竹中の人
人と生きものが共生できる
まちをつくりたい
北野 雅人
Kitano Masato
技術研究所(2021年4月掲載当時)
北野 雅人
私の研究員としての原点は
「希少な野生動物を保全する」こと

自然豊かな福島で生まれ育った私は、子どものころから生きものに興味がありました。絶滅の危機に瀕した野生動物を守るための研究がしたいという想いから大学では農学部に入り、大学院では生態学を専攻しました。そのころ、国の天然記念物に指定されているオジロワシが、風力発電用風車の羽根に衝突するという事故が発生していました。

北海道にある約40基の風車を1年半かけて調査したところ、ここだけで1年あたり推定100羽以上の鳥が事故にあっており、特に海から切り立った崖のすぐ上にある風車で多く発生していることがわかりました。上昇気流が発生する崖は、ワシやタカなど猛禽類の移動ルートである一方、必ずしも発電効率はよくありません。サステナブル社会の実現には再生可能エネルギーの推進が不可欠ですが、やみくもに発電所を建てると生態系に悪影響を与えてしまいます。データを集め、現状を知ることが、人と生きものの共生を図る第一歩になると感じました。

就職するか、大学の博士課程に進学するか。自らの進路を考え始めたころ、所属していた研究室の先輩で後に上長となる人からの勧めもあり、2009年に当社に入社しました。まさか建設会社で働くとは想像していませんでしたが、生態学を学んだからこそ建設会社でできることや必要とされることもあると思い、入社を決めました。

オジロワシ

オジロワシ

空気でハトやカラスが建物にとまるのを防ぐ技術
「TORINIX®」を開発

1年間の新社員教育を経て、技術研究所に配属されましたが、当初は食品工場などに害虫を寄せ付けない「防虫エンジニアリング」の技術開発に携わる予定でした。

研究員としてプロジェクトを支援するなか、マンションやオフィスビルでハトやカラスの糞害などを防ぎたいというニーズが多いことを知りました。そこで、屋上外周部などにとまろうとするハトやカラスを、美観が悪くなったり鳥を傷つけたりする可能性のあるスパイクなどを使わずに、空気で驚かせてとまるのを防ぐ「TORINIX」という技術を開発しました。単なるコンサルティングに終わらず、具体的なソリューションを提供できるのが当社の強みです。

スパイクの使用例

スパイクの使用例

TORINIXの設置例と作動時のイメージ

TORINIXの設置例と作動時のイメージ

鳥の「飛来予測モデル」をつくり
提案に数字的な裏付けを

2013年ごろ、こちらもプロジェクトを支援するなかで、緑地計画に生物多様性の概念を盛り込みたいという潜在的なニーズがあると感じました。そこで、都市における生物多様性の指標のひとつである、鳥を外構の緑地に呼び寄せるための研究にも着手しました。さまざまな鳥に利用される緑地にするには、単に緑地面積を確保するだけでなく、餌になる実をつける木を選んだり、高木と低木で樹木の階層構造を作りこんだり、目標とする種に適した生息環境を整備することが必要です。

当時は、都市に生息する鳥に関する定量的な知見がほとんどなかったので、東京23区の25箇所の緑地で3年にもわたり、飛来する鳥の種や個体数などを調査しました。そこで得られたデータを統計的に解析して構築した「飛来予測モデル」を利用して、数値的な根拠をもってさまざまなプロジェクトの緑地計画を提案しました。

SDGs(※1)やESG投資(※2)への注目が集まっている昨今、お客様から生物多様性を保全する取り組みを求められることが増えてきたように感じます。

※1 2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略。
※2 「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」に積極的に取り組む企業に投資すること。

飛来予測モデルの例

飛来予測モデルの例(緑色が濃いエリアほど、多くの種を呼び寄せられる可能性があることを示す)

調査の様子

調査の様子

新たにつくった実証フィールド「調の森 SHI-RA-BE®」

2019年に竹中技術研究所内にできた「調の森 SHI-RA-BE」で、「飛来予測モデル」の精度を高めるための実証を行っています。「飛来予測モデル」をもとに、周辺に生息する鳥から呼び寄せられそうな種を選定し、それらが好む樹種を決めたり、水浴びに適した小川を作ったりしました。ヤマガラやエナガ、渓流に棲むキセキレイなど、目標としていた種が飛来しています。その美しさで「空飛ぶ宝石」とも言われるカワセミも時折見かけますが、巣をつくるための土の斜面を設けているので、繁殖してくれることを期待しています。

現在、「調の森 SHI-RA-BE」について、緑地認証の取得を目指しています。お客様の認証取得をサポートするとともに、「調の森 SHI-RA-BE」をより多くの人に知ってもらうきっかけになればと思っています。

「調の森 SHI-RA-BE」の全景

「調の森 SHI-RA-BE」の全景

「調の森 SHI-RA-BE」に飛来した鳥

「調の森 SHI-RA-BE」に飛来した鳥

身近なところに自然を増やしたい

私の目標は、人と生きものが共生できる建築や外構の緑地を通じて、豊かなまちづくりに貢献することです。木々の芽吹きや紅葉、鳥や虫の鳴き声で四季の移ろいを感じたり、身近な自然が会話のきっかけになったり、QOL(生活の質)が豊かになるという一面もあると思います。

そういった自然を身近に感じられるまちでありながら、人と生きものが互いに適度な距離を保てる環境づくりを、企業の生態学者という立場からサポートしたいと思っています。

当社は、2050年に当社事業活動のカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げるとともに、省エネルギー・ゼロエネルギービルの推進をはじめ、木造・木質建築、資源循環と廃棄物削減、生物多様性への配慮など多岐にわたる取り組みで、脱炭素社会の実現に貢献しています。

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