の高い建物計画を提案

気候変動に伴う気温や湿度等の変化により、建物の熱負荷は変化します。過去の気象観測値に基づいた建物計画では、その将来変化を予測できず、建物設備が気候変動に適応できない可能性があります。気候変動による将来変化を予測しておくことで、空調機器の選定や増設用スペースの確保、必要な外皮性能などを評価することができます※4

将来の気温・湿度等の変化への適応性が高い建物計画

・気候変動へのレジリエンス(Resilience):気候変動に強く、影響を受けにくい建物を構築
気候変動リスクを評価し、極端現象に対する事業継続計画を提案

気候変動により、熱波や台風、豪雨、豪雪などの極端現象が激化すると言われています。過去の気象観測値に基づいた事業継続計画では、過去にないレベルの極端現象が起こる可能性を予測できません。このような気候変動リスクを適切に評価することで、想定外の被害を軽減することができます。

将来の極端現象による気候変動リスクの評価
  • ※4ZEB設計ツール「ZEBIA」と連携させて各種評価を行います

公開について

気候変動シナリオ数・予測期間・地点数の観点で、建物設計のライフサイクル評価に適した将来気象データは、一般に入手可能ではありません。当社は社会の気候変動対策に貢献することを目的とし、「Met.box」やその分析結果を広く公開します。今後の開発と活用に対し、様々な方との連携や協業を目指しています。