FUTURE URBAN WOOD ARCHITECTURE
2020年代に⼊り、都市における中⾼層⽊造「都市⽊造」が国内外に多く建てられるようになった。国内の林業を⽀えながら⼆酸化炭素排出量の削減にも役⽴つ都市⽊造の未来をコロナ禍を経た新しい⽣活様式への対応や⼈間中⼼の空間づくりとともに考え、都市⽊造の新しい“カタチ”を考える。
01都市木造の新しい"カタチ"
What is the new geometry of urban wooden architecture?
現在の都市木造建築の多くが、木部材とS・RC部材による柱・梁構造と耐力壁を併用したハイブリッド構造を用いている。柱や壁がS造やRC造に比べて太く、厚くなりがちで規模や形態、空間利用上の制約が多い。木材の軽量性や加工容易性といった利点を生かしつつ、コロナ禍を経た生活様式の変化や、より柔軟な空間利用を可能にする都市木造の新しい“カタチ”とはなんだろうか?
02技術や社会の進歩と共に変わる都市木造のカタチ
現在、中高層木造建築の意義の一つは国産材の使用量を増やすことで林業を支えることにある。まず、都市木造の事例を増やすと共に木材の使用量を増やしていく段階(STEP1)があり、その後木部材にまつわる諸技術が発展し木部材の性能を引き出しつつ、適用の範囲が拡大される。(STEP2)数十年後はこれまでの建築の構成概念を覆すようなより動的で、都市の複雑なシステムと一体化した形が現れるかもしれない。(STEP3)
Heterogeneous Hybrid Timber Structure
“木造+S造”から“木造×S造”へ
従来の柱・梁構造による木造とS造などの構造の使用部位を明確に使い分けるハイブリッドの方法(木造+S造)に対して、木材とS造を非均質に外側に配置した構造(Heterogeneous Hybrid Timber Structure )を用いる。木材の軽量性と特性を活かした架構とするとができ、内側を木材で構成する柔らかい構造とすることができる。(特許2023年1月出願済)
03多様でオープンな木造空間
1.屋内で加工、取り換えできる部材
建物の外周部をH2T構造によって強固にすることで、屋内は木部材を中心とした壁の少ないオープンな空間とすることができる。木材の軽量性や加工が容易な性質を生かしてその場で部材を交換したり、加工することで、空間の立体的なレイアウトを変更できる。
2.屋内の微気候を作り出す部材配置
外周部や床、屋根の開口の位置を立体的に調整することで、立体的な視線の抜けや空間体験、光や空気の流れを生み出す。熱容量の異なる素材を用いてダイレクトゲインや室内の温度差のばらつきを意図的に作り出し、内部の人が心地よいと感じる微気候を作る。
3.部材と一体化した家具・照明・空調設備
加工が容易な木材の特性を利用して、照明や空調などの機器を張りや壁と一体化させることで、設備機器が空間に占める割合を減らす。照明や空調吹き出し口は、内部のレイアウトの変更等に応じて配置をその都度変更することができる。
4.木部材の端材を活用した有機物の循環
建物の建設時や、改修、1や3で生じた木部材の端材を建物内の緑地や植栽部分で土とともに発酵させる。発酵によってエネルギーを生み出したり、堆肥として活用することで建物の中に有機的な循環を作り出し、都市の生態系を支える。
5.多機能な耐力壁
外周部に配置されたCLT等の耐力壁は構造部材としてだけでなく、内部への採光や眺望も考慮して配置する。耐力壁の室内に面した部分は表面を加工し、木部材を家具や設備と一体化することで内部空間の構成やインテリアと調和したものとなる。
6.柔らかなコア
外周部に壁を多く配置することで光や熱の出入りを調整して環境負荷を抑える一方で、コア部分から穏やかな光を得る。従来の密実で閉鎖的なコアと異なり、森の大樹のように人の拠り所となるような柔らかいなコアとなる。
04様々な規模や形態に対応できるハイブリッドモジュール
S造と木造の配置や割合を変えることで、様々な規模や形態、用途に応じた建物にH2T(Heterogeneous Hybrid Timber)構造を応用できる。※1さらに、都市レベルで改修や建替に応じて建物間で部材を融通したり、再利用することで都市レベルでの木部材の循環を促し、建物や都市のライフサイクルの中で木材を長く使っていくシステムを作る。(※大阪産業大 和多田研究室と共同研究中)
松岡 正明